戦うガバナンス、何を目指すか
「ガバナンスなんて関係ないよ」という人も多いと思いますが、会社を経営する上でとても大切です。
最近、大規模な破綻が話題になったFTXも、まだ全容は分からないものの、ガバナンス不全が一因と言われています。
上場企業の社外監査役、社外取締役など社外役員の重要な仕事の一つは、トップの監視です。
社長が暴走し、社内の取締役では止められないときに、取締役会での議決・発言といった法的な権限を行使することはもちろん、そこまでいかなくても社長やほかの取締役と協議するなどして、会社がおかしい方向にいかないように努力することが期待されています。
こんなとき、どうする?
そんな社外役員という仕事の難しさについて、こんなケースを一緒に考えてみてもらえませんか?
どうしますか、と言われても、これだけの情報では何とも言えない、というところでしょう。
とはいえ、もともと一人を除いて全員反対、それが賛成に回る理由も、納得したからでなく、流されている。
私だったら、反対票を投じていたかもしれません。
押し切ろうとする社長に、どうガバナンスを効かせるか?
気づかれたかもしれませんが、ヤマト運輸が宅急便を始めるときに、同じような状況でした。(細部は異なります)
実際は、取締役会で可決され、海の者とも山の者ともつかない新規事業、すなわち宅急便に大きく舵を切ることになりました。その結果はご存じのとおりで、宅配便という新しい市場を開拓し、全国の消費者にとても便利なサービスを生み出しました。
宅配便がなかったら、日数がかかったり、遠方の料金が高かったり、留守だと何度も来てくれなかったり、ずいぶん不便だったでしょう。宅配便なしに、コロナ下での暮らしはもっとつらいものになっていたはずです。
一方の既存事業は、デパートから発送される商品の運送です。かつては大きなビジネスでしたが、その後中元、歳暮の需要は激減、そもそもデパートで買い物する機会も減ってしまいます。
この既存事業からの撤退、新規事業の創出は、今から振り返れば、大正解です。
社外取締役であるあなたは、業界には詳しくありません。ビジネスのことは就任してから勉強しましたが、社内の専門家であるほかの取締役の意見を参考にすることになります。
デパート需要だけでは将来性がないため、新規事業を始めることは必要でしょう。
しかし、既存事業をすぐに縮小するのはリスクが高すぎるのでは? 既存事業を続けながら、もっと小さく始められる別の事業を探すべきでは?
悩んだ末に、取締役会で勇気を振り絞って反対意見を表明し、紛糾した末に継続検討となり、結局廃案となる。
こうして、あなたが宅急便の息の根を止めてしまっていたかもしれません。
似たような話で、ソニーのウォークマンも、社内で反対意見が多い中、創業者の一人であった盛田昭夫会長(当時)が押し切って実現させた商品でした。
家の外に音楽を持ち出す、という新しい需要に誰も自信を持てなかったのです。
ウォークマンは一つの商品なので取締役会の決議は経ていないと思いますが、あなたが社外役員で、社内の反対の声が聞こえてきたら、どうしていたでしょうか。
社外役員に期待されるガバナンス
社外役員への期待は、執行部にブレーキをかけるだけでなく、執行部が動かないときに背中を押すことも含まれています。
これが安倍首相のときに提唱された「攻めのガバナンス」です。
宅急便のように、ブレーキをかけるのも難しいですが、嫌がる社長に攻めさせることはもっと難しい。
このような難業に取り組んでおられる全国の社外役員の皆様には、頭が下がります。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。