監査マネジャーの苦悩【監査ガチ勢向け】
♪チャカチャンチャン やっとマネジャーになったと思ったら、中間管理職でした。チキショー!
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
8月24日(土)の出版記念セミナーにいただいたご質問の中で、マネジャーの役割について聞いていただいているものもありました。
ご質問への回答を考えながら、私自身のマネジャー時代を思い出しました。
※ざっくりですが、シニアマネジャーだったときも含めて「マネジャー時代」と総称しています。
※「マネージャー」と表記する監査法人も多いのですが、私の慣れの問題で「マネジャー」とさせていただきます。
🪭監査マネジャーの仕事
監査マネジャーの仕事の特徴
典型的な監査チームでは、マネジャーの上には2人のパートナーがいて、下には数名以上のシニアスタッフとスタッフがいます。
考えてみると、ピラミッド型でない、ちょっと変な組織です。
マネジャーは複数のパートナーと複数の部下との間にいて、チームをまとます。
そのため「監査チームの扇のかなめ」と言われます。
マネジャーは複数のクライアントを担当していて、クライアントごとにチームメンバーも変わりますので、かなり多くの人たちと直接連絡を取り合っています。
監査マネジャーが抱えているもの
そのために抱えるものが多く、悩み事も多い立場だと思います。
私がマネジャー時代、夜中に目が覚めて「しまった、大事なこと忘れてた、あーーーー!」と青ざめることがときどきありました。(結局、「しゃーない、明日やろ」とあきらめて、また寝るのですが)
自分が抱えているものをしっかりと掌握できていれば、こんなことは起こらないんだと思います。
実力不足をカバーするために、夜中まで仕事をしたり、土日も稼働したり。仕事量が多いこともあるのですが、いつも稼働し続けているほうが、大事なことを思い出しても、段取りできていなかった連絡が来ても、すぐに対応できます。
むしろ、休んでいると「何かとんでもないことが起こっていないか」と心配になり、気が休まりません。(これをワーカホリックと言うんでしょうね)
🪭監査マネジャーの悩み事
マネジャー時代にどんなことで「あーーーー!」となっていたのか、思い出して挙げてみます。
クライアントからの依頼やクレーム
マネジャーは、経理部門の上層部と接する機会が多く、それだけに質問や相談、さらにクレームも受けることが多くなります。
それを受けたときには「最優先でやろう!」と思うのですが、ジャグリングのように多くのことをさばいている中で、いつの間にか落としているのに気づかないことも……
そして、思い出したとき(あるいは督促を受けたとき)に「こんなに大事なことを、どうして忘れてしまったんだろう、あーーーー」と頭を抱えます。
監査の進捗
マネジャーにとって、監査がタイムリーに終えられないことは最大級の恐怖だと思います。
もちろん、クライアント側に要因があって終わらない場合は仕方ないのですが、通常はある程度は監査チームで吸収して、期限に間に合わせようとします。(逆に、クライアントに吸収していただくこともあります)
監査手続の大半は部下が実施し、調書も部下に作ってもらいますので、進捗を確かめ、うまくいっていない場合は対策を考えないといけません。
進捗がよくないのに対策していなかったり、進捗が心配なのに確かめていなかったりを思い出すと「あーーーー」となります。
部下のアサイン
事務所全体が人手不足の中で、必要な人員をアサイン(配員)するのもたいへん。
しかもどうにか確保したと思ったら、退職や病欠、不正が発覚した他の監査チームへの応援などで振出しに戻ることもしばしば。
アサインできるだろうか、アサインしたメンバーを維持できるだろうかと気苦労は絶えません。
あのアサインじゃやっぱり無理じゃないだろうか、と考え出すと「あーーーー」と…… ちょっとしつこいですね。
審査と検査
監査全体に対して審査のサインがもらえるかどうかも心配ですが、問題になりそうな個別の会計処理や監査手続があるときも心配です。アウトになってしまうと、誰かに迷惑をかけ、マネジャー自身も対応に走り回ることになります。
外部検査や内部検査に当たったときも、事前準備や検査官の質問への回答対応で、パートナーを支えないといけません。
そして、検査官は痛いところを突いてきます。ああ、あの時、もうひとがんばりしておけば…… 後悔しつつ、ダメージを小さくする方法をパートナーと一緒に考えるのです。
部下の状況
部下であるシニアスタッフやスタッフに関する悩み事も多岐にわたります。例えば…
体調:○○さんは最近体調が悪そうだが、大丈夫だろうか
能力:△△さんは難易度が高い業務をやり切ってくれるだろうか、▢▢さんはどうも伸び悩んでいるがどうすればよいのだろう
モチベーション:◇◇さんに監査チームから外れたいと言われたが、どうしたものか
パートナーの行動
私がマネジャーだったとき「パートナーは、マネジャーの言うことを聞いてくれて、余計な口出しをしない人が一番」と考えていたことを今思い出しました。
「今思い出しました」というのは、自分がパートナーだったときにはすっかり忘れていたということですw スイマセン
扇のかなめであるマネジャーは、パートナーの従順な部下を装いながら、「パートナーをどこで投入するのが効果的か」を考えています。
しかし「すぐに社長と会って説得してください!」とお願いしても、うまくやってくれるかどうかは分かりません。
逆に、最悪のタイミングで監査判断をひっくり返したりすることも。「あーーーー」
情報のインプット
目の前のことに走り回っている中で、最新の会計、開示、監査の基準に対応するためには知識をアップデートしないといけません。
何と言っても「専門家」ですしね。
しかし、そんな時間はどこにあるの???
自分自身のキャリア
同期は監査を離れている人が多数派になっています。アドバイザリー業務に異動したり、退職して企業の経理に入ったり、独立したり。
みんな、それなりに活躍しているようで、自分はこのままでいいのかなあ。パートナーになれるかどうか分からないし。かと言って監査以外に何ができるか分からないし、どうしたらいいんだろう……
そうやって悶々と不安を感じながら、日々の業務に埋没していきます。
家族
マネジャー時代は、出産や子どもの就学などイベントが多くなりがちな時期でもあります。
配偶者も会計士であれば、お互い忙しすぎてぶつかってしまう。
会計士でなければ、何にそんなに忙しいのか理解してもらえない。
マネジャーに限りませんが、家族関係の悩みも尽きません。
🪭監査マネジャーの皆さんに伝えたいこと
監査マネジャーの皆さんへ
これまで書いてきたような無数の悩みを抱えながら、日本の監査を支えていただき、ありがとうございます。それは、上場企業を中心とした日本経済を支えていただいているとも言えます。
監査マネジャーの社会への貢献は、皆さんが思っているよりもずっと大きいのです。
「じゃあ、もっと報いてくれよ」と言いたいところでしょうが、マネジャーに限らず監査に従事する職員の報酬をもっと上げつつ、働き方を正常化させることは、業界全体として取り組まないといけないことです。
私から解決策を示せず申し訳ありませんが、ここではまず、皆さんへの感謝を伝えたいと思います。
おわりに
これを読んだシニアスタッフで「マネジャーになろう」と思ってくれる人がいなくなってしまわないか、と心配になってきました。
マネジャーは、能力も体力も要求されるタフな仕事であることは間違いありません。
しかし、自分を中心に部下とパートナーを回し、さらにうまくやればパートナーをてこに事務所も動かすことのできるマネジャーという仕事は、やってみるとやりがいが大きいことは分かっていただけると思います。
監査マネジャーの皆さんが、昨日より今日、今日より明日、もっと幸せになりますように。
私のほかのnote記事も含めて、少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま