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メンタル治療の鍵 「6つのアプローチ」

前回は、精神面が身体に影響している患者への対応方法を、
機能性神経障害を例にとって紹介しました。

リハビリテーション…特に理学療法では、徒手的な介入によって対象者を治療するイメージが強いですよね。
じゃあ精神的要素が強い疾患である機能性神経障害に、果たして理学療法は有効なのでしょうか?

今日はその件について、論文から探っていきたいと思います。


機能性神経障害への理学療法に関するシステマティック・レビュー

564名の参加者を含むシステマティック・レビューでは、
理学療法の成果は有望であり、ランダム化比較試験(RCT) によるさらなる調査が必要である」
との見解が支持されています。

じゃあやってやろうじゃん、ってことで実施した結果が次の論文です。

機能性神経障害に対する理学療法のRCT


簡単に内容を紹介します。

対象

対象は、以下の条件を満たした人です。

・機能性神経障害と診断されてから6ヵ月以上経っている
・社会生活や仕事に影響するほど症状が重い約60人の対象者を2群に分けて検討
・介入群29人、対照群28人

介入方法

では、介入群では何をしたのでしょうか?

・マニュアル化された5日間のプログラムを実施
・プログラムは5日間で合計8セッション
・各セッションは45~90分

✅最初のセッションは、神経科医と理学療法士との合同診察

対象者を交えて一緒に診断情報を確認し、プログラムの目的について話し合う機会を作った。
プログラムの目的は、動作能力の維持と長期的な症状管理方法の習得であると説明。


✅各セッションには、教育、動作の再訓練、管理計画の作成が含まれた。

理学療法士と参加者は共同で、
以下の内容を考慮しながら症状のパターンを見出した。

・症状の引き金となる出来事
・併存疾患
・心理的要因
・自己中心的な注意
・症状のある運動パターンの役に立たない強化

✅参加者と理学療法士はワークブックにメモを取って以下の内容を記録した。

・個別に作成した症状処方
・機能性神経障害に関する情報
・具体的な症状管理戦略
・日々の振り返り
・個人的な自己管理計画
・症状増悪時の対応

一方で対照群はどうしたでしょうか?

対照群

☑️地元の神経理学療法サービスを紹介した。

紹介状には、
診断に関する情報、具体的な治療目標、診断や治療に関するアドバイスについてさらなる情報を得るための連絡先が記載されていた。

さて、6ヶ月後の結果はどうなったかというと…

結果

◉介入群の72%が症状が改善したと評価したのに対し、対照群では18%であった

◉症状が悪化したと感じた割合が対照群では 32%であったのに対し、介入群では3%であった

◉さまざまなアウトカムにおいて、中等度から大きな治療効果が認められた

◉介入群の全員が、治療に完全に満足した(86%)か満足した(14%)と回答した

◉介入群の全員が、もし家族や友人に同様の治療が必要であれば、このプログラムを勧める可能性が非常に高い(93%)か高い(7%)と回答した

以上、理学療法の有効性を示すデータが示されています。

機能性神経障害の平均罹病期間は5.8年と長く、
参加者は複数の症状を併発した結果として体調不良による失業率が高かったようです。

「もし介入が障害の初期に行われていれば、より効果的であった可能性がある」
と研究者たちは結論付けています。

ポジティブな結果が出た理由について研究チームは、

「介入によって患者が自分の症状を理解し、自分の動きをコントロールできるようになり、その両方が不安の軽減につながった」

という仮説を立てています。

まとめ&リハビリへの応用


機能性神経障害に対して、ひいては心理的な要因で身体症状が出ている患者さんに対して、
理学療法は有効であると言えそうです。

介入群へのアプローチ内容を見てみると、

“何が有効だったのか“
“どうすれば僕らが普段診ている患者に応用できるのか“

ぼんやりと浮かび上がってきませんか?

徒手療法など、セラピストが主体となって患者が受け身になるような介入は一切していないのがポイントになりそうな気がします。

その上で、僕が意識したいと思った点を以下に並べてみます。

①治療の内容と目的について事前に説明する

②診断名(疾患)について相手に説明する

③協力して症状のパターンを探る(運動・心理の両面)

④症状に対する具体的治療戦略とセッション毎の処方内容を伝える(増悪時の対応も含む)

⑤次のセッションで日々の振り返りを行う(良かった点、悪かった点)

⑥自己管理計画を紙面に残す

重要な点はおそらく、
認知行動療法と同じで相手に「現在の症状」をありのままに認識してもらうこと、なのではないでしょうか。


では、
TKA(人工膝関節置換術)後の遷延痛で悩んでいるAさんを例に考えてましょう。

❶ 事前説明

「現在の歩く能力を維持しつつ、なるべく痛みを減らすことを目標にしましょう」
「Aさんがご自分で膝の痛みを管理できるようになることも目指していきます」

❷病態説明

「膝の手術を受けた人の20%が、Aさんと同じような痛みを訴えると言われています」
「痛みを出していた関節はもう金属になっているので痛むことはありません」
「ただし、脳が手術前の痛みをずっと覚えていて、痛みに対する感受性が上がってしまっている状態なんです」

❸パターン分析

「どんな時に痛みが出るか、一緒に動作を確認してみましょう。立ち上がる時はどうですか?」
「1日の中で特に痛みを感じる時間帯はありますか?日中の疲れやストレスと関係はありそうでしょうか?」

❹治療戦略の提示

「今は痛みを出さない動作に絞って運動をやっていきましょう」
「脳の痛みセンサーをあまり起動させたくないので、杖を使って痛みを減らしましょう」
「同時に膝周りの神経の柔軟性を出しながら筋肉を鍛えて、組織自体も強くしていきます」

❺振り返り

「先週のリハビリ後、調子はどうでしたか?良かった所と悪かった所を教えてください」
「新しくできるようになったことはありますか?」
「どんな時が一番辛かったですか?その時どのような対処をしましたか?」

❻自己管理

「携帯の歩数計を使って、活動量とその日達成できた事を記録していきましょう」
「リハビリを進めていく中でお伝えするアドバイスを記載していってください」

こんな感じになるでしょうか。

挨拶してプラットフォームに寝かせて、世間話しながらROMエクササイズ…
みたいなルーチン治療では、絶対に達成できないプロトコルですね(笑)。

ここまで主体的に対処者に関わるのも、なかなかエネルギーがいりそうです。
でもだからこそ、効果もあるんでしょうね。


ではでは、今日はこの辺りで。

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