リハビリにおける6つの治療原則
前回は、明らかな異常がないにも関わらず身体に障害をきたす疾患、
機能性神経障害について解説しました。
脳神経内科医による診断自体が認知行動療法となる、
という点がポイントになるんでしたね。
機能性神経障害に関わらず、
僕たちが普段みる様な整形・脳疾患の患者にも応用できる重要な部分なので、実例を交えてもう一度復習してみましょう。
患者の精神面にフォーカスした6つのアプローチ
①「機能性神経障害」「機能性筋力低下」などの明確な診断名を告げ、世の中に多い疾患であることも伝える
自分が感じているストレスに名前をつけるだけで気分が少し晴れやかになる事が分かっています。
それと同じで、自分が患っている症状にしっかりとした病名があるんだ、ということを伝えるのも大事なんですね。
加えて、
「この病気に罹っているのは自分だけじゃない」という安心感を相手に与えてあげることが大切です。
変形成膝関節症を例にすると、
「50歳以上の人の2人に1人が変形性膝関節症であると言われているんですよ」
みたいに、具体的な数値を出せればなお良し、といったところでしょうか。
②神経系の構造に異常はないが、脳からの命令が身体に届いていない状態なのだと説明する
ダメなところだけを説明するのではなく、正常に機能している部分もあることを伝えて安心してもらいましょう。
整形外科疾患の場合でも同じですね。
「膝関節そのものに異常はないけれど、膝蓋下脂肪体という組織が痛みを出している状態です」
みたいな感じですね。
③神経系に器質的な障害はないのだから必ず回復すると保証する
初回の評価で痛みが完全に取れるか怪しいな…と思っても、
少し上方修正した予後予測を伝えるのが大切です。
うつ病の程度を調べる質問紙検査では、
2回目の検査で数値が悪化していた場合あえてその結果は相手に伝えません。
伝えるメリットがないからですね。
心理療法なり服薬管理なりで、効果の改善が得られた時に初めて、
「この前の検査より数値良くなりましたね」
と、ポジティブな情報を伝えます。
他の疾患でも同じですね。
必ず回復するとは言い切れない場合は、
「今より痛みは良くなりますよ」
「痺れは取れないかもしれませんが、一度に歩ける距離は間違いなく増えます」
みたいに、ポジティブな展望を相手に持たせるのが重要ですね。
自分の身体の変化を感じ取れないような内観がよろしく無い患者さんもいるので、
BBS等のバランス検査や質問紙を使用して客観的な数値を取っておくとフィードバックしやすいと思います。
④初診時に精神的問題についての質問はすべきでなく、精神的な問題だと言う必要はない
慢性疼痛や非特異的腰痛を患っている人に多いですが、
すでにどこぞの整形外科などで「骨に異常はないから、おそらくストレスが原因ですね」なんて言われているケースがあります。
よしんば本当にそうだとしても、それをわざわざ指摘するメリットはないので気をつけましょう。
⑤座位で Hoover 徴候をやらせて、力が入ることを実感してもらう
機能性精神障害の鑑別ではHoover 徴候を利用して成功体験を認知してもらいます。
では他の疾患ではどうでしょう?
「歩くと痛いけど、立ち上がりでは痛くない」
「独歩だと痛いけど、杖をつけば痛くない」
「局所的モビライゼーションをやった後は筋出力が増える」
などなど、
相手にどうやったら成功体験を与えられるかを考えるのがとても大切です。
少なくとも、
一回の治療介入中に一度は、何らかのポジティブな感情を相手に抱かせることを目標にしましょう。
⑥ できる限り次回の予約をとる
2 回目の診察で再度診断を確認し、初回の説明の効果を確認する
美容院が精算時に次回の予約を取らせるのは、その方がリピート率がいいからです。
心理学的にいうと「コミットメント」ですね。
予約を取る=店に行く
と約束した以上は、多少の不都合があっても人は約束を守るように行動します。
これを医療に応用するとどうなるでしょう?
自分は主体的に治療に参加している、という意識を相手に与えられるような声掛けを工夫してみましょう。
「一週間後に痛みがどうなったか確認したいので、日常生活の中でどんな時に膝が痛かったか次回教えてください」
「来週だと何曜日に来れますか?」
回復期病院であれば、
「また明日の11時にリハビリがあるので、今日の夜膝の調子がどうだったか教えてもらっても良いですか?」
みたいな感じでしょうか。
いかがでしょう?
徒手による技術以外にも、
患者に対する声掛けにこんなテクニックがあるのか!と僕も勉強になりました。
患者教育によって疼痛軽減(機能改善)効果がある、
という点を念頭において日々のリハビリに取り組んでいきましょう。
次回は、
機能性神経障害に対する理学療法の効果を検証した論文を2つ紹介したいと思います。
お楽しみに。
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