2020年度未踏ジュニアを振り返る
「Spaghetian - 電気と電磁石だけでCPUを自作する!(三宅PJ)」のメンターをしていた寺本です。未踏ジュニアのメンターをさせていただいて、今年で4年目になります。昨日の最終成果報告会でエモい気持ちにさせてもらったので、気持ちが冷めないうちに、今年の振り返りをしたいと思います。
今年も、本っっっ当に、楽しかった!!!!!✨✨
↑リレーだけで作られた 4bit CPU 「Spaghetian」 by @38912pataro
今回採択したプロジェクト
一言でいうと、電磁石(リレー)だけで CPU を作るという提案です。興味を持った方はぜひ記事末尾の YouTube をご覧ください。
提案当初のタイトルは「野生の CPU」というタイトルで、提案内容も含めて鮮烈なインパクトがあったのを覚えています。審査時点ですでに 1bit CPU (つまり今回の成果物のミニチュア版)を作り上げていたということもあって、設計の難易度的には作れそうだと感じましたが、4bit の CPU を3台も作り切れるのか、作っても運べるサイズに収まるか、そもそも僕にメンターが務まるのか…?など、不確定要素ばかりのスタートでした。
未踏 OB で集積回路をご専門にされている秋田先生に「超面白い子がいるんです!!」と言ってご協力をお願いしたところ、ありがたいことにご快諾いただき、未踏ジュニアのチャットサーバにもご参加いただいてコミットしていただきました。その繋がりで Maker's Night にも参加させていただいたりと、多くの方に助けていただきました。皆さんに本当に感謝しています。
専門外の提案を敢えて採択した理由については、最後の方に書いています。
ツイートがバズった
これまでになかった出来事として、いわゆる「バズ」が起きました。彼は元々ツイッタラーではなかったのですが、「自作 CPU を広めたい」という強い思いを持っていたので、採択後に Twitter を始めたのです。そしてわずか2ツイート目にして 1k favs を記録しました。知らない人からもたくさんリプが飛んできましたが、丁寧にリプしていて、彼の人間力を感じました。
その後1機目の CPU が出来た頃、突如ハイクオリティな動画をアップし、またもやバズります。実は彼のお兄さんが VFX めっちゃ強い人なので、自宅でガチな映像制作が出来るのです。兄弟合作とはアツいですね!!!
プロジェクトの終盤で2機目が完成し、ネットワークにできたときが、一番伸びました。彼のことをツイートの反響だけで評価している訳ではもちろんありませんが、ちゃんと頑張って作ったものが世間からも認められるという極めて稀な事例を観測でき、嬉しいなぁと思いました。
こいつ・・・抜けてやがる!
ちょっとした裏話ですが、成果報告会の前日に家庭訪問をしていた時のことです。個人的なポリシーで、僕が採択したクリエータの方には必ず家庭訪問(または家族で食事)をさせてもらっています。これは僕の未踏 PM だった首藤先生のメソッドを真似しています。
食事を終えて CPU の梱包をする際、手元のジャンパー線が1本抜けているのに気付きました。始めは僕が触って抜いてしまったんだと思い、「ごめんなさい。抜いちゃいました」と伝えたのですが、しばらく考え込んだ末に、彼はポツリとこう言いました。
「この線、元からどこにもつながってなかったんだと思います」
いやいやいや!wwそんなことあるかいwwと大笑いしたのも束の間、明日の成果報告会で動かなかったらどうしよう…と思うと、血の気が引きました。何度もデバッグしているうちに「この線も抜けそうになってる」「こっちのスイッチも外れた」「どこがどうなってるか分からん」…と、徐々に不穏な流れになっていきます。
明日は動画を流すしかないかな…と覚悟もしましたが、何度も動かした結果スイッチの押す順序に何かコツがあるらしいことに土壇場で気付き、とくに回路を直した訳でもないのに動くという素直に喜べない感じの結末に。正直ヒヤヒヤですが、なるようにしかならんという気持ちで当日を迎えました。
ところが、本番のデモでは完全に動作するという奇跡が起こりました。
ものづくりをする人間としては、反省すべき点もたくさんあると思います。ブレッドボードで作るにしても、運搬しやすくする工夫を施したり、線が抜けても直せるように最新の回路図をきちんと残しておくなど、出来ることは色々あったはずです。
しかし本番で成功させてくるあたり、彼は何か持ってるなぁ…と感じます。エンジニアの中でも、感性やひらめきを重視するアーティスト寄りなタイプなのかも知れません。
ちなみに、デモが失敗した場合の動画もちゃんと撮っていました。真ん中でカメラを持っているのが彼のお兄さんで、後ろの音声さんが僕です(笑)。
専門外のハードウェア系プロジェクトを採択してみて
自分の専門がウェブなので、これまではウェブやアプリ系ばかり採択していました。それ自体は悪いことではないと思っていますが、厳し目に言えば、自分の指導が正解だと思い込み、クリエータの意見を尊重できなくなる危険が高くなります。その思いが以前からあり、今回の採択を決意しました。
採択後は自分でも「CPU の創り方」を買って読んでみたり、MTG の中ではクリエータからも色々教わったりと、今までとは全く違う形のメンタリングになりました。それはどうなの?という見方もあると思いますが、結果としてクリエータの成長につながっていれば未踏ジュニアとしては成功ではないかと個人的には思っています。
物理では一度も会わないまま進行した半年間
通常未踏ジュニアでは2度の合宿を行うのですが、この情勢下でオンライン化を余儀なくされました。始めはどうなることやらと思いましたが、毎週の MTG は元々オンラインなので、やりづらさはほとんど感じませんでした。
クリエータ同士の横のつながりが生まれにくいのではないかという懸念もありましたが、チャットや SNS でコミュニケーションをとっている方もいたので、オンラインならではの問題が大きいという見方は杞憂だったのかも知れません。
実際に顔を合わせて作っているモノを見せあったり出来ないのはもどかしい気持ちもあったと思いますが、お互いの成果に対するリスペクトは昨年までと変わらずきちんと持てていたように感じます。
来年度に向けて(個人的振り返り)
そもそも来年度があるのか、あったとしても僕がメンターをさせてもらえるのかは分かりませんが(笑)、今年の経験を自分の中での転換期にしたいと思っています。
今回のように多くの人を巻き込んでプロジェクトを進めていく方法は、調整コストは発生するものの、クリエータの学びを最大化する上ではとても有効だと感じました。
未踏ジュニアのメンターは個人の裁量が非常に大きいため、メンターごとにそれぞれ違った特色があります。自分の特色は何なのか。来年は(もしあれば)5年目で節目の年なので、上手く言語化していければなと思います。
成果報告会の動画はこちらでご覧いただけます
動画の詳細欄から、個別の発表にジャンプできます。
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