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大人の寺小屋 余白 「漢詩」

大人の寺小屋 余白 は、日本文化の本質を学ぶ大人のための寺小屋です。宗教と美術について学ぶ「天」、環境と食について学ぶ「地」、私たち人間を動物から分化する文化について学ぶ「人」、3つの観点から体系的に学ぶカリキュラムが設計されています。大人とこれから大人になる人が、自分やそれを取り巻く世界について理解するための入門編の講座になります。大人の寺小屋は会員制の学校です。ご入会についての手順はこちらのHPをご参照ください。授業の詳しい内容や先のスケジュールなどは入会後に配信されます。この連載は、受講生による講座体験談をお届けいたします。 第1回は佐藤峰雄先生による漢詩の講座です。ぜひ高読ください。


午前の柔らかい光が、窓に残った昨日の雨粒たちを照らしてる。ここにくると息がしやすいと感じるのは私だけだろうか。琵琶湖に近いこの部屋は、どこか水の気配が漂っていて心地いい。悠然とした時間が流れる空間に、学びの兆しが刻々と重なり始めてる。ひとつの机を取り囲んで漢詩のテキストを広げる私たち。なんだか家族会議をしているみたいだなと思う。普段は学芸員、編集やライターをしている人、大学の教員、職人、アーティスト、会社の経営者など、学生が普段袖振り合えないような多様で異なる職歴を持った人たちがここには集っている。知らない世界を求めて分かち合おうとする人間の好奇心は、いつだって思いもよらない豊かな出会いをもたらしてくれる。

「どうですか?漢詩は作ってきましたか。」「はい、作ってきました。でも、ここの表現がしっくりきません。」「いいですね、では一度詠んでみてください。季節は春ですか?季節が決まったら、次はキーになる3文字を探すんですよ。」かつての日本人は古典に対する素養がみんなあったといいますが、現代人にはなかなかハードル高めである。それでもここに居場所を見つける人が出てくるのは、豊富な教養を柔軟に分かつことができる佐藤先生の人柄と、漢詩の「か」の字も知らなかった初学者の私たちでも、1年で漢詩が書けるようになった魔法のテキストのおかげだろう。


「なぜ僕が漢詩を教える人を制限しているかというと、自分が一緒にいたい人と残りの人生を付き合いたいからです。時間を無駄にせずに精一杯生きていくことが大切です」という先生の言葉は、今もこの身体を暖かい方角に導いてくれている。五言や七言の小さな言語世界に心情や世界を移すことは、自分と世界をはっきり見るための本質に迫る旅に繋がりそうだ。

文:谷口雄基
撮影:中村心音


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