![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155349577/rectangle_large_type_2_e849c1a6c74bab8bace82952ab611611.jpeg?width=1200)
大人の寺小屋 余白 「色感」
大人の寺小屋 余白 は、日本文化の本質を学ぶ大人のための寺小屋です。宗教と美術について学ぶ「天」、環境と食について学ぶ「地」、私たち人間を動物から分化する文化について学ぶ「人」、3つの観点から体系的に学ぶカリキュラムが設計されています。大人とこれから大人になる人が、自分やそれを取り巻く世界について理解するための入門編の講座になります。大人の寺小屋は会員制の学校です。ご入会についての手順はこちらのHPをご参照ください。授業の詳しい内容や先のスケジュールなどは入会後に配信されます。この連載は、受講生による講座体験談をお届けいたします。 今回はミヤケマイ先生の「色感」の講座です。ぜひ高読ください。
今回は美術家ミヤケマイ先生の色にまつわるワークショップの講座を受講する。色は光の屈折率が見せる蜃気楼のようなものだ。私たちは普段、人間が感知できる光の波長だけを色として認識している。マンセルやオストワルトをはじめとした近代物理学の成果として、色彩のメカニズムは明快なシステムに今日では体系づけられているけれど、私たちの身体はそれらに照らし合わせて色を感じ取っているわけではない。雨上がりに照らされた葉っぱの新緑や、黄昏時に見せる空のあわい、絶え間なく持続している波の狭間。それらは印刷の色指定などで使われるCMYKで伝達できるものではなく、においや音、質感などもはらんだ全感覚的なものとして受容される。自分が見ているものと隣の人が見ているものは、全く異なるものを見ているのかもしれない。その違いを楽しみながら、色を手がかりにして私たちの認識について迫っていく。
![](https://assets.st-note.com/img/1727069366-3Rw1mAjtu46kl7xDMndiQYrz.jpg?width=1200)
まずはじめに、葉っぱや木の枝、石や陶器の破片など、思い思いのものを選び、それらが固有に持っている色を観察し、絵の具の混色によって再現する。色を写すことで自分がどれだけたくさんの色を意識せずに見逃していたのかに気付かされる。例えば、葉っぱは緑色だと思っていても、観察を怠らずによく見てみると、燻んだ黄色や淡い朱色など実に多様な色を発見する。記号化された言葉で物事を見ていたら見つからなかった世界が、あるがままに見ることで、丁寧な観察によって開かれていく。この作業はどこか生物学者が昆虫の身体を解剖するさまと似ていると思う。多くをかき分けて固有のものに迫るとき、同時に自分の癖や趣向性、辿ってきた道や記憶に繋がる。
![](https://assets.st-note.com/img/1727069288-5MXxyWvGFsCuS9j6w4nIKUmR.jpg?width=1200)
次に、DICのカラーパレットの本の中から、自分が直感的に惹かれた色を選ぶことから始める。柔らかい色を選んでいる人、ビビッドな色で統一している人、バランス良く異なる系統の色を選んでいる人など、その人の選択の仕方や感知しやすい色の傾向を読み取ることができる。それらを自分の考えたマトリックス表の上に置いてみる。さらに、色のようになかなか言語化できないイメージを先生の指示にしたがって言葉にしてみる。この授業を受講することで、今まで意識していなかった自分が持っている色彩感覚を客観的に見つめ直すことができる上に、世界をどのように認識しているのかについて自覚することができる。光に満ちた世界に生きているのなら、それは生を讃える祝福なことだと思いたい。この身体に光を映すため、まずは自分が無意識に掛けていた色眼鏡を知ることから始めてみる。
![](https://assets.st-note.com/img/1727069349-9DUaIPEc6J8jF2sCWezOroBY.jpg?width=1200)
講師:ミヤケマイ
日本の伝統的な美術や工芸の繊細さや奥深さに独自の視点を加え、 過去・現在・未来をシームレスにつなげながら、 物事の本質や表現の普遍性を問い続ける美術家。一貫したたおやかな作風でありながら、鑑賞者の既成の価値観をゆさぶり、潜在意識に働き掛ける様な作品で高い評価を得る。 斬新でありながら懐かしさを感じさせるタイムレスな作品は、 様々なシンボルや物語が、多重構造で鑑賞者との間に独特な空間を産み出す。 媒体を問わない表現方法を用いて骨董・工芸・現代美術・デザイン、文芸など、既存の狭苦しい区分を飛び越え、 日本美術の文脈を独自の解釈と視点で伝統と革新の間を天衣無縫に往還。
文:谷口雄基
撮影:中村心音