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葉月のいろは

◇成長の兆し 〜留学弁当〜

 生徒だけでお品書き、仕入れ、仕込み、提供まで行う留学弁当。初めて自分たちだけでやってみた感想は、「島食でお弁当を完成させるのって大変...!」
その理由は食材が全ての出発点であること。例えば、 島唯一のお豆腐屋さんがお盆休みのためお豆腐を使えない。魚を仕入れている大敷も10日近くお休みで、お品書きが確定してなくても、ある程度の目処を立てて仕入れを行わなければいけない。旬の食材が限られている中、前の2回のお弁当と被らないお品書きを、というハードルもあった。

スイカ大収穫

 農家さんから立派な5玉のスイカをいただき、せっかくだからと、水菓子をスイカゼリーに変更したり、スイカの皮を使った甘酢漬けを加えたり。始めに考えていたイメージと異なるお弁当ができあがった。どうなるか分からないドキドキもありながら、だんだん予測不可能さを楽しんでいた。
 「食材が全ての始まり」から臨機応変な対応力なのか、自然に順応する考え方なのかはまだ分からないが、料理人として大切な下地が育まれている実感がある。

《出来上がった留学弁当》

 私たちの留学弁当のテーマは「郷土料理」。先生から「個性を出す」ということを言っていただき、思い入れがある縁の地の郷土料理からヒントを得て、お品書きを組み立てた。
鳥取、熊本県出身の2人とするご当地話は楽しかった。水まんじゅうを巻いている葉っぱは、なんと茗荷の葉。鳥取では、ちまきに茗荷の葉を使うらしい。ひこずりはナスとピーマンを「引きずる」ように炒めるという熊本弁からのネーミングなのだそう。おもしろい!

 私は高校時代を過ごした東北の甘辛い味噌を紫蘇で巻く「しそ巻き」が大好きで、小醤油味噌で作ってみたが、辛いという意見が多数。紫蘇巻きはお茶請けやご飯のお供として、小さくかじって食べるのだが、お弁当という提供の形で郷土料理の食べ方を伝えるのが難しいと思った。どのように食べても、美味しく食べていただけるような工夫や思いやりが必要だと、学びになった。

《留学弁当組であしらい採り》

 郷土料理はその土地の歴史や文化、習慣、食材から成り立っているものだけど、それを海士の食材でどう表現する?と考える時間は、海士のこと、地元のことを改めて見つめるきっかけになった。
食べてくださった方々もIターンや島留学生の島外から来ている人も多かったので、生まれ育った地の食文化を思い出したり、隣の人と地元話に花を咲かすお弁当の時間になっていたら嬉しい。

 島の方々が素直な意見をアンケートで答えてくださった。指摘される部分はだいたいポイントがあったけど、人それぞれ好みが違っていて、全員にストライクの”美味しい”を届けることは難しいと感じた。けれど、その中間の美味しさを目指すことが大切だといっていた先生の言葉の意味が分かった気がする。
とっても楽しかったお弁当作り。次の留学弁当が待ち遠しい🍂

《お弁当に添える手作りの竹箸作り》

◇涙の出汁巻き

 留学弁当や離島キッチンの箱膳に必ず入れる出汁巻卵。卵と出汁に醤油で味をつけて、巻くだけのシンプルな料理。なのに、思うようにできない奥の深いそれと格闘した1ヶ月だった。

 海士町、崎地区の盆踊りと2日連続で寺子屋はだし巻き卵とお団子を販売させていただいた。学校で練習をしていたものの、未利用魚のそぼろや隠岐牛のしぐれを入れて巻くのも、野外でカセットコンロを使って巻くのも初めて。

《盆踊りでの出汁巻屋さん》

 いつもお世話になっている地元の人の視線を前に、巻き鍋を持つ手は緊張で震えた。「できない」という苦手意識が一番の失敗の原因。失敗は成功のもとと言い聞かせて、夜な夜なシェアハウスで練習したりもした。

《出汁巻の猛特訓》

 出汁巻きの実演の時、先生が「自分たちにとっては何十本と巻くうちの一つでも、お客様にとってはお弁当に入っているたった一つ」と言っていた。そのたった一つを決して妥協してはいけないと痛感。
 
 ふわふわで断面のきれいな出汁巻きを巻くためには、気をつけることが山ほどある。卵液を流し入れる絶妙な温度、場所によって火の強さが微妙に違うので素早く巻き鍋を動かして、均等に火が入るようにする。巻き鍋を上にあげて遠心力で卵を返す。もう巻くの?というくらいの半熟で巻き始めることで、半熟部分が予熱で接着剤になり、層のないふんわり出汁巻きになる。何度も何度も失敗して、今のはここがよかったけど、次はここが課題と練習を繰り返す。
 お互いの巻く姿を動画で撮り合い、実際の手の動かし方を見て、改善したり、アドバイスをもらったり、、卵の黄色を見るだけでお腹いっぱいになりそうな1ヶ月だった(笑)
いまだに満足のいく出汁巻きはできていないけど、絶対にふわふわじゅわっと出汁がしみ出る美味しい出汁巻きを巻けるようになる。


◇自主企画 茶懐石


 茶道の中で、一服のお茶を楽しむためにいただく料理のことを懐石料理という。
あまり手を加えず旬の食材の持ち味を最大限に生かしたシンプルなあつらえで、ご飯、お汁、向付の御膳に始まり、酒を交えながら煮物や焼き物、八寸と続き、小休憩を挟んで濃茶、薄茶、主菓子で締めくくるコース料理。

 自主企画として、野点スタイルのお茶とお菓子をいただく会を開きたい。対象は海士に住む子どもたちと親御さん。私が茶道の魅力だと感じていることの一つ、「非日常の空間」作りに島の大自然はピッタリだと思い、青谷の防波堤、明屋海岸、船着場のいずれかの海の見える場所を会場にする。
内容としては、寺子屋で一緒に和菓子作りをしたあと、緋毛氈(ひもうせん)を敷いて、赤い野点傘(のだてかさ)をさしかけた野点会場へ移動。寺子屋の生徒よりお手本のお手前をデモンストレーションした後、子ども達にお互いにお抹茶を立ててもらう。
自ら手を動かしてお茶の文化と島の自然を体験してもらいたい。

 お茶の面白いところは、お茶会に集まる人、その日の自然は人生でたった一度きりなこと。そういう意識を持つと、吹いている風や鳴く鳥のさえずりも日の光も愛おしくなる。一期一会という言葉が生まれたのも茶道から。
いずれは離島キッチンで、寺子屋の大切にしている「その日を形にする」本格的な茶懐石を作って島の人たちを招待したい。

《野点のイメージ》

ー日時
9か10月の土日 12時〜16時

ー企画
寺子屋 (前田)

ー参加者
海士の子どもたちと親御さん
人数は要相談

ー会場候補
・明屋海岸
・船着場
・青谷の防波堤

ー準備
・黒文字(ふくぎ)菓子切り作り
・会場セッティング
・お手前の練習

ー内容
・主菓子作り
・季節の野花を使った生花
・お手前


◇夏の思い出

《防波堤&海上スイカ割り》
波でスイカはぷかぷか、みんなはふらふら
《長距離流しそうめん》
一夏分のそうめんを食べてお腹いっぱいに
《天然塩作り》
海水を火にかけること、約2時間で天然塩が完成
桜葉、梅、ビーツ、人参の葉、コーヒー、ガーリックのアレンジ塩も

(文:島食の寺子屋生徒 前田)