1月「別世界を見る」
年始休みから帰ってきた海士町は真っ白で、島を出た12月とは別世界になっていた。雪が積もることのない静岡県で生まれ育った私にとって、自宅の周りに雪があることは初めて。雪の道、雪の畑を楽しんだ。
12月25日から31日まで、お節料理の研修で「京料理 鳥米」さんにお世話になった。1つの仕事だけをしてきたので、別世界の仕事場を体験させていただくのはとても貴重な機会になった。「こんなことまで私たちがやっていいの?」と思うような調理も丁寧に教えてくださり、いろいろな仕込みを経験させていただいた。「自分の作業だけに一杯一杯になっていたらもったいない。他の人が何をしているのか見に行ったり質問したりしなきゃ、うちに来た意味がないよ。」と、お節料理の手伝いが主ではなく、しっかり自分の学びの時間にするよう声掛けしてくださった。
鳥米さんのお節料理でまず驚いたことは、品数の多さ。そしてそれがほぼ手作りされていること。そのまま使うものはかまぼこくらい。一覧表が作られ、それぞれの料理について、いつどんな仕込みをするのか書かれていた。その日の作業が一目で分かる。仕事の終わりには料理人のみんなで集まり、その表を見ながら進捗を報告し合って次の日の作業分担をしていた。
朝一番から仕事を終えるまで、鳥米さんの厨房では淡々と仕込みが進められている。膨大に思えた料理の数々が、次々に出来上がる。一品ごと表にして、丁寧に段取りを組んでいることで、多くの品数を同時進行で調理していても、落ちなく確実に仕上げていくことができるのだと思った。長年に渡り、毎年お節料理を作っている鳥米さんでも、細かに作業行程を記していることを知り、段取りの大切さを改めて感じた。
寺子屋でも分担を決めて仕込みを進める。これまでもスムーズに仕込みが進むように考えてきた。手順については成長した面があるが、時間についての見通しはまだまだ甘い。担当した作業にどのくらいの時間がかかるのか、いつまでに終わらせる必要があるのか、自分の作業スピードを把握することへの意識が高まった。
鳥米さんの厨房はとてもきれいだった。長く続くお店なので、“新しい”という意味ではない。調理台、焼台、コンロ、道具、どれも長く使われているものばかり。そのどれもが清潔に保たれ、大切に扱われていることが伝わってきた。
次々と作業される調理台も、一つのことが終わればさっと片付けて拭き上げる。次の作業がすぐに始められる。きれいで広い作業台で気持ちよく調理することができた。
すぐに片付けや掃除をすることの前に、必要以上に場所や道具を汚さないことも大切だと教わった。例えば、片方の手は汚さないことで、ボウルやバットを持ったときに汚れることがない。冷蔵庫の取っ手なども汚れない。また、ボウルやバットは汚れのある上に置かない。下に汚れがつくと他にも広がってしまう。また、作業し始める前に必要な道具を揃える。
当たり前のことなのだけれど、なかなかできていない。とりあえず始めてしまって後から必要な道具を取りに行ったり、仕上がったものを置くスペースを調理台に用意していなかったりすることがある。一つの作業についても先を見て段取りを組んで調理をしていきたい。
全体を通して、鳥米さんで最も印象に残っているのは、雰囲気の良さ。
ヒップホップ・Jポップ・Kポップの音楽が大きめの音量で流れる厨房。とにかく明るい店主の田中さん。冗談を言って大笑いしたり、お子さんとじゃれ合ったり、歌を口ずさんだり。気さくに話してくださるし、楽しそうに料理をしている。いつも余裕がある感じがした。他の料理人の方々も、自然体で仕事をしているように見えた。変に緊張したり、追い込まれて余裕がなかったりすることは全くなかった。そんな雰囲気に、居心地のよさを感じた。
段取り上手は料理上手。そして料理を楽しむ余裕まで生むのかもしれない。私も段取り上手になろう。
卒業まで残り1か月半となった。どんなに噛み締めて過ごしても、やっぱり時間が過ぎるのは早い。
散歩して、土に触れて、海士町の自然を味わう。大好きな人たちとの時間を大切にする。ここでしかできない経験を楽しむ。
(文:島食の寺子屋生徒 小松)