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挑戦と、悔しさと、盛りだくさんの学び

菱浦港を出発して、今はフェリーの中。25日から始まるおせち研修のため、本土に向かっている。
数日前に大寒波がやって来て終日フェリーが欠航していたので、たどり着けるのかな…とみんなとそわそわ話していたけれど、無事に出航できてまずはひと安心。
窓辺で冬の海を眺めながら、去年の12月に寺子屋の見学に来た日のことを思い出した。

冬の日本海とは思えないくらい晴れて穏やかだったその日は、帰りのフェリーでもデッキに出て、ずーっと小さくなっていく島を見ていた。冬の澄んだ空気の中、すっきりとした気持ちになって「やっぱりあの島で1年間学んでみたい。きっと卒業後にどんな道を進んでも、あの一年がいまの自分を作っていると思える時間になる!」と寺子屋に入塾することを決めた日。
それから1年本当にあっという間だったけれど、ひとつひとつを思い出すと、とても濃厚な時間を過ごしているなぁと思う。

▲1年前、来島見学の帰り道で見た海と島

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京都研修に向けて
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年末年始は京都の料理屋さんでの実践研修で、私は明日から31日まで辰巳屋さんのおせちづくりに、元旦と2日は鳥米さんの年始営業へ伺う予定になっている。京都で過ごすクリスマスと年越しにちょっぴりワクワクする気持ちもあるけれど、お店での実習はどんな日々になるのだろう…と想像すると、心配な気持ちがむくむくと大きくなってくる。

昨年まで勤めていた会社も、例年この時期はおせちの販売と配送で社内に緊張感が漂っていた。社長からは毎年「"100個のおせちを売る”のではなくて、"1つのおせちを100回食卓にお届けする”という気持ちで取り組んでほしい」と言われる。お祝いの席でガッカリ体験があってはいけない!と、配送業者さんで遅延が発生したときには、社員が飛行機や新幹線に乗ってご自宅まで伺ってお届け。お客さまは「わざわざありがとう」ととても喜んでくださって、そんな報告に社員はみんなホッとする。
お客さまひとりひとりにきちんと届けたい、喜んでいただきたい、というこの感覚は『届ける人』から『作る人』になった今も変わらず持っていたいな…と思う。お正月に限らずいつだってそうだけれど、私たちが提供する料理は、お客さまにとって同じ日は二度とない大切なお食事。膨大な数のおせちづくりも、ひとつずつ気を抜かずに丁寧に向き合いたい。

今回お世話になる辰巳屋さんは、今年の夏にスタッフの皆さんが研修で寺子屋にいらっしゃって、数日間一緒に過ごす機会があった。その頃の私たちは離島キッチンの実践がすでに始まっていたけれど、辰巳屋さんの段違いのスピードに圧倒された。平時にあの動きなのだから、年末の戦場おせちづくりの時はもっとすごいのだろうな…と思う。自分はついていけるのか、想像すると怖いけれど、京都の料理屋さんで働かせていただくなんてきっと二度とない機会。自分の手元に集中しつつ、全身の感覚を研ぎ澄ませて、左さんとスタッフのみなさんから、自分の課題を克服するヒントをしっかり吸収したい。

▲辰巳屋さんが寺子屋にいらっしゃった日の様子
▲9月の京都研修で辰巳屋さんに伺った際の写真
こんなに素敵なお店で働く日が本当にやってくるとは…

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留学弁当を終えて
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11月末からこの1か月は、留学弁当4回、給食のクリスマスケーキづくり、自分たちでお品書きを考える会席と予定がぎっしり…お品書き案の作成とすり合わせ、レシピの書き起こし、試作、食材の発注、段取りと頭もフル稼働の日々だった。そんな怒涛の日々を終えた今の感想は、ものすごく楽しかった!!そして「次はもっとおいしくできる、絶対おいしくするんだ」という前向きな気持ちで満タン。

8月に初めて留学弁当を作った時の一番の後悔は、冒険しなかったことだった。今回は担当する品数も多めに、ひとつひとつの料理自体も少し背伸びして新しいものに挑戦した。お弁当を食べていただいた皆さんからは、おいしかったというお声もいまいちだったというお声も含めて、たくさんの反応をいただいた。少量の試作ではうまくできたと思ったものが、本番で思い描いていた味にできなかったものもありすごく悔しかったけど、その分なぜそうなったのか、どうするべきだったのか、先生にもたくさん質問して、今回の留学弁当では盛りだくさんの学びがあった。

「今の自分の100%で作れればそれでいいんやで。今日の夜は一旦、アンケートのいい声をいっぱい見ていい気持ちで寝てください(笑)。でも2日後くらいには、もっとこうすればよかったとか、次のことが浮かんでこなあかん。俺も会席のときはそうやし。」と先生から最後にいただいた言葉は、きっと今後の料理人生を進んでいく上でとっても大事なお話。心に刻んで、お守りにしたい。

▲母屋の留学弁当
担当した料理は6つ
・柿御飯
・手揚げ稲荷寿司
・海士の塩大学芋
・紅くるり大根の金平
・里芋あんのどら焼き
・瓢玉子
手揚げのお稲荷さん成功◎
どら焼きはリベンジしたい…!

▲8人全員で作った留学弁当FINAL
一品の『豆腐揚げ饅頭 柿餡仕立て』を担当。
揚げ饅頭の食感研究と、カツオ昆布を使わない“炒り米だし”に挑戦した

▲桜風舎のみなさんの忘年会会席
八寸で3品を担当
・白波かまぼこ
・つなかけの松 椎茸甘煮
・かぶと法蓮草のこじょうゆ和え
かまぼこの成形が難しかった…!
お顔を知っているお客さまをお迎えするときは、料理を考えるのがさらに楽しい。

▲給食クリスマスケーキ
人参ケーキと豆腐クリームを試作して提案。
みんながそれぞれ持ち寄ったアイディアをぎゅぎゅっと詰め込んで、
もえちゃんが美しいケーキに仕上げてくれた^^

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2024年の振り返り
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春から月に1回のペースで書き続けてきた課題の振り返りnoteも、12月は年末らしく「2024年を振り返って、今年の漢字を選ぶ」というお題。
寺子屋に入って本当にたくさん、初めての経験と変化があった1年。ぴったりの一文字を選ぶのが難しく3日間悩んだけれど…(笑) この漢字にします!

今年の漢字
「純」:まじりけがない。ありのまま。

春の苦み、夏のみずみずしさ、秋のほっくりとした甘み、冬の滋味、だしや魚の味比べ。そんな風に、食材の“まじりけがない、そのもの”をたくさん味わった9か月でした。また、これまで社会人として働く中で学んだこともたくさんあったけれど、効率とか利益とかそういうことを全部取っ払って、自分が“純粋”に好き!と思えることだけを追いかけてじっくりと学ぶ日々は、とっても贅沢でありがたい時間でした。そして寺子屋同期のみんなは、平日も休みの日もずーっと何か作って食べている、“純粋”な食好きの人々(笑)。そんなみんなと日々一緒に過ごせて、あの日ここに来ると決意して本当によかったな…と、今じんわりと感じています。

年が明けたら、寺子屋で過ごすのは実質あと2か月。最後の卒業制作は、留学弁当FINALの反省もいかしてみんなで最高のお弁当にしたい!そのために自分ができることを日々コツコツと、この年末から準備していきたいと思います。
2025年も良い年になりますように。

(文:島食の寺子屋生徒 河野)