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6月「始まる」

 梅雨を飛び越えて夏が来たような暑さに、ユニフォームの白いポロシャツがみんな半袖になった6月。より一層お揃い感が増した気がして、うれしく眺めている。

〈6月に出会った島の植物〉 海士の花や葉でたたき染めをしてみたい。

【畑仕事が始まる】

 先月種蒔きした夏野菜。弱々しいものもあるけれど、苗になってだんだんと畑に植え付け。

 寺子屋の畑は一人一畝、それぞれ好きな野菜を育てる。私はミニトマトと万願寺唐辛子とバジルを育てている。

〈一人一畝栽培する寺子屋の畑〉

 背の高い草に覆われていたシェアハウスの庭も、腰を痛めながら何とか畑に変えた。こちらには種から育てるモロヘイヤ、空芯菜、ツルムラサキ。柿谷商店のお母さん(ふみちゃん)に苗をいただいたミニトマト、ナス、ピーマン。

 畑デビューした野菜たちを見るため、毎朝の日課は、散歩から畑仕事に変わった。太陽の下で過ごし、土と緑に触れて汗を掻くのはとても気持ちがいいし、楽しい。

 野菜たちは、葉が増えたり花が咲いたりする一方、鳥や虫の被害を受けることも。雨の後には草が増えて地面を覆う勢い。

 一喜一憂しながらの毎日。野菜はすぐには大きくならないし、順調に生長するものばかりではない。食べられるようになるまで、時間も手間も必要。苦労と喜びを身をもって知ることになりそうだ。

 海士町には「しゃん山」という言葉がある。「私の畑」という意味をもつ方言で、家の前の畑、家庭菜園のことを言う。多くの家が「しゃん山」をもち、いろいろな種類の野菜を育てている。

 私のお手本は、柿谷商店さんのしゃん山。ブロックに囲まれた小さな花壇のようなスペースに、紫蘇や雪の下、トマトやキュウリなどが所狭しと植えられている。どの野菜も青々と元気いっぱいに生長している。

 私も、海士の人のすてきな習慣を真似して、好きな野菜が家のすぐそばで採れる「しゃん山」のある生活をしたい。

〈シェアハウスのしゃん山〉

野菜を収穫する日が待ち遠しい。みんなで夏野菜の会をするのが目標。

【料理が始まる】

 6月は「離島キッチン海士」の予約が増え、本格的に料理が始まった。昼の箱膳は14品、夜の会席は20品以上になる。仕入れる物や仕込みの作業は多岐に渡る。
 
 島の食材のみを使う寺子屋。準備は、生産者さんを回って食材を仕入れたり、畑で収穫させていただいたりするところから。魚や烏賊は港へ行き、船から水揚げされたばかりのものを買う。調理に使う水は自分たちで汲む湧き水。野山に入ってとった桜の花や葉、筍、山椒、野苺、梅なども食材の一つ。
 
 徹底して“島食”の寺子屋。今、ここにあるものを使う。出会う食材はどれも新鮮で旬のものばかり。

〈箱膳や会席に使われる食材の一部〉

 そのときある食材から料理を考え、組み立てていく先生。ホワイトボードにお品書きと使う食材が書かれる。食材をフルに使い、味や彩りのバランスも考えられている。

 役割分担して取り掛かるけれど、「もぼし?砧巻き?」知らない食材や料理名で、出来上がりの形も味も想像できない。インターネットで調べても、一般的なものと島食バージョンのものは違う。

 先生に分量や手順を教わりながら調理していく。先生は最低限の説明とお手本で、自分たちでやることを大切にしてくれる。

 調理が進むにつれて、どんな料理なのかが見えてくる。おいしい日本料理になっていく。そして季節感のある美しい盛り付けがなされる。自分で作って自分が驚くのはおかしな話だけれど、毎回サプライズで感動がある。

〈離島キッチン海士・夜の会席料理〉

 生産する人や場所、自然から食材を受け取り、食べる人に繋ぐような料理人になりたい。そう思って島食の寺子屋を選んだ。 「離島キッチン海士」が始まって、自分の目標の具体が見え始めた気がする。目指すものは、今の自分からは遠いことも分かり始めた。

 寺子屋で学ぶ1年間で、目標に近づきたい。そのために、やるべきこと、身に付けることはたくさんある。

 まずは7月にできること。
・先生に教わることをよく見て、考えて、丁寧に行う。
・情報を整理する。次に活かす。
・優先順位や効率を自分たちで考えて仕込みを進める。
・旬を知る。
・季節のことを知る。

 今できることを一つずつ。
 自分で自分を更新していこう。

〈20年ぶりくらいの学業御守〉 好きなことを学ぶって幸せだ。

(文:島食の寺子屋生徒 小松)