『五等分の花嫁』へのキモチ〜二乃の場合〜
今回は次女の二乃について映画『五等分の花嫁』を中心にその魅力を語っていきたい。
前回の一花の場合は↓から。
シーズン1の二乃は、家庭教師のフータローを一番拒否していた。彼に対する厳しい言葉を始めとして、今思うと「さすがに拒否しすぎじゃない......?」と思うくらいに距離がある。ただ、それも五つ子の輪を乱されたくないという思いがあってのことなのだ。シーズン2では、そんな距離感がグッと縮まる。些細な出来事がきっかけとなり、実はフータローが好きなんじゃないかという事に気が付き、五つ子の中で誰よりも早く彼に好きだと告げる。一花曰く「恋の暴走列車」と言わんばかりの二乃のアプローチは凄いので、7話以降は必見だ。
シーズン1から2にかけて、大嫌いだったフータローを好きになったというのが二乃の一番の変化だろう。五つ子との関係性やフータローへの恋心を通じて、二乃の誰かを想う気持ちの強さもよく伝わってくる。今回の映画でもその想いの強さは随所で輝いている。ただ、それはフータローへの恋心よりかは義理の父・マルオとの家族愛を描く事に注力されていると感じた。
そんな五つ子とマルオの出会いは、彼女たちの亡き母親・零奈がきっかけだ。彼女はとある病で亡くなっているのだが、その担当医がマルオだった。自分が亡くなった後の五つ子たちが心配という彼女の想いを汲み、彼は五つ子を引き取る事になる。立派なマンションでの生活環境を提供するなど、引き受けた以上は生活に不自由のないようにしたいという父親としての責任感は十分に伝わってくる。だが、その親子関係はどこかぎこちない。
そんな微妙な親子関係は映画の中で二乃の言動に顕著に現れている。仕事で家をほとんど不在にしており、何を考えているか分からないマルオを「あの人」と呼び、「影でコソコソしている」とイマイチ信頼しきれない様子を見せる。だが、そんな関係性も映画を通じてちゃんと解消されていく。
そんな解決のきっかけになるのが、文化祭の出し物として登場するパンケーキだ。このパンケーキが五つ子とマルオを家族として結びつけていると考えている。
物語の中では三玖の提案もあり、文化祭で出店する食べ物としてパンケーキを出店する事になる。そんな提案をした三玖に対して、「どうしてパンケーキを選んだのよ」と二乃は問いかける。料理上手な二乃ではあるが、初めてチャレンジした料理がこのパンケーキであり、今でもたまに失敗すると話す。そういう事情もあり、料理が苦手な三玖を心配してこの言葉を投げかけたのだろう。でも、それ以外にも別の思惑があるのではないかと思っているが、それは追って書いていく。
文化祭の出し物も無事に決まり、その準備が進んでいく。そんな中で二乃は悩みながらもマルオを文化祭に誘おうと招待状を送る事にする。いざ文化祭がスタートしても、彼が文化祭に来てくれるかどうかでソワソワしている。実際、文化祭のオープニングアクトでは、アイドルユニットとしてステージに立つことで彼が来ていないか探そうとするし、パンケーキ屋の呼び込みでも彼が来てくれる事を期待しているような素振りも見せる。
だが、そんな文化祭も2日目終了のところまで来てしまい、肝心のマルオは文化祭に全く姿を表さないままだ。今までずっと堪えてきた気持ちもあり、二乃は自分が勇気を出して誘った事、そして願った気持ちは無駄だったと諦めてしまう。
そんな二乃に対して、フータローがいかに彼に警戒されているのか、でもその裏には親として子供を想う愛情があるからなのだと説得する。同時に、文化祭でのインタビュー映像に彼が映っていた事から、実は文化祭に訪れていた事が判明。フータローの言葉と文化祭に来ていたという事実に説得された二乃は病院へ向かう事にする。
「恋は攻めてこそ」というように一度自分がこうだと決めたことはしっかり貫く。相手が来ないのなら、自分から行くんだという自分らしさを忘れていた事に二乃は気が付く。この台詞にはそんな彼女の想いの強さがよく表れていると思う。
病院に到着し、二乃はパンケーキをマルオに振る舞う。ここで彼は今は亡き零奈が、五つ子たちによくパンケーキを振る舞っていたという病室での会話を思い出す。
彼女はもう病気で先は長くないかもしれないけれど、退院した際にはパンケーキをご馳走させて欲しいと彼に約束する。だが、その約束は果たされないまま、彼は五つ子たちを引き取る形になる。もしもこのパンケーキの約束が実現していたら、もう少しで自然な形で五つ子の父親になれていたのかもしれない。もちろん、父親としてできることは十分にやっていたと思うのだけど、家族団欒が少なかったのが、五つ子との親子関係に微妙な距離感を生み出してしまったのかもしれない。
過去に思いを馳せるマルオに対して、二乃はパンケーキに自分の気持ちを添える。
単に文化祭に来て欲しかったというよりかは、父親として「私たち」の成長を見守って欲しかった。確かに血は繋がっていないかもしれないが、親子である事には変わりないから、もっと近くにいて欲しいのだという二乃の気持ちがこの台詞で分かる。それまでは「パパ」「あの人」と彼の事を呼んでいたのだけど、この瞬間から呼び方が「お父さん」に変わる。そんな二乃の気持ちを知り、そして約束のパンケーキを食べて、彼の気持ちも引き出されていく。
そんなマルオの言葉を聞いて、二乃の表情がパッと明るくなる。これまでぎこちなかった親子関係がようやく解消され、温かい気持ちになれるシーンだ。もしかしたら、彼自身も五つ子を引き取ったものの、どう接していいかその距離感を掴みかねていたのかもしれない。でも、パンケーキを一緒に食べるという約束があれば自然に家族で過ごす時間も作れる。彼女たちの距離が縮まっていくかはこれからだが、思い出の味が五つ子とマルオが家族団欒のきっかけになるのは間違いない。
また、二乃にとってパンケーキが初めてチャレンジしたと料理だったという意味合いも大きい。五女・五月が、亡き母親の姿勢を意識していたとするならば、二乃も思い出の味を引き継ぐ事で母親になろうとしていたのかもしれない。そういう意味でも、このパンケーキが五つ子とマルオを結び付けたと言える。
ここまで書いて、五つ子、特に二乃にとってパンケーキがいかに大事なスイーツだったのかは伝わったと思う。先ほど、三玖に対して「どうしてパンケーキを選んだのか」という問いかけに「別の思惑があるのでは?」と書いたけれど、ここまでの流れを付け足すとその想いも見えてくる。五つ子にとって思い出のパンケーキだからこそ、文化祭の出し物として振る舞う事に少し抵抗感があったのかもしれない。それは表立っては描かれないが、こういう部分にも家族を大切に想う二乃らしさが詰まっているのではないか。
ここまで映画『五等分の花嫁』における二乃の魅力について書いていきた。物語の中で、最終的に四葉を選んだフータローではあるけれど、大人になった彼もちゃんとそんな彼女の魅力に気が付いている。
他人に対して厳しい言葉を投げかける二乃なんだけど、それは誰かを思う気持ちがあるから。ついつい誤解されそうなキャラクターなのだけれど、その裏に隠れた想いの強さが魅力だ。そういう愛の深さと「恋は攻めてこそ」と積極的にアプローチする姿がやっぱり好きなのだ。
▼注釈
注1 春場ねぎ 『五等分の花嫁』12巻 2019年 講談社 p 174
注2 同上 p177
注3 同上 p182
注4 同上 p183
注5 春場ねぎ 『五等分の花嫁』12巻 2021年 講談社 p186
▼参考資料
春場ねぎ 『五等分の花嫁』フルカラー版 2021年 講談社
神保昌登監督 映画 五等分の花嫁 松岡禎丞 花澤香菜 竹達彩奈 伊藤美来 佐倉綾音 水瀬いのり出演 2022年 ポニーキャニオン
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