ソーシャル坊主起業奮闘記 #3 「起業はやめた方がええんちゃうと勧められた話」
このnoteでは、ビジネス経験のない僧侶たちが新電力会社の起業に至った物語や、いまなお悪戦苦闘し続けている様子を、取締役・霍野の視点で赤裸々に告白します。
今回は、起業に向けて一歩踏み出してしまったものの周囲に相談すると、一旦立ち止まり考え直すことを全力でお勧めしてくれた話を書き進めます。
起業の手筈も分からないなかで…
地域課題を解決するために電力を手段として事業を行うみやまパワーHD株式会社の磯部達社長(当時)とお会いし、起業に向けて大きな一歩を踏み出しはじめました。
その様子はこちら!
僕たちは起業がなんたるやを知らない、ましやてやビジネス経験もない、ただただ直感とご縁に任せた能天気な僧侶集団。さらに、これから時間をかけて準備して起業しようという雰囲気でもない。出会ったからにはやるっきゃない!とアクセル全開。
とはいえ、起業について何の知識もないので、何から初めて良いのか分からない。ネットで検索してみると、起業やチャレンジを推奨するような情報も多くある一方、「起業が失敗しないためにはアイデアを客観的に評価し、事業計画に落とし込めているかが重要」とか「起業した人のうち、1年間事業を継続できるのは約40%、さらに、5年間継続できるのは約15%程度」とか「起業を甘く考えている人が知らない怖い真実」とか、目にそらしたくなる情報も並びます。起業するための手筈については様々な情報も出てきますが、まさか新電力会社の起業ノウハウがあるはずもなく。
途方に暮れているときに、爽やかな笑顔の税理士さんの顔が思い浮かびました。あの人なら起業のプロセスをビジネス素人の僕にも丁寧に噛み砕いてくれそうだし、「電気を手段として社会的な活動に取り組む」との想いにも共感してくれるだろうし、なんなら手伝ってもくれるかも。ソーシャルビジネスに理解の深いし、前向きに背中を押してくれるはず!
こんにちは、霍野です。ご無沙汰しています。突然ですが…めっちゃ相談があります。実は、会社を立ち上げることになりました。相談にのっていただきたいのです。
事業内容はエネルギー、電気事業です。仏教界のスケールメリットを活かして、エネルギー事業に取り組み、その利益を寺院や社会貢献団体に回していく、循環型のビジネスを目指してます!僕は役員の一人として関わっています。
とはいえ、起業のためにやらねばならぬことも分からず悪戦苦闘している最中です。
また、一般社団法人か、株式会社か、NPO法人か、法人格をどれにするかも迷っています。そこらへんのアドバイスもいただきたいです。
ご相談させていただくお時間いただけないでしょうか。お忙しいところ申し訳ありませんが、なにとぞご検討のこと宜しくお願いします。
いま読み直すと、起業の手筈も整っていないにも関わらず、法人格について迷っていることに驚きます。優先順位が違うだろう…。
面倒くさそうな匂いがぷんぷんする相談にも関わらず「起業するの?突然だね(笑)。よく分からないけれど、とりあえず会って話を聞かせてよ」と、二言返事でご承諾いただき、数日後にお会いすることとなりました。
考え直した方がええんちゃうかな
お会いする場所は、大阪・梅田のグランフロントにあるコワーキングスペース。ラグジュアリーな雰囲気で、窓は一面ガラス張り。イケイケなビジネスマンたちが真剣な表情でパソコンと向かい合ったり活発な議論を交わし合っています。そんなキラキラな場に馴染めずソワソワする一方で、僕もこんなところで仕事してみたいなと想像を膨らましていると「つるのくん、おまたせ」と爽やかに声をかけられます。声の主は、税理士であり中小企業診断士の田中慎さん。会計事務所とは思えないオシャレなWEBページ。
田中さんとの出会いは、京都市ソーシャルイノベーション研究所が主催する「イノベーションキュレター塾」。社会的な課題をビジネスの手法で解決できる人材を養成する教育プログラムです。僕はこの塾に通っていて、そこで受講生のサポートをしてくれていのが田中さん。自身も卒塾生で、自らの経験を赤裸々に語りながら、受講生のもやもやを親身に聴いてくれる頼れる兄貴的存在でした。
コーヒーをおごってもらい、空いてるテーブルに座り、他愛のない話をした後に、いよいよ本題へ。しどろもどろになりがらこれまでの経緯を説明。田中さんは、丁寧に相槌をうちながら耳を傾けてくれます。
そうかそうか、なるほど、起業に向けて進みだしたんだね。寄付がついた電気って面白い発想だね。お坊さんたちが起業ってのもすごい話題性がありそう。勇気のあるチャレンジだね。
………やめた方がええんちゃう!
………えっ。朗らかな表情と明るい声とは相反する返答に戸惑いました。
僕が困惑している表情を横目に、冷静に問題点を列挙してくれる。薄利多売の新電力会社のビジネス構造、競合他社の経営が芳しくない状況、新電力会社が背負う社会的な印象、インフラ事業の責任の重大さ、借入など資金調達の難しさ。
薄々感じてはいたけど、自分たちにとって都合のよい情報しか見ようとしていなかった僕にとっては、面と向かってここまでストレートに言われると愕然とするしかありませんでした。
「新電力のビジネス構造が、薄利多売なのは分かっています。ただ、僕たちには、全国各地のお寺とのつながりがあります。確かに、僕たちはビジネスも電気も素人だけど、その可能性に注目して事業を支援してくれるパートナーとも出会いました。」
そんな僕の必死の説明にも顔色一つ変えずに耳を傾け、ワンワン泣きわめく子どもに優しく語りかけるように、ゆっくりと言葉を紡いでくれます。
そうだね、チャレンジしようとしていることは、すごいと本当に思ってるよ。電気代の一部を寄付しながら、NPOやお寺とかの社会的な活動を応援するって、すごく魅力的。コンビニの数より多いって言われるお寺が本気で社会的な取り組みを実施できれば社会はよりよくなるかもしれない。つるのくんがやりたいって思ってることだもんね。だから、応援したい。
ただ、あまりにも、知らなすぎる。支援してくれるパートナーがいるのは心強いことかもしれないけれど、自分たちで電力や経営のことはしっかり勉強しないと。何もかもパートナーにお願いしっぱなしなのであれば、ソーシャルビジネスと言うよりも、単なる代理店でしかないよ。代理店の収益構造だと、思い描く社会的な活動を応援するような取り組みを実施するほどの財源は確保できないんじゃないかな。
私は、起業する醍醐味は経営だと思ってる。色んな経営者の方とお会いしてきたけど、確かに大変なことも多い。ただそれ以上にやりがいを感じることがある。代理店じゃもったいないよ、経営しなくっちゃ。
「色々と課題も多いあるけど、ええやん、やってみよう!」との返答を期待していたので、想定外の展開にあわあわ。あからさまに困惑する僕の表情をみて微笑みながら、最後にそっと言葉をかけてくれます。
絶対にやめた方がいいとは言わないけど、一旦立ち止まって、考え直した方がええんちゃうかな。
立ち止まってしまうのが怖くて見ないようにしていたことを荒いざらし指摘されました。とてつもなく重い荷物を背負ってるような感覚になり、頭もクラクラ。だけど、不思議とどこかホッとした気分になりながら、梅田の喧騒を歩いて帰路に着いたことを思い出します。
にも関わらず起業は止まらない
翌朝、御礼のメッセージを送るよりも先に田中さんから連絡が入っていました。昨日指摘してくれた内容の参考記事をシェアしてくれるとともに、応援してくれる一言を添えて。
なかなか厳しい現状だけど、ニッチであればこそアイデア次第でうまくいく可能性もあるね!
おそらく、田中さんに最後まで「やめた方がええんちゃう」と言われていたら、僕は起業メンバー抜けていたのかもしれません。田中さんは問題点を整理しながら、考えるべきこと、調べるべきこと、解決すべきことの宿題を一つひとつ列挙してくれました。そのおかげで、一歩ずつ先の景色が見えてきました。
田中さんに相談したのが、2018年4月24日。会社を登記したのが、2018年6月11日。起業する1ヶ月半前に、こんな内容の相談をしていたのが今となっては信じられない。なんで起業できたんだろう…(笑)。
後日談として、現在、田中さんに総務全般をフルサポートしてもらっています。日々叱咤激励をもらいながら一緒に奔走してくださっています。あのとき田中さんに相談してなかったら、今ごろどうなってんだろう…と想像すると恐ろしい。
次回は、通っていたセミナーで起業について発表すると厳しくも愛に溢れるサポートをもらった話を書き進めます。
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霍野 廣由(つるの こうゆう)
1987年福岡県生まれ。浄土真宗本願寺派覚円寺(福岡県)副住職。龍谷大学実践真宗学研究科在学時に、自死・自殺や終末医療、高齢者福祉の活動に携わるとともに、寺院活動を研究する。大学院を修了し、認定NPO法人京都自死・自殺相談センターに就職し、現在は事務局長を務める。2018年、ソーシャルグッドな新電力会社、TERA Energy株式会社を立ち上げる。相愛大学非常勤講師、浄土真宗本願寺派子ども・若者ご縁づくり推進委員など。
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