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気候変動問題をポジティブに捉え直す〜生活や文化を守るために、私たちにできる7つのアクション

はじめまして。テラエナジーの小熊広宣です。

2024年6月30日(日)、京町屋ソイコレにて「テラエナジー文化まつり2024〜ほっと資産団体と出会う一日」を開催しました。

「環境問題」、「子育て」、「孤独」をテーマにした3つのトークセッションのほか、ファンドレイザーに相談ができる「ゆったり交流ブース」、フリードリンクやスイカが用意された「縁側ブース」などをご用意。多くの方にご参加いただきました。トークセッションに耳を傾けつつ、京町屋の縁側でスイカに舌鼓をうつ。テラエナジーらしい、ゆるやかな時間が流れるなかで行なわれたイベントのようすをレポートします。

まずは、オープニングトーク「一から学ぶ気候変動〜今日からできるアクション」。お話しいただくのは、NPO法人気候ネットワーク・上席研究員の豊田陽介さんです。

突然ですが、ここでクイズです。
日本の観測史上、最も暑かった年は次のうち、どれでしょう?
①2016年
②2019年
③2023年

私が小学生のころ、社会の授業で「地球温暖化」という名称でならった記憶がありますが、現在では「地球沸騰化」と呼ばれるほど危機的状況にあると言われています。

2023年9月に開かれた「気候野心サミット」で、アントニオ・グテーレス国連事務総長はその危機的状況をこう表現しました。

「人類は地獄の門を開けてしまった」

地獄の門とはどういうことなのでしょうか。豊田さんによると、豪雨による大洪水や乾燥による大規模な山火事などが世界各地で頻発しているとのこと。たとえば、2018年7月の西日本豪雨では、岡山県倉敷市を流れる高梁川に合流する小田川の堤防が決壊しました。また、2023年7月には秋田県秋田市で観測史上最大となる豪雨が発生。さらに、2023年にカナダ西部のブリティッシュコロンビア州で発生した山火事では、約3万世帯に避難勧告が出されるほど甚大な被害が出ています。

また、豊田さんは「気候変動問題は生態系のみならず、私たちの文化や伝統にも大きな影響を与えている」と指摘します。豊田さんがその一例として挙げたのが、祇園祭の花傘巡行です。2018年には「異常高温のため、衣装を着て街中を練り歩くことが危険」と判断され、中止になりました。気候変動により、私たちの生活に根づいた文化や伝統が危機に晒されるという事態がすでに起きているのです。

豊田さんは「気候変動は、生態系、経済、文化や伝統、はては人権にまで影響が及ぶ問題である」と警鐘を鳴らすとともに、気候変動問題を私たちがふだん取り組む課題やテーマにつなげて考えていくことが重要だと語りました。

私たちは今、最も暑い時代を生きている

さて、さきほどのクイズの正解発表がまだでした。正解は「③2023年」です。豊田さんはこうしたクイズを交えながら講演してくれました。クイズは残り2つありますので、ぜひ全問正解を目指してください!(ちなみに、私は3問中、正解は1問だけでした・・・)

冒頭で「地球沸騰化」という話が出ましたが、豊田さんは日本の過去の平均気温のランキングを紹介してくれました。ランキング結果はこちら。
1位:2023年
2位:2020年
3位:2019年
4位:2021年
5位:2022年

驚くべきことに、直近の5年間が日本の観測史上で最も暑かったのです。さらに、世界の平均気温を見ると、トップ10を2014年以降で占めています。つまり、私たちは今、最も暑い時代を生きているということになります。また、世界の平均気温の上昇幅を見ても、近年の気温上昇が異常とも言える上がり幅を示していることがわかります。

では、地球温暖化は今後、どうなってしまうのでしょうか。

豊田さんによれば「私たちが何もしなかった場合、今世紀末までに世界の平均気温は5.7度上昇する」と言われているそうです。気温の上昇は、集中豪雨や台風の大型化といったさまざまなリスクを増大させます。ある調査によると、世界の平均気温が1.5度上昇すると4.1倍、4度上昇すると9.4倍もリスクが高まるという結果が出ているそうです。そう考えると、5.7度という気温上昇がいかに危険であるかがわかります。

多くの気象学者・研究者らが検証を重ねた結果、気温上昇の原因は「人間活動にある」ということが明らかになっているといいます。そして、私たちの生活が致命的な影響を受けないためには「気温上昇を1.5度に抑えるべきである」という結論に至っています。

こうした検証結果を踏まえ、政治も動き出しています。2016年に発効された「パリ協定」です。

「パリ協定」とは「気候変動枠組み条約」(1994年発効)に加盟する196カ国すべての国が削減目標・行動をもって参加することをルール化した、歴史上はじめてとなる国際的な合意です。

具体的な中身として、2050年までに温室効果ガスを「実質ゼロ」にするということが取り決められました。また、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること」 という目標も盛り込まれました。日本も参加しており、2030年までに温室効果ガスを46%以上削減するという中間目標を掲げています。

温室効果ガスの削減をめぐり、重要なことは二酸化炭素の排出削減です。「石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで、大量の二酸化炭素が出ます。『温室効果ガスをゼロにする』ということは化石燃料を使わない社会と同義、つまり『脱炭素化社会の構築』なのです」と豊田さんは解説します。

豊田さんの話を聞き、不安でいっぱいになっていた私はここで少し安心しました。目標値も決まり、世界規模で気候変動の対策が進んでいくんだろう、と。

ところが、豊田さんは2つの懸念があると指摘します。1つめは、世界各国の足並みが揃っていないこと。「パリ協定」では、すべての国に温室効果ガス低排出開発戦略の策定・提出に努めるべきと定めていますが、先進諸国の目標の設定が低いそうです。要するに、現状のままでは目標とする1.5度の達成は困難であり、さらなる対策の強化が必要であるということです。

2つめの懸念として豊田さんが指摘するのは「ギャップ」です。豊田さんはある調査結果を挙げ、そのギャップを端的かつ明快に解説してくれました。

その調査とは「温暖化対策があなたの生活にどう影響すると思いますか?」という共通の質問を世界各国で行ない、以下の4つの選択肢から回答を選んでもらうというものです。

①多くの場合、生活の質を脅かすものである。
②多くの場合、生活の質を高めるものである。
③生活の質に影響を与えないものである。
④わからない/答えたくない。

みなさんは何番を選んだでしょうか。正直に白状します。私は①です。電気をこまめに消したり、クーラーの設定温度を気にしたりと、なんだかんだ言って「我慢をすることイコール温暖化対策」と考えているからです。

調査結果を見ると、日本人の60%が私と同じ①「生活の質を脅かす」を選んでいます。②「生活の質を高める」を選んだのは17%にとどまっています。かたや、世界の平均を見ると、逆の結果が出ているのです。②「生活の質を高める」と回答した割合が66%であり、①「生活の質を脅かす」と回答した割合は27%でした。

日本と世界の認識のギャップについて豊田さんは「日本では温暖化対策がお金も手間もかかる、しんどい取り組みというネガティブなものとして浸透しているがゆえに、頭では必要だとわかっていても、なかなか行動に移しづらいという現実がある。他方、海外では温暖化対策が自分たちの生活の質を豊かにし、経済的にもプラスに働き、地域も活性化するというポジティブな認識に基づいて取り組んでいる」と分析しています。


温暖化対策の認識に大きなギャップがあるとわかった今、私たちはどうすればよいのでしょうか?
その答えとなるのが、豊田さんが提案する「◯◯×脱炭素」という考え方と具体的な取り組みです。

ここで、豊田さんから2つ目のクイズです。

2023年の1年間で、日本が海外に支払った燃料代金は次のうち、どれでしょう?
①4兆円
②26兆円
③35兆円

正解は②26兆円です。消費税の税収とほぼ同額であり、これだけの大金を燃料代金の購入費として海外に支払っているのが日本の現状です。

日本が持つ資源を見直し、再生可能エネルギーを軸に脱炭素を進め、かつ日本の地域課題の解決につなげることはできないか。

そのポイントとなるのが、先ほど豊田さんが提案された「◯◯×脱炭素」です。豊田さんいわく、「◯◯×脱炭素」に関連する動きは日本全国で広がりを見せているとのこと。その具体的な事例を豊田さんが紹介してくれました。

◾️「農業×脱炭素」
3.11以降、福島県内の農家は育てた野菜を出荷できないという事態に直面しました。廃業する農家も多く出たそうです。そうしたなか、1000以上の農家が参加する「福島県農民連」は豊田さんたちのアドバイスをもとに出資者を募り「市民・地域共同太陽光発電所」を2013年に建設しました。また、それを管理するための会社も立ち上げました。農地として使用していない土地にソーラーパネルを設置し、太陽光発電で得た売電収入と農業で得た収入を合わせることで、農業を続けていく道を模索したのです。現在では、使用量相当分を発電するまでになっているそうです。

また、兵庫県豊岡市ではソーラーシェアリングによってコウノトリを育む農業と脱炭素の両立に取り組んでいるほか、福島県二本松市でも垂直両面型のソーラーパネルを設置するなど、地域住民が主体となって「農業×脱炭素」に取り組む事例が増えつつあります。

◾️「林業×脱炭素」
脱炭素の取り組みは、林業でも始まっています。その1つが、岡山県西粟倉村の取り組みです。これまで林業を営む過程で出る端材は廃棄されていました。この端材を燃料として活用し、街中にお湯の配管を通すことで、温泉施設にお湯を供給したり、公共施設の暖房などにも利用できる「地域熱供給」に取り組んでいます。これまで燃料費として外部に支払っていたお金が村内で循環し、この事業を請け負うための会社を設立することで、新たな雇用も生まれています。地域のなかで経済循環がうまれた結果、西粟倉村の人口約1400人のうち、およそ150人がIターン・Uターンとなっているなど、人口減少対策としても効果が出ています。

脱炭素、グローバル企業の今

◾️「企業×脱炭素」
つづいて、豊田さんが紹介したのは、再生可能エネルギーと企業をめぐる世界のトレンドです。Google、Apple、IKEAなど、誰もが知っているグローバル企業は今、自社ビルや自社工場で使う電気をすべて再生可能エネルギーに転換すると宣言をしています。

「RE100」と呼ばれるこの動きには2024年6月現在、世界で432社以上の企業が参加。国内でも88社が加盟しており、京都府に本社を構える村田製作所もその1つです。

「RE100」をめぐっては、ポイントが2つあると豊田さんは解説します。1つは、加盟企業のうち、127社はすでに再生可能エネルギーへの転換を90%から100%達成しているということ。もう1つは、加盟した企業だけでなく、その取引先にも再生可能エネルギーへの転換を求めていることです。つまり、グローバルに展開する大企業と今後も取引を続けていくためには、中小企業も脱炭素に向けて舵を切らなければいけない局面に来ており、豊田さんは「RE100はパスポートと同じだという認識を持たなければいけない」と指摘します。

◾️「僧侶×脱炭素」
ここで紹介されたのがテラエナジーの取り組みです。電力小売事業の一部をお寺やNPOなどの民間団体に寄付することで、社会問題の解決にも貢献する活動に取り組んでいます。

このほか、「健康×脱炭素」では、岩手県紫波町では「ヒートショック」(暖かい部屋と寒い部屋との温度差による急激な血圧変動が原因で、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす健康リスク)対策として、超高断熱住宅づくりがすすめられているほか、「防災×脱炭素」では、神奈川県小田原市が電気自動車を公用車として配備することで、有事の際に「動く蓄電池」として活用することができるといった事例を豊田さんは紹介してくださいました。

脱炭素化・エネルギー自立の3つのメリット

このように、脱炭素化・エネルギー自立に向けた取り組みは、日本の各地でもすでに始まっています。それらを推し進めることには3つのメリットがあると豊田さんは言います。1つめが「地域のお金を地域でまわすこと」。2問目のクイズでもあったように、日本は現在、燃料費だけのために大金を海外に支払っています。これが国内、さらには各市町村の地域内で回ることになれば、地域の資源供給者・メンテナンス業者・融資先の地方銀行のなかで「地域内経済循環」が生まれるということになります。

2つめが「新しい雇用を生み出すこと」。先ほどの福島県や岡山県西粟倉村の取り組みでも紹介されたように、新しい仕事、新しい会社が生まれることで、新たな雇用を生み出すことにつながります。太陽光発電関連産業によって、2019年には約27万人の雇用が創出されたそうです。

3つめが「人や企業が集まること」。再生可能エネルギーの活用については、企業も積極的に動かなければビジネスチャンスを失ってしまう段階にきています。企業の「再エネブランディング」に寄与することで、人口減少などに悩む地域にも優秀な人たちや企業が集まる可能性が大いにあるということです。

社会を変えるために、私たちにできること

さて、ここで豊田さんからの最後のクイズです。
国民の何%が変われば、社会は変わるでしょうか?
①1%
②3.5%
③8.8%

正解は、②3.5%です。ハーバード大学の政治学者であるエリカ・チェノウェス氏が発見した法則で、20世紀における抗議活動などを調査したところ、「国民の3.5%が参加する非暴力の抗議運動が起これば、必ず何らかの変化を生み出す」ということが結果が明らかになり、BBCも2019年のレポートでこの「3.5%ルール」を取り上げています。豊田さんは「途方も無い数字に見えるかもしれないが、1クラス40人の学級であれば1人ないし2人という割合。それだけで社会が変わっていくということを知ってほしい」と訴えます。

では、社会を変えるために、私たちに何ができるのでしょうか?

豊田さんは「気候アクションガイド」というガイドブックをつくり、私たちにできる7つのことを具体的に挙げています。

◯脱炭素なライフスタイルをつくる(家電・家・自動車・再エネ)
◯電力会社を選ぶ
◯再生可能エネルギーに投資・出資する
◯企業を選ぶ
◯銀行を選ぶ
◯選挙で投票する
◯声を上げる

最後に、豊田さんは私たちにこんなメッセージをくれました。

「脱炭素というのは、分野の隔たりなく進めていかなければいけません。そのためには今日お集まりのみなさんで交流を深め、つながりを強め、『◯◯×脱炭素』という視点で、みなさんが関わっておられる分野で何かできることはないかと考えていただきたい。今日の私の話が、みなさんとともに社会を変えていくきっかけの1つになったのであれば、これほどうれしいことはありません」。

豊田さんのお話を聞くまで、私にとって「気候変動問題」は、どこか遠くの話、そして我慢を強いられるしんどいものという認識でした。そして、「地球沸騰化」と呼ばれる現状や各種データについて解説していただくなかで、「もう手遅れなのではないか」と暗澹たる気持ちにもなっていました。

しかし、豊田さんのお話を聞き終えたいま、そうしたネガティブな認識をポジティブな認識に変えることから始めなければいけないのだと思いました。なにより、脱炭素に向けた動きが国内の至る所で進められている事例を知り、一筋の光明が差したように感じました。

「◯◯×脱炭素」。

みなさんは、◯◯にどんな言葉を入れますか?

【講師プロフィール】
豊田陽介(とよた・ようすけ)
認定NPO法人気候ネットワーク上席研究員。龍谷大学非常勤講師。立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程(環境保全研究室)修了。社会学修士。市民による温暖化防止に関する調査、研究、各地の自然エネルギー事業へのアドバイス・サポートを行なう。主な著書に『気候変動を学ぼう』(共編著、合同出版、2023年)、『エネルギー・ガバナンス』(共編著、学芸出版、2018)『市民・地域共同発電所のつくり方』(共編著、かもがわ出版、2014)など多数。

執筆:小熊広宣


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