子育て支援団体と語る「理想の親像」誰かに、どこかに、頼っていい空気感を社会につくっていきたい/文化まつり2024
ーーテラエナジーの小熊広宣です。2024年6月30日(日)、京町屋ソイコレにて開催した「テラエナジー文化まつり2024〜ほっと資産団体と出会う一日」。オープニングトークにつづいて、3組の「ほっと資産団体」が登壇したトークセッション「子育て支援」をレポートします。(モデレーター山中はるな/TERA Energy株式会社 ほっと資産事業部)
さて、「ほっと資産団体」とはなんぞや、ということですが、テラエナジー株式会社は「寄付つきでんき」という取り組みをしています。毎月の電気料金(税抜)の最大2.5%を、テラエナジー株式会社からさまざまな社会問題の解決に取り組むNPO法人などに寄付するという仕組みです。その寄付先団体を「ほっと資産団体」と呼び、2024年6月現在、93団体が登録しています。
「寄付つきでんき」を通じて、想いの込もった活動に資金が循環し、【ほっと】できるあたたかなつながりがつながりが紡がれる社会を創っていきたいと考えています。
さて、今回登壇した3組はみな、「子育て支援」に取り組む団体です。まずは、各団体の活動紹介です。
(石原悠太/以下、石原)みなさん、こんにちは。一般社団法人merry attic の副代表・事務局長の石原です。私たちのミッションは「子育て社会を、頼れる空気で満たしていく。」です。私たちは埼玉県戸田市と京都府京都市で、2つの「子どもの居場所づくり」を通じて、子育て家庭への支援を行なっています。
1つは「放課後の子どもの居場所」、いわゆる学童です。もう1つが今日メインでお話しする「宿泊を伴った子どもの居場所」です。具体的にどういう事業かというと、週末に1泊ないし2泊、お子さんをお預かりするというものです。この事業を行なう理由は「子育て疲れ問題」を何とかしたいと考えたからです。共働き世帯が増え、核家族化も進むなかで、近くに頼れる人もいない。多くの親が子育てに疲れています。
その背景には2つの要因があります。1つめが「時間的ゆとりを持てる制度がない」こと。共働き世帯であれば日中は仕事をし、保育園に子どもを迎えに行くと、そこから子育てが始まる。子育てに休日はありませんから、親は自分の時間を確保することも難しい。そんなとき、身近に頼れる人や施設があればと思っても、それを支える制度がないというのが現状です。
2つめが「精神的ゆとりを持てる空気感がない」こと。「私たちも寝ずに子育てした」、「児童虐待は無責任な親が起こす」といった自己責任論、親だから自分で育てなければいけないという圧力が社会のなかに根強くあります。そうしたなか、子どもを宿泊で預けることで、少しの時間、お父さんもお母さんも休むことができます。「子育てを誰かに頼ってもいいんだよ」という空気感を親や社会に広げていくことが大切だと考えています。
一方で、利用者の満足度調査などを通じて、政策提言をしたいと考えています。先日、MBSの取材を受けたものがYoutubeにあがっているのですが、「こういうところに子どもを預ける親は無責任だ」といった心無いコメントがありました。私たちが変えたいのは、まさにここです。キレイゴトに聞こえるかもしれませんが、子育ては誰かに、どこかに、頼っていい。子どもをみんなで育てようという空気感を社会のなかにつくっていきたいんです。
(岩見香織/以下、岩見)産後ケア施設baby.mam の代表を務めている岩見です。私たちは京都市の四条大宮で、宿泊型の産後ケア施設「ベビマム」を運営しています。「ベビマム」では、出産から1年までのお母さんを対象に、①育児に関する相談、②睡眠時間の確保、③沐浴・授乳のおさらい、④専門職スタッフが24時間対応といった支援をしています。
私は看護師・助産師として、大学病院や産婦人科クリニックで産科・新生児集中治療室(NICU)に勤務していました。現在は、私のほかに保育士や栄養管理士などの資格を持つスタッフを中心に「ONE DROP」というチームをつくり、「ベビマム」を運営しています。
産後ケア施設というのはあまり耳馴染みがないかもしれませんが、出産直後から使える「里帰り先」のようなイメージで利用してほしいと私は考えています。お母さんにしっかりと寝てもらって心身を休め、栄養満点の食事を摂り、子育てに関する疑問や不安を気兼ねなく聞けて話せる場です。
産後ケア施設がなぜ必要かと言えば、いま、10人に1人が「産後うつ」であると言われています。産後うつは、自殺や虐待といった問題につながることを踏まえ、この現状を変えていきたいというのが私たちの想いです。
余談ですが、「ONE DROP」というチーム名は、南米のアンデス地方に伝わるお話「ハチドリのひとしずく」が由来です。
「私は、私にできることをしているだけ」というのが私たちの根っこになり、ひとしずくから「ONE DROP」という名前をつけました。「世界を幸せのひとしずくで満たそう」というのが私たちチームの合言葉です。
(大野祐一/以下、大野)NPO法人つなげる事務局長の大野です。私たちは「育児を、みんなで育てよう。」を合言葉に、双子や三つ子がいる家庭に向けた子育て支援に取り組んでいます。日本では2人以上の子どもを妊娠することを「多胎」と呼び、統計では100人に1人の母親が2人以上の子どもを妊娠しています。
私たちが目指しているのは「誰もが命の誕生を当たり前に喜べる社会」です。それを3つの「つなげる」で実現したいと考えています。
1つめが「多胎ママ同士をつなげる」。オンラインの多様な手段を使って、多胎育児のオンラインコミュニティをつくっています。私たちは「ママ」という言葉を「子育てに積極的に参加する人」と定義しています。母親や父親はもちろん、祖父母や周囲の人たちも含めて「ママ」と呼んでいます。
2つめが「支援につなげる」。オンラインだけでは限界もありますので、実際に支援の手を各地域に届ける担い手が必要です。「つなげる」では「つなげるピアサポーター」という、自身も多胎育児の経験を持つ母親たちが全国各地にいて、情報を届けたり、イベントを開催するなどの取り組みをしています。
最後が「社会をつなげる」。子育て支援関係者や企業などとも連携し、子育て家庭と社会の接点を増やしていく活動をしています。
また、昨年から兵庫県尼崎市で「ふたごハウス」という居場所の運営を始めました。日本で初の「多胎家庭だけ」が利用でき、多胎家庭同士で交流できる場所で、沐浴のサポートなどをしています。
ーーテーマトークはまだまだ続きます。次のテーマは「理想の親像」。モデレーターの山中はるな(以下、山中)が問いかけます。「子育て支援をしているみなさんにとって『理想の親像』とはどんなものでしょうか?」。これは私も気になるポイントです。
(大野)「理想の親像」というより、「こういう親が増えたらいいな」と思うことはあります。それは、「しんどい時に『しんどい』と素直に言える親」です。誰かに「大丈夫?」と声をかけられた時、「大丈夫」と答えるだけでなく、「大丈夫だけど、いまこういう状況でちょっとしんどくて」と話せる親です。素直に誰かに頼ることができる親が増えることが私にとっての理想ですね。
ーー多胎家庭の場合、同時に2人以上の育児をこなすわけですから、身体的・精神的負担だけでなく、経済的負担も含め、さまざまな困難にぶつかります。多胎家庭を支え続けてきた大野さんだからこそ、小さな「しんどい」を出す大切さを指摘されたのだと感じます。続いて、岩見さんは次のように語ります。
(岩見)「理想の親像」というより「理想の子育て」に悩んでいる親が多いと感じています。人間の人格って、いつごろからあると思いますか?私は生まれた時にはすでに、もっと言えばお腹のなかにいるときから人格はあると思っています。それがどういうかたちで発揮されるかが、その後の子育て次第ということです。なにより大事なことは「赤ちゃんが笑顔に包まれて生きていくこと」です。赤ちゃんが産まれてしばらくはお母さんとの世界が続きます。その際、お母さんがニコニコと笑顔でいられたらよいと思うし、それが「理想の子育て」ですね。
お母さんには「力」があるんです。そして、育児を通して多くの幸せを感じます。でも、心身の余裕がないと、その幸せを感じることが難しくなってしまいます。だからこそ、産後ケア施設という支えが必要なんです。しっかり寝て、しっかりご飯を食べたお母さんたちはみな、一時預かりのあとにわが子に対面すると「うわ〜、うちの子、かわいい〜」ってなるんですよ(笑)。
ーーお母さんには「力」があるというお話が印象的です。その「力」を存分に発揮できるようにするためにも、産後ケア施設という支援は必要ですね。最後に、石原さんはこう語ります。
(石原)さきほどもお話しした通り、親の多くが「子育て疲れ」に直面している今、親自身が幸せであることが重要と考えています。京都の事業所では「雑談支援」という取り組みをしています。「相談支援」というほど仰々しいものではなく、ふらっと立ち寄った際に縁側でお茶でも飲みながら「最近どう?」って世間話をするんです。人は本当にしんどいとき、本心を打ち明けることに抵抗を感じてしまう場合があります。とはいえ、誰かに話を聞いてほしいという思いもある。そんなとき、ゆるやかに雑談ができる場があることで、おたがいに身構えることなく話し合えることができると考えています。
ーーそもそも、山中はなぜ「理想の親像」という質問をしたのでしょうか。その理由についてこう話します。
(山中)人はみな「理想」があり、そこに届かないことで悩んだり苦しんだりするし、それが自分を責めるきっかけにもつながってしまうこともあります。また、そこからズレた際に他者へのバッシングが起きたりもします。さきほど「自己責任論」という話も出ましたが、失敗が許されない空気感や自己責任論が蔓延するなかで、誰もが息苦しさを感じています。しかし、本当に大切なことは、目の前にいる子ども1人ひとりをきちんと見ていくことではないでしょうか。
ーーたしかに、バッシングということで言えば、石原さんの話に出たYoutubeに寄せられた心無いコメントもその一例です。子育て支援という活動を続けるなかで感じる息苦しさについて、どう捉えているのでしょうか。
(大野)理想通りに進まないと「失敗」と受けとめる人が多いと感じていますが、そもそもいきなりうまくいくはずがないんです。私たちの支援活動だってそうです。しかし、子育てとなると、とたんに成功を求めてしまう風潮があります。
ひと昔前であれば、祖父母が近くに住んでいるなど、子育てをするうえでの手助けがいろいろあったかもしれません。しかし、核家族化が進み、そうしたサポートが得られづらくなった社会状況のなかで、何が必要か。繰り返しになりますが、「いま困っていて、助けてほしい」ということを話し合える空気感が醸成されていくことだと考えています。
社会の空気感が変わることで、「できなくて当たり前だから、みんなで助け合おう」という認識が広がれば、失敗ではなく課題になります。そうしたつながりを広げていくことで、失敗というものの捉え方や価値観も変わっていくんじゃないでしょうか。
(岩見)成功か失敗かという2択で考え、成功以外はすべてNGと見なす社会は子育てにかぎらず、誰にとってもしんどいと思います。私が思うに、白と黒のあいだにはたくさんのグレーがあるのではないでしょうか?
たとえば、ミルクを100CC飲ませなければと考えていたのに、赤ちゃんが80CCしか飲まなかったとします。そのときに「あぁ、そんなときもあるよね」と思えれば、子育てもグッと楽になります。命に即座に直結する問題でないかぎり、失敗したら取り返しがつかないなんてことはないと思うんです。
(石原)いま、岩見さんがおっしゃったように、成功と失敗の間には、たくさんのグラデーションがあると私も思います。そのうえで、小さい成功を積み重ねて、最終的に「成功だったね」と思えるぐらいの気構えでよいと考えています。
自己責任論だけでなく、相互監視というか、他人にも成功を強く求めてしまう風潮もあるように思います。人と人がゆるやかにつながるなかで、おたがいを許し合えるような関係性を築いていくことが、子育てをしやすくするためにも大切だと思います。
ーーたしかに、自分のなかに確固たる「理想」があれば、そこに到達していない現在の自分を「私なんて、まだまだ」と自己否定してしまうことにつながります。子育てには正解も不正解も、成功も失敗もないのではないでしょうか。さて、続いてのテーマはズバリ「お金」。子育て支援の事業をするにも、人件費や事務所の家賃など、さまざまなお金がかかります。活動資金を3団体ではどうやりくりしているのでしょうか?
(岩見)うちは赤字ですね。みなさんはどうしているのか、聞きたいくらいです。
(石原)宿泊事業だけをみれば赤字です。もうひとつの学童事業でその補填をしています。あとは民間の助成金も活用しています。
(大野)「つなげる」でも助成金を使ってきました。助成金ですから、収支はトントンでなければいけないんです。また、単年度のみの助成金も多いですね。申請締切が毎年10月ごろで、その結果が出るのは翌年の1月か2月ですから、次年度も助成金がおりて事業継続ができるのかと胃を痛めながら、今年度の事業報告書をつくるという繰り返しでした。そこで代表と話し合い、助成金に頼ることをやめました。自主事業に舵を切ることにしたんです。ですから、今は赤字を垂れ流すというより、流せるものもない状態で(苦笑)。
一方で、「なぜお金が必要なのか」という根本的な問いを考えることが重要だと考えています。いま取り組んでいる事業や団体を自分の代で終えてよいと考えているのであれば、無理してお金を集めようとしなくてもよいわけです。私はファンドレイザーという仕事もしていますので「活動資金がほしい」と話す団体さんには「その事業は、仕事として続けていきたいですか?」としばしば問います。事業継続が目的でないならば、資金調達ではなく、活動そのものに注力したほうがもっとパワーが出る、というのが私の考えですね。
(岩見)私は事業を継続していきたいですね。私自身、ゆくゆくは一線から身を引いて他のスタッフに任せたいと思っていますが、お金の心配をせずに現場をどう継承できるかをつねに考えています。
(山中)私自身もファンドレイザーとして、NPOなどの資金調達のコンサルタントをしている立場から言うと、お金はあくまで手段の1つです。自分が出したいインパクトに向けて、お金がどれくらい必要なのかを考えることはとても大切です。
石原さんが冒頭でおっしゃった政策提言もインパクトを生み出す手段の1つです。政策提言を通じ、自団体の活動の必要性を国に訴えることで社会の仕組みを変えていくわけですから。
(石原)たしかに事業を継続するにはお金がかかります。私たちの戦略としては、①補助金事業をやって、②助成金で実績をつくって、③寄付を募るとともにみなさんの思いを聞いて、④その思いを政策提言につなげていくという4ステップで考えてきました。いまがそのステップの3つ目です。
クラウドファンディングで寄付を募るとともに、親の生の声をいただいているのですが、寄付をしてくれた方のなかには「自分が子育てで大変だった時にこういう支援がほしかった」、「私の娘が親になった時に同じ思いをしてほしくない」といった声を寄せてくれています。そう考えると、寄付というより未来へのインパクトのための投資という側面が強いと感じています。
ーーさて、子育て支援に取り組む「ほっと資産団体」のみなさんに「理想の親像(理想の子育て)」、「お金」など、お話を聞いてきましたが、最後に今回のトークセッションを踏まえて感想を聞きました。
(岩見)支援者も時に孤独を感じる瞬間があります。点と点で存在する支援者同士がつながり、一本の線になる。その線を社会のなかに増やしてつなげていくことができれば、社会はどんどん変わっていける。そんな期待感が持てる機会となりました。ありがとうございました。
(大野)私も2児の父親ですが、子育て真っ只中でドタバタだった当時、子育て支援団体があるなんてまったく知りませんでした。まずはその状況を変えていきたいと思います。また、岩見さんがいまお話ししてくださった通り、支援者同士がつながることも大切です。「つながりが大事」と言っている支援者自身が同じ領域で活動する支援者とつながっていない現状を変えていく必要があると思います。
自団体だけでしか対応できないという状況を自ら変えていかないかぎり、世の中はなかなか変わりません。私たちにつながってくれた人に「こんなところがありますよ」と、石原さんや岩見さんのところを紹介する。その逆もしかり。そうした支援者同士のつながりを増やしていくことが大事だと私も考えています。ありがとうございました。
(石原)支援者同士がつながることで、1+1が2ではなく、3にも4にもなっていく。みなさんの話を聞きながら「私たちの未来は明るい」と感じられた時間でした。今日はありがとうございました。
ーー石原さん、岩見さん、大野さんのお話を聞いていると、「子育て支援」と一口に言っても、対象や年齢など、じつにさまざまであると感じます。一方、総務省によれば、今年4月1日時点での子ども(15歳以下)の数は1401万人と、43年連続で減少しています。少子化が待ったなしで進むいま、今回登壇いただいた方々の取り組みがいかに必要かを痛感しています。
「ほっと資産団体」同士がつながって線となり、その線が1本、2本と社会に増えていく。これこそ、テラエナジーが大切にしている「温かなつながりを紡ぐ」ということの実現につながると感じました。
執筆:小熊広宣
【インフォメーション】
◯一般社団法人merry attic
クラウドファンディング「子育てにも休息を|あらたな頼り先『こどもショートステイ』の継続へ」のご協力のお願い
◯産後ケア施設「baby.mam」
火曜・木曜・土曜日に実施「オンライン施設見学会」のご案内
◯NPO法人つなげる
10月5日開催リアルイベント「ふたごつなげるカーニバル2024」のご案内
【登壇者プロフィール】
◯石原悠太(いしはら・ゆうた)
一般社団法人merry attic 副代表、事務局長。NPO法人merry attic理事。
◯岩見香織(いわみ・かおり)
産後ケア施設baby.mam 代表。看護師。助産師。2020年に保育士、栄養士、看護師とともに「ONE DROP」を設立。
◯大野祐一(おおの・ゆういち)
NPO法人つなげる 事務局長。日本ファンドレイジング協会認定ファンドレイザー。2018年6月にNPO法人つなげるの設立に関わる。
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