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53歳教習所日記  完結編

起きたばかりの全く実感の無い私の寝ぼけ顔をニヤニヤと覗き込んでくる。
「米と猫の砂買いたいんだけど。ああ、あとあれも!」
「ふぁ〜、分かった…」
歩いて10分くらいのいつも行くスーパー。
週末の買い出し。
コーヒー飲みたいんだけどなぁ…と思いながらなんとか着替えて玄関先でマスクを着けてそのまま出ようとしている私にキーを渡してきた。
「え?」

教習所へ向かう送迎バスの中で何度も「今さら」「加齢」という言葉と戦ってきたのに、いざ免許証を手にしたら…
ロケンローもドゥンガもリーチマイケルも五木ひろしも全て一晩で忘れていた。

「スーパーの駐車券取るときパニクルから今から窓開けといた方がいいよ」
今日の教官はヤケに私の先の動行を見抜いているようだ。

慌てて初心者マークを探した。

運転席の窓から暖かな春の風が、揶揄する様に私の頬を突いてくる。
緊張してないフリをして、私に命を預ける55歳の女を助手席に乗せて、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ…

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