真っ赤なチェリー味のドーナツ
昨日、車で1時間離れた町にボランティアの作業をしに行く途中、その町に古くからあるローカルのドーナツ屋に寄って、1番人気のチェリードーナツを1ダース買った。
お店は朝早くから開いていて、午後2時で閉まる。週末の朝は混雑してカウンターから入り口まで列ができていた。レイズドグレイズド、ロングジョン、ビスマルク、アップルフリッターなど基本のドーナツ全般を取り揃えているが、どの客もダース、半ダース単位でチェリードーナツを買っていくからその赤いドーナツのトレイだけは明らかに他のドーナツよりも大きく山積みに供給されていて、残りが少なくなってきてもすぐに厨房から追加のドーナツが運ばれて来る。
私がアメリカに来てすぐの2000年前後はローカルのドーナツ屋はごく普通にあり、ここの支店がうちの町にもあった。コーヒーとドーナツはちょっとした集まりでもよく出てきた。
思うに、その頃はスターバックスなどのチェーンがまだなくて、カフェの役割をドーナツ屋が担っていたのかもしれない。今では信じられないが、当時中西部のこの州には喫茶店がとても少なかった。コーヒーはダイナーやマクドナルド等で買えたけれど、それは食事をするための場所であって、コーヒーを飲みながら本を読んだり日記をつけたりできる店がなかった。東京から移住した私はそのことにとても驚いた。
そのあと割とすぐにチェーン店の本屋バーンズアンドノーブルズがスターバックスとセットになってオープンして、本を読みながらコーヒーが飲めるカルチャーを定着させた。雨後の筍のように、ローカルのカフェもできて小洒落たペストリーなども置くようになり、昔ながらのダイナーやドーナツ店はどんどん店じまいした。このドーナツ店はその競争の生き残りだ。
しばらくカップケーキ屋が大流行したあと、ここ2,3年ドーナツがリバイバルで、地元にバタバタと3軒もオープンした。
最近流行りのドーナツは巨大でフロスティングの上にシリアルを貼り付け、さらにグレイズをかけるなどの過剰デコレーションで自分は甘すぎて食べられないのだが、そういう店にかぎって昔からのシンプルなドーナツは売られていないから、ドーナツの中ではイーストでふわっと膨らんだ生地を揚げてグラニュー糖をまぶしただけの、レイズドシュガードーナツが1番好きな私はドーナツ難民だ。あまりにオーソドックスすぎるのか、いまどきはそんな普通のドーナツこそ探すのに苦労する。
このドーナツ屋は商品も店の外観も70年代の雰囲気で留まっていて、レイズドシュガードーナツもあるのでチェリーの他に3個買う。これはコーヒーでなく、牛乳を飲みながら食べるのがおいしい。あんドーナツに牛乳が合うのとにている。
アメリカにはチェリー味の食べもの、飲み物がたくさんある。すごく明確な赤い色と薬品のような強い風味はとてもアメリカっぽいと思う。この店のチェリードーナツはギョッとするほど赤い見た目に反比例して、甘さはそこそこでオールドファッション系の生地はしっとりして食べ易い。コーヒーと一緒に食べると口の中でじわっと溶けていく。
ボランティア活動を終えて午後になって地元に戻り、帰りがけに友人宅2件にチェリードーナツをドロップオフした。一軒は私よりも年上のアメリカ人の夫婦、もう一軒は奥さんが日本人でティーンエイジの子供達のいる家庭。育った国の価値観によって「ああ懐かしい」と感じるか「ひー、毒々しい色」と感じるかに分かれそうだ。
ドーナツ好きの私でも、この赤さは一瞬引く、そしてなんとなく背徳感を感じながら食べるのが楽しみで、来月ボランティア活動にその町に行くときにもまた買うだろう。