ガチャで三題噺を書く 第27話『スーパー銭湯 負けるが勝ち トラックメイカー』

youtubeで行った
ガチャで三題噺を書く 第27話『スーパー銭湯 負けるが勝ち トラックメイカー』
の完成テキストです。
お題は太字にしてます。
所要時間は約56分でした。
詳しくは動画もご覧いただけると幸いです。↓

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ヘイ、ヨー。
俺の名前はko-すけ、トラックメイカーだ。
トラックと言っても車の方じゃない。
曲の方のトラックだ。
作曲家と何が違うかって?
そんなの検索しな。
俺はそれどころじゃない。
今俺は追い込まれている。
そう、曲のアイディアが出てこないのだ。
だが締切は見る見るうちに近づいていく。
だが音が、音符が、リズムも、イメージも湧かない。
さっぱりだ。
だがあきらめるわけにはいかない。
俺だってこの世界でそこそこやってきて、信頼も得てきた。
ヒットだってさせた。
だからこそスランプの抜け方だって知っている。

イメージが湧かないときは湧いているところへ行く。
それが俺のやり方だ。
湧いているところとは?
むろん温泉だ。
温泉は湯が湧いている。
だじゃれのようだがこれが案外いい。
俺には作曲の手が止まった時決まって行く温泉がある。
そこは都心からのアクセスもよく、よく利用させてもらっていた。
秘境のような温泉なので俺以外にはほとんど人がいないのもよかった。
また、そこの成分もきっとリラックス効果が高いのだろう。
そこへ行けば心は解放され、真っ白になった頭にみるみるとアイディアが浮かんでくるのだ。
さっそく俺は車を走らせた。
だが到着してみて俺は絶望した。
なぜだと思う?
そこの温泉は閉鎖されていたのだ。
湯が涸れてしまったわけでもないのになぜだろうと思い、そこにあった立札を読んでみた。
なんでも現在ここの湯はA県にあるBスーパー銭湯で使われているので、資源保護のために温泉としての利用は中止したと書いてあった。
そういえば聞いたことがある。
銭湯の中には温泉の湯をトラックで運んでいるところもある、と。
ヘイ、俺を悩ませるのはまたもトラックかい。

どこか違う温泉に行こうか。
他に静かな、作曲に最適な温泉があるだろうか?
だが、ひょっとしたらここの湯の成分の方が大事なのかもしれない。
悩んだ俺がたどり着いたのは、ここの湯が使われているBスーパー銭湯だった。
もし湯につかってもアイディアが出ないようなら、スーパー銭湯なのでサウナやジャグジーに入ればいい、そんな思惑もあった。

どうやらここはとても人気のようだ。
夕方とはいえ平日なのに結構な数の人がいた。
といっても多くはじいさんだ。
ここへ来ることによって健康に気を遣いながらも入浴の時間を楽しんでいるのだろう。
さっそく俺は湯船に入った。
なるほど、色や匂いともに湯はあの温泉と同じものの気がする。
ここでなら。
俺は湯船につかり、目をつむった。
しかしダメだった。
曲のアイディアは一向に浮かんでこなかった。
湯の成分がいいのか確かに気持ちはとても落ち着いている。
良い銭湯であることは間違いない。
しかし。
周りにはじいさん、じいさん、じいさん。
頭の中にどんどんじいさんが入ってきてしまうのだ。
もはやそこに新たな曲が入ってくる立錐の余地もないほどだった。
やはり曲を考えるときは一人の方がいいのかな、と幸せそうなじいさんたちを見ながら俺は短く息をついた。
するとそこへ俺の中でむくむくと今まで湧いたことのないものが湧いてきた。
曲のアイディアなどではない。
これは感情だ。
こんな感情はじいさんたちに囲まれて初めてだ。
そんなことしていいのか?
俺は自問した。
だが、が、がまんできない……。
俺は勢いよく湯船から立ち上がった。
大きく波が上がり、驚いた周りのじいさんたちが裸の俺を見た。
俺はもういてもたってもいられなくなったのだ。

その日の夜に作った曲はスタッフたちから褒められた。
一皮むけたねと評価してくれる人もいた。
俺はこわばった笑顔で礼を言った。
それもそのはずだ。
この曲はあの日じいさんたちが歌っていた鼻歌をモチーフにしたからだ。
湯船でじいさんたちのいろいろな鼻歌を聞いているうちに頭の中でスパークし、それがパズルのように組み合わさり、自分の経歴にはない全く新しい曲が生まれたのだ。
俺は温泉を失い、プライドを捨てて新境地を開いた。
ふっ、負けるが勝ちとはよく言ったものだぜ。

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~感想~
当初は銭湯で聞いた生活音をもとにトラックのアイディアが浮かぶという話にしようと思っていたのですが、それでは負けるが勝ちという要素は弱いなと思い、鼻歌を軽くパクるというものにしました。
そのためトラックメイカーというより作曲家みたいなものになってしまいました。

湯船でじいさんたちに囲まれるところは読者を良からぬ方向へミスリードすることを意図しました。

出だしがラッパーぽいのはご愛敬。

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