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Startup Story [short]: Unity Software - 競合Epic/Appleの係争の中、IPOへ

Startup Story: Unity Software

現在、ゲームを作るツール、一般的に『ゲームエンジン』と呼ばれる市場は2つの会社が牛耳っています。1つは前回、取り上げたEpic GamesのUnreal、もう1つはUnity Softwareが提供するUnityです。正確な数字は分かりませんが、感覚値としてはこの2つのエンジンで市場の9割近くを占めると思います。Unityは2004年設立と、Epic Games(1991年設立)より遥かに後発ですが、UnrealがPC及びコンソールゲームを主戦場にするのに対し、Unityは新しい領域であるモバイルゲーム、VR/ARを中心にシェアを伸ばし、8月下旬にIPO申請を行いました。

ちょうど狙ったかの様に、ど競合であるEpic GamesがAppleとの係争を始めたタイミングでのIPO申請です。現時点での売出価格のレンジは一株当たり$34〜$42、今後投資家との協議の中で価格自体は決められますが、このレンジをベースにすると、Unityの時価総額は約$12Bn(約1.3兆円)、Epic Gamesの直近の企業価値である$17Bnをやや下回る程度です。EpicとUnityは良く比較されることが多いのですが、今回はそんなUnityを見ていきます。

デンマークでの創業

今ではUnity本社はSan Francisco市内にありますが、同社の2004年の創業はデンマークの首都コペンハーゲンでした。創業メンバーはCEOであるDavid Helgason、Chief Creative OfficerのNicholas Francis、CTOのJoachim Anteの3人ですが、3人とも皆エンジニアで、当初、CEO/CTO等の役割はなく、皆コーディングをしていた様です。3人がどの様に出会ったのかは分かりませんでしたが、CEOのDavidは大学在学中の2001年頃からいくつかの会社を立ち上げていた様で、その中でUnityの前身であるOver The Edge Entertainment (OTEE) 社はNicholasとJoachimの3人で立ち上げた会社でした。Linkedinを見る限り、3人とも大学在学中か卒業直後にOTEE社を立ち上げており、他の企業への勤務経験はなさそうですし、この記事によればCTOのJoachimはドイツの大学出身と書かれています(以下写真は2014年時点の創業者3人、venturebeat記事より)。

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Epic Gamesと同じ様に、彼らも最初はゲームを作ります。それが、以下ビデオのGooBallというAppleのMac上で動くボールを転がしてゴールに辿り着くゲームでした。このゲームは2005年3月にリリースされましたが、商業的には全く成功しなかった様です。ただ、GooBallを作るのに、結局ほとんどの時間をゲームを作るツールを作るのに費やした様で、そこから、寧ろ自らのゲーム作成ツールを外部に提供した方が良いのではないか、というアイデアを思い立ちます。

当時、3人が理想と考えていたのはイギリスのゲーム会社 Criterion Softwareでした。同社は元々は日本のキャノンのヨーロッパ研究所の中に3Dグラフィックスレンダリングを開発するために設立された会社で、RenderWareというゲームエンジンを開発・提供すると共に、子会社Criterion Gamesを通じてゲーム自体も開発していました(Criterion Software社は2004年8月にキャノンから大手ゲーム会社のElectronic Artsに買収されます)。なので、3人もゲームエンジンを他社に提供しつつ、自らもゲームを作り続けたいと当初は考えていた様です。

そうやって、2005年にリリースされたのが最初のバージョンであるゲーム開発エンジン、Unity 1.0でした。リリース当初はMac OS上のゲームしか開発できなかったのですが、その後、Microsoft Windowsやウェブブラウザーゲームにも対応します。Epic GamesのUnrealがMicrosoft Windows向けのゲームエンジンから始まったのに対し、UnityはMac OS向けのゲームエンジンとして始まったのが面白いですね。Unrealは2005年頃には既にゲーム開発者の間では名前が通ったゲームエンジンだったと思いますが、そのUnrealに対して真っ向から勝負を挑んだ訳です。

Apple StoreのローンチとUnity

2007年には社名もOTEEからUnity Technologiesに変更し(恐らくこの頃にはゲームエンジンにフォーカスする意思決定をしたのだと思います)、様々な機能を追加したUnity 2.0をリリースしますが、大きな転機は2008年7月に訪れます。それはClubhouseの記事でも触れましたが、Apple Storeのローンチです。前年から発売が開始されていたiPhone上で、第三者が様々なアプリを提供できる様になったのが2008年7月のApple Storeのローンチでした。その後、ソーシャル分野でもPinterestやInstagramといったアプリが立ち上がりますが、スマホゲームが大きく伸びた時期でもありました。

UnityはApple Store公開後、素早くiOSにも対応し、ゲームデベロッパーはUnityを使えば簡単にiPhone上のゲームが作れる様になりました。これは、Unitiyがリリース時に一番最初に対応したのがMac OSで、当初からAppleと友好な関係を築いていたことが功を奏しています。その後、当然の動きとして、UnityはAndroidやWindows Phone等の他のスマホOSにも対応させます。このスマホゲームへのシフトが、Unityをゲーム業界有数の開発エンジンに押し上げる礎を作ることになりました。Epic Gamesの記事でも触れた通り、EpicはPCゲームから始まったのち、2006年にはMicrosoft XBox向けにゲームを提供する過程で、UnrealエンジンもPCからコンソールゲームにシフトをさせ、モバイル対応には当時、見向きもしませんでした

初の資金調達とアジア展開

その間隙をぬって、Unityはモバイル対応に向けてリソースを一気に投下し、スマホゲーム業界の急成長と共に、Unityというブランド及び市場シェアを一気に高めることに成功しました。その追い風を受けて、2009年10月にSequoia等から同社初となる外部からの資金調達を行い($5.5Mを調達するSeries A)、更に2年後の2011年7月にはアジア展開を視野に、中国及びシンガポールのVCを加えた投資家陣から総額$12M Series Bの調達を行います。

当時の売上等のデータは見つからないのですが、2011年7月のTechCrunchの記事によれば、既に登録ユーザー数は50万人、その内15万人は毎月アクティブだとのこと。そして、その僅か9ヶ月後の2012年4月には登録ユーザー数はほぼ2倍の100万人、MAUが30万人を突破したことを発表しているので、正に狙い通りに1年も立たずにユーザーベースを2倍にしたことになります。

2回の資金調達の間の2010年11月には、ゲームデベロッパー/クリエイターが、他のデベロッパー向けに3Dアセットや、Unity上で動くミドルウェアを販売できるプラットフォーム、Unity Asset Storeを立ち上げ、デベロッパー間での取引を可能にします。

日本への進出もちょうどこの頃です。以下のTechCrunch記事によれば、2011年9月に日本法人を立ち上げを発表しています。

新たなCEOと最初の買収

2014年には2つの大きな発表を行います。最初は2014年3月で、フィンランド本拠で、モバイルゲームの広告ネットワークを立ち上げたApplifierを買収します。同社にとって初の買収となりますが、Applifierの広告ビジネスはその後、大きく成長してUnity Adsとして同社の広告ビジネスを支えることになります。また、このApplifierの買収後、Unityはデベロッパー向けサービスやプロダクトを拡充するためにM&Aを積極的に活用していきました。

もう1つの発表は2014年10月で、創業時からCEOだったDavidが取締役会長に退き、EAの元CEOだったJohn Riccitiello新たなCEOとして迎えます。これは業界では随分、話題になりました。ゲーム業界では"JR"のニックネームで知られるアメリカを代表するゲーム会社EAの元CEOが、まだ上場も予定していない、創業ない会社のCEOになった訳です。これに先立つ2013年には創業時からずっと一緒だったCCOのNicholasはUnityを”卒業”しています。が、Davidは非常勤の取締役としてまだUnityに残っていますし、更に珍しいことではありますが、もう一人の創業メンバーのJoachimはいまだにUnity CTOとして現役です。

VR/ARへの対応とNext Levelへ

2015-2016年を迎える頃にはUnityは存在が危ういスタートアップではなく、既に多くのゲームデベロッパーに使われるUnityというゲームエンジンを運営する、なくてはならない会社となっていました。現にFacebookが新しいPC Gaming Platformを作るのに当たって組んだのはUnityでしたし、NianticがPokemon Goを作ったのもUnityでした。2016-2017年にはVR/ARという新しいプラットフォームにも対応し、当時、GFR FundがVR/ARのコンテンツを作っている会社と話すと半分以上はUnityを使っていたことを覚えています(残り半分は想像通りUnrealです)。

2016年7月にはSequoiaやDFJ Growth Fund等から総額$181Mの資金調達を行います。当時のバリュエーションは既に$1.6Bn(約1,800億円)。更に翌年2017年5月にはテック系に積極的に投資するPEファンドであるSilver Lakeから総額$400M(内、$150Mは既存株主から買い取るセカンダリー取引)を$2.6Bn(約2,800億円)のバリュエーションで調達。IPO前の最後の資金調達は昨年7月の$525Mの調達で、その時点のバリュエーションは$6Bn(約6,600億円)までになりました。

IPOと直近の業績

普段はあまりここまで詳しく書かないのですが(元々の本業が財務分析なので、中途半端に書くぐらいならば書きたくないw)、8月下旬に出されたForm S-1から面白かった表・グラフをいくつか。

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売上は2018年で既に$381M、2019年で542M、2020年上半期は$351M、2020年通算で見ると約$700Mに達する見通しなので、この規模感でも毎年30-40%で成長しているのはすばらしいですね。更にUnityの売上分類はゲームエンジンで、毎月のサブスクリプションで成り立つCreate Solutions、上記で書いたApplifierが元となっているUnity Adsが主体のOperate Solutions、最後はその名の通り他社とのパートナーシップや、上記のUnity Assets StoreからなるStrategic Partnerships and Other、の3つで構成されています。下記を見ると、既にUnity Ads、要は広告ビジネスが売上の60%以上、エンジンのサブスクリプションのほぼ2倍もあることが分かります。Applifier買収がいかに重要だったのかを物語っていますね。

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もう一点、Unityのビジネスが面白いのは、新規顧客が定着するだけでなく、既存顧客の一社当たりの売上を継続して伸ばしている点です。恐らくゲームエンジンの利用から始めたデベロッパーが徐々に社内で利用者を増やし+更に単価の高いティアに変更し、またゲームがリリースされる頃からは広告を利用する様になる、と言った利用サイクルがうまく回っているからだと思います。

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現在、UnityはIPO価格を$34~$42で設定していますが、仮に真ん中の$38となった場合の時価総額は$11.7Bnと、2019年売上実績の21.6x、2020年通算見込み($351M x 2 = $702M)の16.7xになり、ちょっと比較対象として何を見れば良いのか分かりませんが、Revenue multipleが16.7xというのはやや割高な印象があります。

Epic Gamesとの比較

ゲームエンジンのduopolyであるUnityと、Unrealを提供するEpic Gamesですが、実際にはゲームを作っておらず、エンジン+広告ビジネス主体のUnityと、ゲームを作っていて、そのうちの1つはあのFortniteで、且つEpic Storeというゲームの配信プラットフォーム(手数料 12%)まで運営するEpic Gamesとは実は規模感が全く異なります

現にこちらのVenturebeatの記事によれば、2019年のEpicの売上は$4.2Bnと、Unityの2019年実績 $542Mの7倍以上あります。Epicの2020年の売上見込みは$5Bnなので、2020年見込み(Unityは$702M)で比較しても約7倍です。更にEpicは2020年にはEBITDAベースで$1Bnの利益を見込んでいます。Unityの2020年上半期のEBITDAを計算すると、▲$32Mなので、比較にならないぐらいの差がありますね。

ただ、Epic Gamesが先月Sony他から総額$1.5Bn近くを調達した時のバリュエーションが$17.8Bn(約2兆円)と言われています。このバリュエーションは同社の2020年売上見込み $5Bnの3.6xです。一方で、Unityは上で見た通り、売上は$702M程度の見込みにも関わらず、IPO価格をベースに算出したバリュエーションは$11.7Bnで、revenue multipleは16.7xとなっており、Epic Gamesと比べて大分、割高なのが分かると思います。恐らくUnityの価値はもう少し低く、Epic Gamesの価値は実はもっと高いのだと思いますが、それは株式市場での評価を待ちたいと思います。

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