Startup Story: Clubhouse - ローンチ前から$100Mの企業価値(後半の前半)
Talkshow
(前半はこちら)。さて、PaulとRohanが新しい会社 Alpha Exploration Co.を設立した正確な日は外部からは分かりません。二人のLinkedinを見ると2020年1月/2月となっていますが、もしかしたら会社設立前からプロダクトをテストローンチしていたかもしれないですし、若しくは会社は2019年中に設立されていて、実際にこれを本気でやるのかどうかを試していたかもしれません、実際のところは良く分かりません。ただ、形跡を追うことができるのはPaulのTwitterにて昨年11月30日に初めてTalkshowというアプリに関するtweetがなされています。David Kingという元グーグラーと"What is Talkshow?"というトピックで話をすると。
恐らくこれが、彼らの最初のプロダクトTalkshowのローンチでした。Podcastをライブでストリーミングできるアプリです。2019年11月30日の初Talkshowを皮切りに、翌年3月24日までの約4ヶ月の間に計32回、1週間に2回程度の頻度で開催されています。毎回、違うゲスト、たまにホスト(基本はPaul)も変え、トピックもプロダクトの話から資金調達、Covid-19等々、多岐に亘ります。Talkshowはウェブサイトに行けば分かる通り、既にクローズしていますので、どの様なものかは現時点では試しようがないのですが、こちらの記事によれば、以下の様な感じだそうです。Podcastのクリエイター/ホストはまずゲストにinvitationを送り、アプリを立ち上げて貰います。その後、ホストとゲストの会話(ある意味 "Talk Show')の録音を開始する時にTwitterでリンクを共有し(上のtweet)、そのリンクにアクセスすることで他のユーザーがその"Talk Show"を聞ける、というものです。
Talkshowは元々はPodcastのクリエイターが簡単にエピソードを録音できることを目的としていました。しかし、クリエイターにとっては既存のツールに比べて僅かな改善でしかなく、またリスナーにとってもPodcastとの大きな違いがなかったために結局はクローズとなり、その学びからClubhouseが生まれます。
Clubhouse
Clubhouseは未だに招待制で、一般公開はまだ先の様なので、いつ頃立ち上がったのかも良く分かりません。ウェブサイトに行っても、まだprivate betaでもう少しでローンチするよ!、と書いているのみです。ただ、4月18日(土)付のTechCrunchの記事によれば、その週末からVCパートナーのtwitterがClubhouseで一杯になったと書いてあり、Wiredの記事では4月始めとあるので、時期としては4月頭ぐらいなんだと思います。Talkshowの最後が3月24日だったことを考えると、Talkshowを続けながら同時並行でClubhouseを作り、完成した段階でTalkshowを終了してClubhouseを立ち上げた、と考えるのが自然かもしれません。
では、Clubhouseとはどういうアプリなのでしょうか?上はNew York Timesの記事から拝借したスクリーンショットです。今はprivate betaなので、誰かに紹介して貰うか、自らウェブサイトに行き、waitlistにサインアップしてinvitationを送られてくるのを祈りながら待つことになります。運が良くアプリをダウンロードでき、アプリを開いたら"Rooms"と呼ばれる、それぞれのトークが行われている”部屋”の一覧に行きます。その中で面白そうな部屋を選び、クリックすると上の画面に行きます。画面上は参加者一覧が見れる感じですが、大抵はホストが数名いて、彼/彼女らのトークが行われており、Podcastの様なものなので、参加者は黙ってそのトークを聞くことができます。Podcastとの大きな違いはこれがライブであり、また参加者として質問をしたり、ホスト側から発言を促される、と言ったライブならではのインタラクティブな側面がある点です。ホスト側からもRoomの参加者全員の名前と写真が見れているので、気になる参加者が入ってきたら、例えば質問をしたり、意見を聞いたり、ということができるのです。
Clubhouseはなぜ流行っているのか?
一度、Clubhouseへの登録を行うと、Roomが立ち上がる度にスマホにNotificationが来ます。これがPodcastであれば、後で聞くという選択肢があるのですが、Clubhouseはライブであるため「今を逃すと聞けない」という焦燥感を煽る設計になっており(これは今後変わる可能性はありますね)、それが初期ユーザーの強いエンゲージメントに繋がっています。例えば、以下のtweetや、このtweetやこのtweetで分かる通り、1週間で20~30時間、1日当たり3~4時間もClubhouseを使っている人が続出する訳です。
現在、Clubhouseに登録している人は5,000人以下とか数千人とか言われており、まだまだユーザーベースは小さいです。DAU(Daily Active User)も数百ぐらいだと思います。ただ、資金調達の話題性を横に置いておいて、純粋にClubhouseというプロダクトを考えると、ここまでstickyである理由は大きく2つあると思います。1つはホスト&ゲストが豪華、a16zの創業パートナーであるBen HorowitzやMarc Andreessen、 元アーティストのMC Hammer、起業家でShark Tank(アメリカ版「マネーの虎」)の投資家でもあるMark Cuban、コメディアン&俳優であるKevin Hart等、単純に話を聞くだけで面白い点。ユーザーは皆、Podcastを聞く代わりにClubhouseのトークを聞く、という行動パターンだった様です。因みに日本に比べるとアメリカのPodcast普及率及び消費時間は半端ないです。私も日本にいる間はほとんど聞かなかったのですが、今回アメリカに来てからは1日30分〜1時間は必ず聞く様になりました。良く言われることとして、車(や電車、特にベイエリアでは)での移動時間が長い、というのももちろんあると思いますが、一方で(これは消費時間が多く、競争の結果ですが)コンテンツが豊富で質が高い、というのも多分にあると思います。Clubhouseが流行った理由の1つに、ベースとしてPodcast文化があることは大きいと思います。
もう1つの理由は、Clubhouseがもたらす興味深い人達との新しい出会い、があったと思います。まあ、テックカンファレンスやパーティーみたいなものです。知らない人との出会いから何か偶然、新しいアイデアが生まれそうなワクワク感がある、英語で言うserendipityですね。ちょうどローンチのタイミングがCovid-19の影響で、カンファレンスやパーティーに行けない、ランダムに人と会えない、と言う閉鎖状況がこの2点目の理由を助長した感は否めません。
そして穿った見方をすれば、とは言いつつ、かなり真理を突いているとは思うのですが、現在はまだclosed betaで、招待制で、exclusiveで、Clubhouseは「イケてる奴らしかいなくて、私ら/僕らはそのイケてるメンバーの一員」と言うエリート意識と言うか選ばれたもの感と言うか、そう言う感情も少しは混じっているのだと思います。これが徐々にユーザー数が増えていった時にどの様になるかは興味深いですね。創業者二人とも前職でソーシャルアプリの運営経験は豊富なので、ユーザー数の増加に合わせてプロダクトもどんどん進化させてくると思います。
Series A
ベイエリアの著名エンジェル投資家のJason Calacanisが毎週やっているThis Week in Startupsのビデオ/Podcastで面白いことを言っていました。Clubhouseは product-market fit を見つけたのではなくて、product-vc (venture capital) fit を見つけたのだと。正にPodcastと言うテックカンファレンスと言い、ClubhouseはVCが大好きそうなプロダクトですね。これはかなり当たっていて、確かにClubhouseの初期ユーザーはVCが多いと思います。私のVC友人・知り合いの多くも入っています。これは創業者であるPaulが近いうちの資金調達を見据え、意図的に誘ったと言うのもあるかもしれないですし、単純にVCをホスト or ゲストにすると面白い話が聞けてユーザーが集められる、と言う思惑もあったのかもしれません。
狙いはどうであれ、VCの話題を集めると言う点では正にその通りとなり、様々なVCが投資のオファーをClubhouseに対して行うことになります。a16z、Benchmark(Uber, Wework, Snap等に投資)、こちらの記事によればGreylock(Instagram, Facebook, Linkedin等), Spark Capital(Twitter, Niantic, Tumblr等), Initialized Capital(Instacart, Reddit等)等々も。いずれもアメリカの名だたるVCです。さて、ここでなぜClubhouse創業者達はa16zを選んだのでしょうか?多分、現在のブランド力を考えればBenchmark(しかも創業者の一人、Paulは過去にはBenchmarkのEIRだったのに)やSequoiaの方がa16zよりも高いと思います。それなのになぜa16zなのか?それに答えるためには少しシリコンバレーのVCの歴史を遡ります。すみません、また長くなってしまったので、続きは後半の後半にて。
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