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Startup Story: Spotify - オーディオ市場の大きな変化(1/x)

Spotify

音楽ストリーミングサービスは日本でも大分、浸透してきたと思いますが、同サービスにおける世界のパイオニアだったSpotify(日本語だとスポティファイ)は、日本では国内勢に押されて認知度はそこまで高くはないかと思います。ただ、日本外、特にアメリカやヨーロッパでは市場の1/3以上を抑えている圧倒的なプレイヤーです。更に、その発祥がアメリカやイギリスではなく、北欧のスウェーデンから生まれたことも日本では殆ど知られていないのではないでしょうか?元々、音楽ストリーミングという市場自体を作り出したSpotifyですが、ここ数年でオーディオ市場は大きな変化があり、それに合わせてSpotifyも様々な新規事業に乗り出しています。今回は、そのSpotifyを詳しく見ていきたいと思います。

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二人の創業者

Spotifyの創業は古く2006年です。ちょうどFacebookができて2年後、Snapchatが始まる5年前。創業者二人はスウェーデンの首都ストックホルムで出会いますが、年の数が10歳以上離れているコンビです。後にCEOとなるDaniel Ekは当時23歳、もう一人の創業者Martin Lorentzonは当時37歳でした。ただ、23歳と言えどもDanielは既に何度も起業をしており、Spotifyは5社目ぐらい、Martinにとってもそれ以前に始めた会社をスウェーデンで上場させ、Spotifyは2社目の起業でした。

どうでも良い話ですが、実は個人的にはスウェーデンには深い思い出があります。私が大学1年生の頃、実家に交換留学生を1年間、受け入れたのですが、その時に来たのがスウェーデンからの高校生でした。もう20年以上も前になりますが、その後もずっと関係は続いており、我々の結婚式に来てくれたり、彼の結婚式には家族総出でスウェーデンまで行ったり、一昨年に仕事にヨーロッパに行った時には週末を挟んでロンドンからデンマーク経由でスウェーデンに入り、10年ぶりの再会を果たしました。なので、スウェーデンと聞くと、自然と親近感が湧きます。全くSpotifyには関係ない文脈ですが。

Daniel Ek:生まれながらの起業家

Spotifyの話に戻ります。Daniel Ekは生まれた時から起業家タイプの少年でした。2017年3月に公開されたこちらのインタビュー記事によれば、家は貧しくシングルマザー(2012年1月のForbesの記事によれば父親はDanielが生まれてすぐに家を出て行ってしまった模様)の家庭だった様ですが、小さい時から独学でコーディングを学び、14歳の頃(1983年生まれなので、1997年頃)には相当なスキルの腕前になっていました。時はインターネットバブルで、どの会社や店舗も自らのホームページを作りたがっていて、当時の相場ではシンプルなウェブサイトでも大体、制作に50,000ドル(約500万円)程度掛かっていたそうです(下はSpotify創業当時のDaniel、Forbes記事より)。

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14才(というと中学生ですね)のDanielはそれを大幅割引した$100で制作を請け負うことから始め、次第に顧客数を増やし、単価を上げていき、更に学校の同級生にデザインや簡単なプログラムを教えて手伝ってもらうことで、月に$50,000(約500万円)の収益を出すほどのビジネスを高校時代には作っていました。しかも、それを顧客との連絡用に秘密の携帯電話を使い、学校のコンピューターラボをフル活用し、学校の先生にも両親(その頃には母親が再婚)に気付かれずにそのビジネスを回していたというのだから驚きです。ただ、そのお金の使い道に困って、高いギターやありとあらゆるゲームを買い漁っていたので、さすがにそれが原因で親にはバレることにはなった様ですが(!)。

もう1つ、Danielの家庭環境が後のSpotifyのアイデアに繋がっていくのは、(Forbes記事によれば)母方の両親、Danielにとっては祖父母、が一人はオペラ歌手でもう一人がジャズピアニスト、という音楽業界にいたので(が、なぜかDanielの母親は音楽業界ではなく保育センターで働いていた模様)、幼い頃から音楽が身近にあり、家にも様々な楽器が置いてあった様です。それが、後にSpotifyを始めるときに、音楽とテクノロジーが重なる領域で事業を起こしたい、という思いに繋がり、最終的には音楽ストリーミングというアイデアに行き着きます。

さて、中学時代から始めたその様なサイドビジネスを回しながら、高校卒業後はスウェーデンのトップ理系大学であるSweden's Royal Institute of Technology(スウェーデン王立工科大学)に入学しますが、つまらな過ぎて8週間で辞めてしまい、そのサイドビジネスに本格的に取り組みます。その頃にはそのビジネスも大きくなり、両親に引っ越してもらった実家をオフィスに30名程度のエンジニアを抱え、大量のサーバーを購入し、顧客からの注文を受けながら様々なプロジェクト(いくつかは法人化をして)を同時並行で回していました。

全てうまく回っていた様でしたが、唯一の問題は税金を払っていなかったことです(!)。何らかの脱税の匂いを嗅ぎつけたスウェーデンの税務当局が突然やって来て、これまでの利益を計算すると数千万円の納税義務があると。Danielとしては稼いだお金は使うか、残りはプロジェクトへの投資に当てていたため、手元のキャッシュは僅かしかなく、仕方なく従業員もレイオフし、一時期、自己破産も考えていた様です。それが2005年ぐらいだったのですが、その年9月にeBayがスウェーデンのSkypeを$2.6Bn(約2,600億円)で買収したことをきっかけに(Danielによると)様々な企業が他のIT企業や資産を買収する、というM&Aが活発になり、そのトレンドに乗っかる形でDanielが行っていた複数のプロジェクトを続々と他社に売却することに成功しました。

その結果、数千万円の納税義務を負うところから、一気に手元に数億円が転がり込んでくる、という幸運に恵まれました。この後、Danielはやる気がなくなり、少し鬱病になりかけたりしながら、自分は本当は何をしたいのか、と自問自答する時間を多く過ごす様になります。ちょうどそんな時、後にSpotifyの共同創業者となるMartin Lorentzonに出会います。

Martin Lorentzon:経験豊富なCEO

若くて血気盛んなDanielと比べて、もう一人の創業者であるMartin Lorentzonは2006年当時、自らが始めたスウェーデンの上場企業の取締役会長でした。その職を投げ打ってSpotifyを始める訳ですがから、生半可な決断ではなかったことは想像に難くありません(下の写真はDanielとMartin、Startup-bookより)。

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MartinはDanielと歳が14離れた1969年生まれ、Danielがスウェーデン首都のStockholmの郊外で生まれ育ったのに対し、Martinはもう少し南、デンマーク近くのスウェーデン第二の都市Gothenburg近くの街で生まれ育ちます。大学も、Gothenburgにあるスウェーデンで1位2位を争う名門私立大学 Chalmers University of Technologyに行き、Industrial Economicsで学位を、Civil Engineeringで修士を取得します。

大学に通っていた1995年、Martinはスウェーデン大手のモバイルキャリアであるTeliaでインターンをする機会に恵まれます。そこで仲良くなった上司に誘われる形で、大学院卒業後はスウェーデンからシリコンバレーに移住し、当時Googleができる前のインターネットの検索エンジン大手だったAltaVistaでインターンを始めます。その傍らでフルタイムの仕事も探し始め、最終的にはCell Venturesという、名前からすると恐らくVCで仕事を得た様です(Cell Venturesについては詳しい情報が見つけられませんでした)。

そのCell Venturesで出会ったのが、その後1998年に一緒にNetstrategy(同社は翌年にTradedoublerに発展解消)というデジタルマーケティングの会社を立ち上げることになる、共同創業者のFelix Hagnöでした。Felixは当時スウェーデンのアパレルブランドであったJoyの創業者Bengt Hagnöの息子でした(Joy社は2016年に同じスウェーデンのリテールチェーンであるMQ社によって買収。ただ、そのMQ社もこのコロナの影響で今年4月に破産申請)。その後、BengtはSpotifyの初期の投資家になるという繋がりがあります。

その後、Tradedoublerはヨーロッパで最初のアフィリエイトマーケティングを提供するプラットフォームとして急成長します。3年後の2002年には取扱高は€200M(約250億円)に達し、黒字化も達成しています。同社は2005年にスウェーデンの証券取引所に上場し、ピークからは落ち込んでいますが、今でも健在です。2019年の売上高は150億円程度、現在の時価総額は15億円程度です。

DanielとMartinの出会い

DanielとMartinの出会いはTradedoubler時代の2005年に遡ります。前述の通りDanielは当時、大学を辞めて複数のプロジェクト、スタートアップの運営に携わっていました。そのうちの1つがオンラインマーケティングサービスを行うAdvertigoという会社で、Forbesの記事によれば、TradedoublerがAdvertigoにあるプロダクトを作って欲しいと発注します。そのプロダクトの出来があまりにも良かったので、会社毎約1.5億円程度で買ってしまったとのこと(買収はニュースでも取り上げられていました)。

それが切っ掛けでDanielとMartinは一緒に時間を過ごす様になります。当時のDanielは数億円のお金を手にして、一度、人生をリタイアしようとしますが、最終的にクラブで飲み歩いているだけでは幸せになれないと気付き、何か世界を大きく変えるものを作りたいと思う様になります。では、何をするのか?その時点では何をするのかは明確に分かっていなかったのですが、少なくとも少年時代からのパッションであった、音楽とテクノロジーが重なる領域で何かをやりたいと思い、新しい会社を始めることを決意します。2006年4月のことです。

Martinもその会社を一緒に始めることに同意しますが、ここで面白い話があります。Danielは、当時Tradedoublerの取締役会長だったMartinは、失うものが多すぎて恐らくTradedoublerを辞めないだろうと考えて、1週間の期限を付けます。その週末から1週間以内に、Martinが取締役会長を辞めることをパブリックに発表・辞任し、更に新しい会社設立資金として€1M(約1.2億円)をDanielの銀行口座に送金することを条件とします。Danielが驚いたことに、1週間を待たずして翌月曜日にはTradedoubler社はMartinが取締役会長を辞任するプレスリリースを出し、更には€1Mの着金も同じ月曜日中に確認が出来ました。

こうして正式に2006年6月に新会社がスタートします。Spotifyという名前の付け方もユニークです。本当かどうかは分からないのですが、まだ音楽 x テクノロジーの領域で何をするかが明確に決まっていなかった頃、二人が隣り合わせの部屋で新しい会社の名前のアイデアを叫び合っていたところ、Martinがたまたま叫んだ名前をDanielが聞き間違えて、それがSpotifyだったということの様です。Spotifyというドメインは誰も取っていなかったので、すぐに取得し、それを会社名にしました。スペルを間違えて付けた "Google"に何となく似てますね。

さて、会社名は決まり、会社の設立も行いました。そこからサービス内容を詰め、開発をスタートしますが、最初のローンチは何と2年半後の2008年冬になります。一体、何が原因でそんなにローンチが遅れてしまったのでしょうか?次回はその原因から見ていきます。

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