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よりよく生かす「ゲームライク練習」を考える

 私の身の回りで、バレーボールの練習に「ゲームライク」的な、ネット越しのラリー形式を盛り込んだ練習の必要性を耳にするようになったのは、10年ちょっと前くらいからようやくだったような気がします。もちろんそれまでも行われていたと思いますが、それはあくまで6対6の実戦練習が主で、さまざまな練習ドリルとして組み込まれてきたのは、最近のことように感じます。
 しかし、この「ゲームライク」というものにも、コーチ(指導者)はよくよく考察を加えながら行わないと、せっかくのドリルも効果が薄まってしまう可能性があると考えています。

 ゲームライクの練習を、何か特効薬や万能薬のように思っている日本のコーチ(指導者)が少なからずいるような気がします。つまりは、ただ漫然とドリルの形式を取り入れて漫然と取り組ませている場合です。私は、ゲームライクをしていればいいとは思っていません。
 しかし、ゲームライクの要素のある練習は、実戦形式練習も含めて、バレーボールの競技力向上には不可欠なものです。それは「練習のための練習」、「儀式的練習」、「コンテスト練習」で終わらせないためにも、重要だからです。オープンスキルって言われるような、様々な状況の中で常に判断を求められ、それに適したプレーを選択するような力も必要になってきます。
 ゲームライク的な練習は、ただ単にメニューのやり方だけをチームに導入しても、練習効果はあまりないと思っています。ゲームライクをどのように構築し、どのように取り入れていくべきか、さらにはドリルや練習の中でコーチ(指導者)はどのような視点で選手やチームを見ていけばよいのか。そのあたりが考察され、選手とシェアされると練習効果はもっと大きくなると思います。

(1) 練習における「ゲームライク」の特性

 文字通り、ゲームのように、実戦に近いゆえ、実際の試合に役立つ大きな練習効果が期待されるわけですが、それはなぜでしょうか?

 ・ネットをコートというプレーに影響を与える環境がある
 ・選手間のコミュニケーションが求められる
 ・選手間の動きの連携が求められる
 ・「修正」をしていく作業
 ・不規則性が増し、状況判断や動きの調節が求められる
 ・リスクを背負いながら自分のプレーを決断する。

 
 という要素があり、これらはネットを挟まない練習ではなかなかトレーニングしきれない要素でもあります。しかし、ゲームライクの練習の大きな特性で見逃せないのは、修正作業をしていくトレーニングです。
 これまで、日本の指導現場でゲームライクの重要性があまり注目されていなかったので、クローズドスキルの練習に終始したり、その中の断片的な個々のスキルのボール精度・正確さばかりが求められてきたように思います。
 この延長上において、ゲーム(実戦や試合)では、何事にもプレーの精度の高さを要求されるようになっていきます。サーブの精度からはじまり、レセプションの精度、セット(トス)の精度、スパイクの精度・・・それぞれが正確に、確実になされないと、一つ一つがいちいち指導の対象になっていったわけです。
 しかし、実際の試合では、すべてを正確に予定通りになどなりません。むしろそうさせないようにゲームしていくわけですから、正確にならないことの方が多いわけです。ですから、ファーストタッチが正確にいかなければ、次のセット(トス)の修正によって最大の攻撃を生み出さねばなりません。セット(トス)が乱れてもアタックを果敢に仕掛けることで得点にすることができます。
 つまりは、予定調和を打ち破り、いかにコンフォートゾーンを広げるかが、個人のスキルやチーム力の強化になるということです。ゲームライクは、そういったものを養う機会になるわけです。

(2) ゲームライクを取り入れた練習の視点 

 ゲームライクは、主にネットを挟んで様々な状況判断を伴いながら、ボールをコントロールし、ネットの向こう側にいる相手への返球を決断していくものです。
 従来は、各々のスキルをクローズド的に行い、それらを組み合わせながら、最後はゲームライクな実戦につなげてまとめるという手法が多いように思います。しかし、私はゲームライクの練習は1回の練習の中のどの時間帯にも組み込むことができ、しかもなるべくゲームライクの練習は多く設定した方が良いと思っています。では、どのような練習プランで組み込むことができるのでしょうか?

① 練習の性質で考える

◇ラリー継続を目標とした練習
 →個別のスキルや、スキルチェーンの精度や完成度を高めるために行う。
  ラリー継続の回数を目標設定とし、その継続に必要なミスをなくす努力と
  そのプレッシャーを克服するメンタルを養う。

◇得点奪取、セット奪取を目標とした練習
 (ミニゲームやウォッシュゲームなど)
 → いかに相手よりも先に得点をし、失点を最小にするか。
   そのために必要な戦術や判断力を養う。

② 練習の負荷(難易度)で考える
 スペース、人数、返球回数、返球方法、返球コース、強打軟打の指定、位置、ゾーン、得点設定、ボールの個数・・・
 こういったものの設定によって、ゲームライクドリルの難易度を調節できます。
 難易度によって具体的にトレーニングされる視点としては、

・運動負荷     :豊富な運動量に耐えうるか。体力。    
・思考判断負荷   :いかに瞬時に、最適な判断ができるか。判断力。
・心理負荷     :リスクに対する積極果敢性、試合勘。精神力。

などがあり、どういった目的やねらいで行うかを明確にしておく必要があります。

③ 練習の目的で考える
 ただ、ゲームライクをやらせておく以上に、適切なタイミングで、適切で必要な情報をフィードバックさせてやることで、個別のスキルやゲームにおける機能や考え方を訓練することができます。考えられる

・個別スキルのチェック
・チームとしてのシステムや機能のチェック
・ゲーム中の思考判断
・ゲームにおけるメンタルのチェック

 「全習法」と「分習法」という考え方でいえば、全習法としてのゲームライク練習を行い、フィードバックを分習法として行う。この場合はパートナー練習だとか、個人練習も含みます。その後チェックとしてのゲームライク練習を行い、再び全習法に返すことで、ゲーム内容の進歩を見ることができます。
 とにもかくにも、ただ単にハウツーとしての、ゲームライクドリルをやらせることに終始することだけではなく、ねらいや目的、そしてその実現に必要なフィードバックを適切に行うことではじめて、ゲームライクドリルの効果を発揮していきます。

(3) 戦術面への影響

  最後に、従来の個別スキルの型にはめた練習や、定点精度重視の練習傾向から、ゲームライクを取り入れた練習によって、日本のバレーボール界に染みついた風土も影響を与えると考えます。
 ・サーブミス回避優先
 ・フリースパイク特化型練習エース
 ・Aパスへの強迫観念 
 ・ニアネットにかかわるミスや失点
 ・バックアタック特殊能力論
 ・はやいひくい近い高速バレーへのあこがれ
 ・リードブロック不要論

 こういった、現代のバレーボールの考え方にはそうぐわない旧式のバレーボール観に変革の必要性が生まれてくると考えます。
 
 さらには、それまで指導者に従属的で指示待ち的な選手が、より主体的に能動的に、プレーに発想やクリエイティブ性も生まれてくるはずです。

日本でも練習のスタンダードになりつつあるゲームライク練習を、ただ単に、ハウツー的に見た目のドリル形式をやらせるだけじゃなく、その目的やねらい、内容や考え方をみんなで話し合っていくことも必要です。


(2017年)