「つくる」 → 「引き出す」
「つくる」 → 「引き出す」
選手には選手の楽しみや遣り甲斐、目標や夢があります。
コーチにはコーチの楽しみや遣り甲斐、目標や夢があります。
スキルアップをしたい、上手くなりたい、勝ちたい・・・
こういったものは、両者に共通した欲求だとも思います。
しかし、それらを実現しようとする際に、どのような過程を踏んでいくのがいいのか・・・。確かに短時間で確実にそれらが達成するのがいいのでしょうけど、何事もそうでしょうけど、短時間で間違いなくうまくいく方法っていうのは、そう簡単に見つかるものではありません。
選手はつくられたのではない。自ら成長してきた結果であるだけだ
コーチする側としては、チームを率いて勝利を得たり、大きなタイトルを獲得するというのは、正直大きな喜びであり、達成した時の感覚は何ともいえないものがあります。また、指導した選手がその後も活躍を続け、キャリアアップしていくこともコーチとしては大変な誇りになります。しかし、「オレが勝たせてやった」、「アイツはオレが育てた」という発想のレベルではいけないのだろうと思います。周りも過度にそのことのみで崇めるのもあまり好ましいとは思いません。
コーチというのは、確かに自身の手腕によって、チームを勝利に導いたり、選手の能力を開発することが期待されるのですが、それは、何かモノを作るというイメージよりも、表に出てきてはいないものをいかに引き出すか、またはいろんなものに化学反応を起こさせるようなきっかけを与えるのか。そういった部分が本来求められているんだと思います。
「プレーヤーズ・ファースト」、「アスリート・センタード」といわれています。
選手に任せるといっても、放任でもなければ、すべてを選手に決定させるというわけでもないと思います。カテゴリや選手やチームの状況にもよりますけど、コーチが手を加える部分だってあると思います。ただ、コーチが手を加えても、選手や外部から見て、コーチが何かをするよりも、自分たちで自立的にやっている「ように見える」という手腕もあるかもしれません。
別の視点としては、「選手に何をやらせるか?」という側面だけじゃなく、コーチ(指導者)が、どのような存在でいようとするのか?という点も大事なのだと思います。
「コーチ―ズ・ファースト」的になっている場合は、まさにオレが勝たせる、オレが指導するから・・・といった指導者主導であり、「指導者が主役でつくる」という発想に立脚しているのだと思います。
「教える」という概念から離れる
そうではなくて、コーチ(指導者)は、「引き出す」、「導く」、「支える」・・・そういったスタンスをもって、アプローチや指導方法を確立していくことで、プレーヤーズ・ファースト、アスリート・センタードにシフトチェンジしていくのではないかと思います。
そういう意味合いが浸透していけば、無理やり短期で結果を出す強迫観念よりも、思考錯誤やディスカッション、課題修正や目標修正、よりマクロなスキルアップの練習・・・本当の「育成」、グローバルな育成が近づくのだと思います。
まずは「観察力」
選手たちのパフォーマンスだけではなく、表情やしぐさに至るまで、一緒にいる空間が充実しているか、実行しているドリルやプログラムが良いエフェクトや学習になっているかを、じっくり見て観察する力がこれからはますます必要になってきます。
観察をするためには、ある種の忍耐や待ちのマインドが必要になってきます。コーチ側のメンタルの訓練が必要になってきます。感情に任せた指導をすることは評価されない時代になってきてますし、高圧的な指導や恐怖によって選手を覚醒させようとする手法は通用しなくなってきています。
観察は、ただ見守るのでもなく、ただ眺めているのでもなく、選手一人一人の心理やパフォーマンス、チームの状況、課題や問題点の分析、・・・たくさんのものを思考していく作業です。
次に「専門性」
自分の経験や限定的な知識、他人からコピーしてきた情報に頼って指導する時代ではなくなってきます。コーチ(指導者)は常に学び続けなければなりません。社会の価値観や文化、テクノロジーが年々めまぐるしく変化し進化している中、バレーボールのコーチングが昔のままでいいということになるはずがありません。
ボランティアを理由に、傲慢な態度でコーチをするべきではありません。時代の変化を理解し、自ら変容し、選手や保護者からも学び、コミュニケーション力を高めていく。そしてバレーボールについても、自分のカテゴリで完結する指導方法にとどまるのではなく、アンダーカテゴリの成長過程やディベロップメント、そしてトップカテゴリのスタンダードから系統性を分析し今必要なものを洗い出す。こういった専門性を高める努力は日々続けなければいけません。
3つ目は「発展性」
コーチがあらかじめもっている鉄則や原理原則、理論みたいなものがあって、それらの実現や完成度を上げるために練習を考えている人が多いです。
しかし、目の前にいる選手たちの個性やパフォーマンスをいかにアレンジしてより良いチーム組織や戦術を生み出すか。そして長期的なトレーニングの中で、選手一人一人が別々の成長・・・ある選手はメンタルや思考方法が変わるでしょうし、ある選手はフィジカルが向上するでしょうし、ある選手は新たなスキルを獲得するでしょうし・・・そうなっていったとき、コーチはそれを生かした、次のステップ、次のステージをコーディネートできるか。ある意味、ゴールや完成形をもたない、積み上げ的足し算的なディベロップメントを創造できるか。
そして「引き出し」
練習ドリルやトレーニングメニューというものは無限にあるし、選手個々へのフィードバックは千差万別。それらにフレキシブルに対応し、教え込む、頭ごなしにはめ込むのではない、選手の自発的な思考やモチベートを誘導し、自己との対話と他社との対話を促進させる。
コーチは、ワンパターンなアドバイスや練習の提供ではなく、その場の空気にも対応できるほどの即興性や応用性をもっておくことが求められます。
そうなるために、より志を同じくした指導者の「横のつながり・連携・連帯」が必要だと考えています。
(2015年)