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「育成」というものに光をあてるところから

 なぜ、日本のバレーボール、スポーツ界でアンダーカテゴリにおける「育成」が根付いて行かないのだろうか?と考えるわけです。
 多くの人みんなが「育成は大事」だと思うはずです。上のカテゴリからすれば、しっかり育成された選手がたくさん出てきてほしいのは当然のことだと思います。ですが、日本のバレー界でいう「育成」というのは、システムが確立されているのでしょうか?国際的には、スポーツをする子供たちから長期的なビジョンで育成する「LTAD」(Long Term Athlete Deveropment)が当たり前となっています。そういった情勢引けをとらないクオリティになっているのでしょうか?
 システムとしては、バレー界が主導したり牽引してできたというよりも、学校教育の部活動を土台、軸にして体制ができあがってきた要素は大きいのではと思います。では、その中身、質は・・・となると、最近は様々な弊害や課題が浮き彫りになってきているのだと思います。

 今回は、日本のバレーボールにおける「育成」、アンダーカテゴリの育成、これから考えなければいけない育成についての記事です。

 「勝利至上主義」という言葉があります。
 この言葉は、行き過ぎた指導やハードワークによる選手の故障やバーンアウトなど・・・何か弊害が生じる時に使われます。しかしバレーに限らず、スポーツというのは、人と人との共同作業や切磋琢磨、活動を通して自己の人間的成長のために、目標として「勝利」を目指すものです。
 勝利を目指し、努力する過程の中で成長があり、結果から学び新たなモチベーションや気づきが生まれる。勝利を目指すことが悪いのではなく、勝利を求めていく際の手段や方法、指導のアプローチに悪い問題があることが「勝利至上主義」です。
 この「勝利」というものが、「評価」(勝敗)としては極めて明確なものであり、誰にとってもわかりやすい尺度です。当然、負けるよりも勝利した方がいいわけです。
 この「評価」・・・選手としての評価、指導者としての評価は、だいたいは「勝利」をし、より大きな勝利を実績として残した場合、高い評価になります。逆を言えば、そこまでの実績に至らなかった場合は、評価のまな板から落とされることになるわけです。

 これまで多くの議論がなされてきているように、各カテゴリ内での短期間での実績作りの熾烈な競争があるわけです。一年単位の単年度の中で、どのカテゴリも全国大会レベルのトーナメントでのチャンピオンシップが繰り広げられます。こんな何かと結果を求められる情勢では、数年かけてじっくりとした育成などとは言えないのではないでしょうか?
 一つのチームで、選手や部員をたくさん集めたとしても、球拾いをする時間の方が長ければ、よりよい育成をしているとはならないです。

 全日本やVリーグの選手のバレーボール教室はそれはそれでいい刺激になりますが、一発止まりでその後の発展につながりにくいです。継続したかつ発展性のある育成にするためにはどうしたらよいのか?

 ゴールはどこに定めたらいいでしょう?ゴールというのは、その人、一人一人で違って当然なのですが、競技スポーツ的には、にはやはり「ナショナルチーム」なのだと個人的には考えています(究極的には)。
 いくら競技スポーツであっても、アンダーカテゴリにおいては、一年後の全国大会がゴールではないのだろうと思います。
 ナショナルチームは、国の代表選手、代表チームとして、世界を相手に戦うわけです。そういったスキルや資質のある選手や育てるためには、1年や3年でできるでしょうか?そんなに簡単だったら、すごい選手がゴロゴロ出てくるはずです。そうは容易くはないわけです。ましてそんな大変なミッションを、ひとつの学校やひとつのクラブの一人の指導者で担えるでしょうか?まったくもって無理な話です。
こうやって文章で書いていけば、至極あたりまえな話なのに、現場ではなかなか改革が進みません。
「強化」はどちらかというと、少数精鋭&短期スパン のイメージをもっています。
これに対し、「育成」は、 より広くより多くに、長い長い時間と手間暇をかけて のイメージです。

 最近では、小学生や中学生などの育成世代における、加熱するタイトル争いを抑制するために、全国大会やトーナメントによるチャンピオンシップをなくせば・・・という声も出ています。
ただ、少なくても、なぜこのように、日本一や全国大会出場などのタイトル争いが過剰になるかといえば、それは「評価しやすい」、「評価されやすい」からなのだと思います。

 そこで仮説というか、思うことは、育成や普及にも、しっかり「評価」やそのしくみがあればいいのではないか?ということです。
あるあるなのは、「全日本選手を輩出したか?」、とか「強豪校に何人送ったか?」・・・というのが見られますが、それは育成の評価としては、核とはなりえないと思います。
むしろ、
「楽しむ」ことを徹底的に浸透させたFUNdamentalとなっているか? とか、
より多くの初心者にバレーを出会わせているか? とか、
プレーヤーズファースト~試行錯誤や主体性を保障しているか? とか
いかにコーチングを学ぼうと努力しているか? とか、
いかに上のカテゴリでも長くバレーをさせているか? とか、
モチベーションを高める工夫に長けている とか、
地域の活性化や指導者間のネットワークづくりに努力している とか・・・
そういった部分に、もっと注目や評価が向けられないと、
この風土はなかなか変わっていかないと思います。

 試されているのは、「仮に」小学バレーや中学バレーで、日本一決定戦がなくなったとしても、多くの指導者は親が、遣り甲斐をもって、バレーボールの活動に向き合えるかということではないでしょうか?
戦績や順位は、誰が見てもわかる指標です。でもそれだけでは評価しきれない、大切な努力や取り組みがあるはずです。そこにも焦点や評価が向けられることで、このバレーボール界に携わっている人のかなりの数の人が、今までにはない遣り甲斐や自負、誇りや責任を感じて、輝きや張り合いを取り戻すことができるのではないかと考えています。

「失敗から安心して学ばせる」への転換

 全員中学1年生の初心者をみていて6か月(半年)。ここにきてコーチングの停滞を感じてきています。なんでもかんでも常に右肩上がりというわけにもいかないでしょうから、ここは我慢の時期なのだろうと思います。どうしても、他との比較や周囲との比較・・・そうなってくるとこちらに焦りが生じます。でも指導者が焦ったところで、選手には何ら関係がありません。
 一方で、選手にフォーカスを当てていくと、他に改善の余地はないだろうかと観察をしてみます。フォームの修正やアドバイス、ドリルの内容の検討・・・となっていくわけですが、最近は、「何をやらせるか」ということよりも、「どうやらせるか」が、課題になっていると感じています。

 中学生は、ゴールデンエイジを過ぎていますから、いわゆる「身体で覚える」というものには、時間がかかるのだろうと思います。ですから、さまざまな刺激を与える・・・例えば、見本や示範、映像など視覚に訴えたり、文字を介してレクチャーしたり、ディスカッションを介したアウトプットを用いたり・・・そういった作業をもっと取り入れなければいけないのかな?と思ったりします。

 一方で、運動時の心構えと言うか、思考の状態にも気を配らねばならないと思います。「Mindful Repetitions」( 意識の高い繰り返し)というものが大事だとつくづく感じます。
 よく、「失敗を気にしない」といいます。これは、初心者のコーチングでは大切にしたい部分のひとつなんですが、個人的にはゴールデンエイジを過ぎた子たちのスキルアップのスピードを少しでも促進することを考えると、ただ単に無思考の反復練習をしてもいけないのだろうと思います。
 「Mindful Repetitions」( 意識の高い繰り返し)とは、どんな状態なのでしょうか?
   ・なりたい姿、目指す状態がある。(目標)
   ・そこに至るために自ら工夫や修正などの思考錯誤がある。
   ・工夫や試行錯誤の過程にコミュニケーションが図られる。
   ・自分を客観視できる機会がある。
   ・適切なフィードバックや評価を得る。
 こういったものが、反復練習の中で常に意識の中にあってなされる状態が、意識の高い反復になるのだと思います。

 サーブがなかなかネットを超えない選手がいるとします。時間を計りひたすら打たせるとします。でも見ていると、同じボールの軌道だったり、同じトスだったり、同じ力の入れ方だったり・・・むやみに回数を費やしているだけで、同じような失敗を繰り返しています。これでは、上達のスピードは上がりにくいと考えるわけです。
 そこで、「こうやってみたら」・・・などのような、フィードバックをします。または、「たまたま」「まぐれ」を見逃さず、「今のような感じ」「今のような腕の振り方で」・・・みたいな評価を与えます。そしてその後はいちいち言わず、じっくり取り組みをさせます。または、「今のキミはこんな感じだけどどう?」と撮影した動画を見せます。こういったものを繰り返していくことで、「意識の高い反復」を維持していく作業がなされていかないといけないのかもしれません。
 ・練習やプレーの目的や目標、ねらいを理解してから行う
 ・「安心して失敗できる」コーチングと試行錯誤
 ・自分や他者との対話をはかる

 何もしていないと、特に中学生などの世代というのは、メンタリティーでも難しい年代で、集中力やモチベーションも不安定です。はっきり言って、恐怖によって統率牽引していくのが手っ取り早いかもしれませんが、それでは自ら考えて伸びてはいかないだろうと思います。

「ゴールデンエイジ」とよばれる時期の子どもには、そんなに細かなレクチャーなどせずとも、どんどん運動を覚えていくだろうと思います。

でも、ゴールデンエイジを過ぎた初心者には、同じアプローチでは息詰まることが多いのではないかと思います。だから育成世代のコーチングでは、それぞれのカテゴリの特性を理解し、それぞれに合わせて両方とも指導できるように、研究していかねばならないと思います。

 中学生などのポストゴールデンエイジは、神経系の発達の終息にともない、運動を運動で覚える労力が大きくなります。ですが、「試行錯誤」や「工夫」は絶対必要です。現場の課題としては、あまりにも「管理された練習」が多すぎで、バレーボールを自主的に練習したり、自由な発想で「遊ぶ」時間や場所があまりにも少ないということにも触れておおきたいと思います。
 「管理された練習」だけでは、自主性も創意工夫も試行錯誤も生まれにくいです。案外、管理された練習があり、そこから解放された遊びの時間がうまく絡み合うことで、試行錯誤やフィードバックを自動的に生み出していくのではないかと考えています。
 一方で、「失敗を気にしない」では、伸びるものも伸びないと思います。むしろ「安心して失敗から学ぶ」、「失敗が致命傷にならないように受け止めさせる」ということが大事だと思います。ですから、「失敗から安心して学ぶ」ことができる環境づくり。だから、コーチングとかフィードバックというものがもっと重視されなければいけないと思います。


(2015年)