「頑張る」とは何か?思考力と判断力による「組織力の崩し合い」
ボールコントロール以上に大事なこと
チームスポーツにおいて、「個人の力を最大限に発揮する組織力」というものが重要だと思っています。
これが、仮にいかに難易度の高い複雑なシステムや戦術を構築したとしても、ボールを処理する個人のパフォーマンスが出しにくいものであっては、決定力を落としてしまうと思うのです。
・「ディフェンスはシンプルに、オフェンスは多彩かつダイナミックに」
・自チームの「インシステム」の実行を維持し、「アウトオブシステム」からの得点力を上げる
・相手チームの「インシステム」の実行を妨害・阻止し、「アウトオブシステム」にもちこませる
・常に、「意図的なプレー」を維持し、「カウンター・マインド」を維持する。
バレーボールのゲームを優位に持ち込む要素には、よく言われてきたところの高さやパワー、スピード、戦術の複雑さ・・・いろいろあるんでしょうけど、どれか一つを追究したところで、「ゲームという総体」を制するにはつながらないと思っています。
日本のバレーボールは、欧米に比べて高さやパワーがないという「言い訳」に近いロジックによって、フィジカルの強化や世界の標準的なプレーの導入から目を背け、「はやさ」「スピード」「うまさ」というテーマを設定してきました。
ところが現実は、21世紀に突入してからの世界における現代バレーボールの土台を築いたブラジル男子などは、平均身長がずば抜けて高かったわけでもなく、圧倒的な強さを発揮しました。対する日本は、ブラジルの繰り出す複数人アタッカーによる、同時多発位置差によるシンクロ攻撃に、ブロックシステムがついていけず崩壊に。結局「はやさ」を求めていたはずのはずの日本は、ブラジルのシンクロ攻撃を前に思考も動きも追いついていけない「結果的にはやさについてけない」という、なす術がなかったわけです。皮肉なものです。
動画にあるような、ブロックがついていけない局面、ノーブロックになる場面の多くは、セッターから供給されるボールの球速が速いことによってのみ達成できるものではないです。
オフェンス側が、相手ブロックの意表を突いたり、3枚のブロッカーの思考判断を鈍らせるまたは遅らせるために、オフェンス側が複数の可能性を相手に最後まで意識させる。動画にあるように、スパイカーにゆったりとしたボールをセットしても、相手ブロッカーの思考を鈍らせたり思考停止にさせることで、スパイカーが最大に能力を発揮できる攻撃が可能になるわけです。
日本のバレーボールでは、とにかく何とか戦術、何とか攻撃みたいな、何か必殺技みたいなものを欲しがります。何かそういった看板みたいなものを欲しがります。誰が生み出した戦術だとか、どこでやっている戦術だとかを自慢げに語りたがります。
それらの完成を目指そうとして掲げた戦術は、1980年代以降、日本は男女とも成功した例はないと思います。
そうじゃなく、もっとバレーボールというゲームの構造に焦点を集めてみたらどうでしょう?相手のブロックが3枚あって、そのブロックシステムをどのように崩壊させるか。でも自チームの選手の攻撃のパフォーマンスを下げるようなことがあってはならない。例えば、やたらとスピードを求める「はやい低い」攻撃では、一時的には相手のブロックは驚くかもしれないが、攻撃のパフォーマンスが低い分、容易に対処できてしまう。
バレーボールは、カッコいいコンビネーションや、難易度の高い複雑なシステムを、見せて評価を得るような採点競技ではないのです。観る側も、コンテスト的な視点をなくして、もっとゲーム構造とプレーヤーの思考の在り方に目を向ける必要があると思うのです。
バレーボールは、高さ勝負よりも前に、スピード勝負よりも前に、そして難易度競争でもなくて、選手自身による高度な思考判断の応酬、それによるちチームの組織、システム、パターンの崩し合いによるものである。
それを伝えたり、育成現場では教えたり育んだりしていくことが重要だと思っています。
バレーボールの頑張りどころ~脳内で汗をかいているか?
私が考えている、バレーボールのゲームにおける原理原則みたいなテーマは、
・「シンプルに守り、多彩に攻める」
・「個のパフォーマンスを最大に発揮させる組織力」
・「相手に柔軟に対応できる組織力とシステム」
・「相手のイン・システムを壊し、自チームのアウト・オブ・システムの得点力を上げる」
・「選択肢や判断材料を複数持ち合わせている」
・「ゲームシナリオ構成力」
など
たくさんあるのですが、「必死に」とか「気合を高めて」というものとは、まったく性質を異にするものだと思います。
バレーボールのゲームにおいて、「がんばる」とは何でしょうか?
何をもって「頑張っている」と評価できるのでしょうか?
日本のバレーボールの「頑張る」観って、何か歯を食いしばって苦難に耐えるとか、汗だくだく息を切らしてでも必死にボールに食らいつくとか・・・そういった悲壮感漂うような、追い込まれた姿をイメージすることが多いのではないでしょうか?
だから、未だに、同じメニューを何十分も延々と反復させる練習や、ワンマン、ツーメン、スリーメンでポジショニングも何もあったもんじゃないしごきの練習や、千本ノック的な苦行な練習が、あちこちで繰り広げられているのだと思います。小中学生の小さな子供を相手に、学校がない休日を終日びっち練習漬けにしたりするんだと思います。
バレーボールのゲームにおいて、「頑張る」とは何でしょうか?
普通に考えて、「相手よりも優勢な状態を保つ」または、「相手よりも優勢な状態を保つための工夫や努力をする」という作業や動きをすることなんだと思います。そこにには倒れそうになるくらいの激しい運動量や、絶叫に近い大きな声などあまり関係ないと思います。
バレーボールのディフェンスを例に考えると、汗だくだくで動き回らなければならない守備をやっているとしたら、それは消耗が激しく、時間とともに相手の攻撃が上回ってきます。
「シンプルに守れる状態にする」
これが、バレーボールのディフェンスの重要なポイントだと思っています。
バレーボールのオフェンスを例に考えれば、秒数を図ってクイックリーな動きをし続けたり、球速を上げることにエネルギーを注ぐのではなく、
「多彩な攻撃オプションを確保する」、「ハイパフォーマンスを生み出す」
これが重要だと考えます。
このブログの記事にも話題が出ていますが、例えば、相手のオフェンスプレーの選択肢を無くさせます。そうすれば消去法的に、自分たちが対応すべき状態は限定されてきます。ですから、「ブロック」というものは、キルブロックでシャットをすることよりも、この「限定」という要素が大事なんだと思います。
まずサーブで相手オフェンスのやることに制限をかける。続いてブロックで相手のやることが限定される。あとは自チームが限定されたことだけに対処すればよい。
ディフェンスを頑張るということは、汗をたくさんかくことでもなければ、運動量をかせぐことでもなければ、大きな声を出し続けることでもないと思うのです。
選手自身の思考判断を最大限に働かせ、体力と思考判断の消耗を最小限にし、それにともなって正確なポジショニングから、この能力をダイナミックに発揮させつつ、無駄な消耗を最小にする。
頭脳の運動量を最大に発揮し維持させること、そして思考停止状態があるとするのなら、それは相手を思考停止状態にもちこむ。そのための手立てを瞬時に判断し連続的にプレーとして生み出していく。
それが、「頑張る」ことなんだと思います。
もっと、眼には見えにくいもの、静なるところの、「頑張り」を焦点化すべきなんだと思います。
バレーボールの醍醐味がそこにはあるんです。もっというと、実況や解説だけでなく、トップカテゴリのコーチや選手はもっと「脳内で何が起こっているのか?」を伝えた方がいいと思うのです。
アンダーカテゴリの育成現場では、そろそろ練習の方向性も見直していきませんか?
(2018年)