コーチがもちたいバレーボールでの心がまえ(練習・ゲーム)
バレーボールの指導をはじめて十年以上たつことになりますが、従来重視されてきたことよりも、もっと重点化されなければいけないと思うのが、
・タイミング
・ポジショニング
・シーアンドリアクト
の3本柱となるテーマだと思っています。
これに対し、日本での旧来型な指導は、「カタチ」と「正確さ」と「スピード」を重視するものだったと思います。もちろん、これらは全く不必要だとは思いませんが、求める優先順位が違うのではないかと考えています。
【練習におけるコーチの心がまえ】
◆なぜネット上からのボールとゲームライクが必要か?
練習となると、どうしてもフロア上に立った人間がネットを介さずにボールをノックして行うスタイルが多くなりがちです。
これでは、実際のゲームでネット上から打たれるボールと比較しても、ボールの角度だけじゃなく、視覚的な情報違ってくるし、それに伴ってプレーヤーのフットワークやタイミングの取り方も全く異なってきます。ですから、個人スキル練習やクローズドスキルの練習であっても、可能な限り台上や人間がジャンプしてヒットしてくるボールでの練習が望ましいと思います。
「ゲームライク」についても、何度かこのブログでも述べてきたように、ネット上から飛来するボールで行う点で必要な練習です。
◆パターン・プラクティスの長短
パターン化されたドリルを反復することは、そのパターンにおける動きや技術を習得する上では効率が良い練習と言えると思います。そしてそのパターンを増やしていくことで、より様々なケースでの対応力が向上するとも考えられます。
しかし、バレーボールのゲームは、すべてがパターン化されるものでもありません。いくつかのパターンによってゲームのすべてを再現できるものではありません。
ゲームには、必ずミスやエラーが発生するし、失敗とまではいかなくとも、ボールやプレーヤーの位置や動きの速度など、千差万別な変化を見せます。
ですから、パターンやカタチでは説明できないスキルというものを身に付ける必要があると考えます。パターンやカタチだけで練習してきた選手やチームは、やってきたパターンやカタチ以外のことになると何もできなくなる。
どういう戦術の理解や戦術に対して、どの程度のパターンやカタチを練習させておけばいいのか。どういうスキルの練習に対して、どの程度のパターンやカタチを理解させておけばよいのか。そして同時にそれぞれにおいて、どの程度パターンやカタチを与えない方がいいのかも重要な視点になってくると思います。
◆シャドウだけでは補えないこと
シャドウ練習、つまりボールやネットを用いず、イメージやフォームのみで行う練習は、スペースや人員が限られている場合や、練習の導入の理解において有効なものだと思います。
しかし、ともするとシャドウではできていることが、実際ボールを用いたり、相手選手の動きが伴ったとたんに、何もできなくなる光景を目にします。
重要なことは、シャドウで理解したことを実戦でも実行できるか。できなかった場合はフィードバックやスモールステップの一つ前の練習に立ち返って復習することなどを通し、もう一度できなかった練習にトライすることです。
「練習のための練習」で終わっていないかを常に検証する必要があります。
ボールを実際に用いた練習というのは、ボールコントロールが試されるだけではなく、ゲームのシチュエーションにおける思考判断を試すことの方が重要な意味をもちます。
(相手の選手やボールを)「見て動く」(See & React)
これは、バレーボールの基本中の基本の一つであり、これをせずして練習にも実戦にも結び付きません。
◆「はやく動け」のリスク
スピード、はやく動く動作というのはもちろん必要なものです。反応のはやさ、フットワークのはやさ、アジリティ、瞬発力・・・どれもバレーボールのプレーにおいてはトレーニングしておきたいものです。
しかし、練習で子供たちに、スピードや「はやく動け」というものだけを言葉だけで要求し続けた結果、見過ごせない欠陥が生じてきます。言われた子供は、言われた通りはやく動こうとします。はやく動けという強迫観念に、シー&リアクトの反応や選択判断をしなくなります。ゲス(憶測)やフォルトステップ(誤った動き)をしてでも、先に動こうとします。日本でリードブロックとそれを土台とした、トータルディフェンスが未だ浸透しにくいのは、そうった指導風土が大きく影響していると思います。
また、スピードだけに焦点があてられたスキル論も問題です。プレーの「パフォーマンス」というのは、スピードだけではないはずです。高さ、パワー、思考力の有無・・・そういったものを総合したものであるはずです。日本では、高さやパワー、思考のゆとりを犠牲にしてまで、スピードを求めてきた結果、世界の中での低迷を続けているのではないかと感じています。
◆網羅型 と 学習型
ランニング→キャッチボール→ペッパー→2メン・3メン→スパイク→レセプション→ゲーム形式→サーブ・・・
こんな感じで毎回の練習をルーティン化のように行っているチームってまだあるんでしょうか?このような網羅型の練習の利点は、1回の練習ですべてのスキルをある程度チェックできる点です。その分一つ一つの練習の学習効果は薄くなりがちです。
これに対して、重点化されたスキルや場面に時間をかけ、テーマや目標をしっかり設定して、フィードバックやディスカッションを入れながら行う学習型の練習は、選手の試行錯誤が行いやすく、練習効果はより高まります。しかし時間的にすべてのスキルを行うことができないため、練習は長期スパンを見通した計画的かつピリオダイゼーション的戦略が求められます。
◆ドリルコレクターよりも「観察者」であれ
「何かいい練習方法ありませんか?」と尋ねてくる指導者が多い。でもその場合は、知り得た練習ドリルをただ模倣し、形態や方法だけをやらせて満足していることが多いです。
コーチ(指導者)は、目の前の選手たちの個性、レベル、モチベーションをその都度把握し、その変化に気づき、最適な刺激やフィードバック、時にはあえて見守るといったものを選択する、「観察力」が非常に大切です。
「観察」は、ただ見守るのではなく、コーチは常に胸の中、頭脳の中に、さまざまな意図や問いかけをもち、いろんな角度から選手の状態やマインドを観察します。それに基づいて、みずから練習をデザインしていくことが腕の見せ所です。
◆ボールタッチの頻度
列に並んで順番を待つ時間が長い練習、球拾いばかりで練習の時間が保障されていない環境・・・これでは、個人のスキルアップは停滞しチーム力も伸びていきません。
練習メニューやドリルを考える視点の一つとして、いかに全員のボールタッチを多く保障するか。そのための内容や環境設定を考えることが重要だと思います。
仮に優れた練習ドリルがあるとしても、そのドリルを行うまでの順番待ちが多ければ、練習効果は得られないでしょう。
【ゲーム(試合)におけるコーチの心がまえ】
◆相手がやってることを把握しよう
相手のファーストタッチのボールの状態、相手セッターの状態とセットボールの状態、アタッカーの状態・・・めまぐるしく違います。再現不可能なくらい複雑な様相を見せます。それに伴って自分のプレーが決まってきます。位置取りや構え、次の展開・・・いわゆる自分たちがやらねばならないバレーボールが「そこから」決まってきます。
相手が小学生であろうと代表チームであろうと、決められた同じパターンでしかゲームできないチームが見受けられます。まずは相手を見て、どのような変化や対応をすべきかをチームで検討してみてはどうでしょうか?
◆極力精神論は極力もちこまない
「集中しろ」、「強い気持ちでいけ」、「心の勝負」・・・ということを言うよりも、より具体的にやることを指示したほうが良いと思います。
また選手にしてみれば、精神論を求められれば求められるほど、プレッシャーがかかってきます。メンタルや心といった目に見えないものに対峙させることほど、不安は発生しやすいです。具体的にやることを明確にすることで、集中力を生み出します。
◆確認やコミュニケーションは具体的に
「正確に返球しろ」、「しっかり打て」、「強く打て」・・・以上により具体的にコミュニケーションをとることが重要になってきます。誰が、どこで・どこを、どのように、何を狙って、何をするのか・・・。それがコーチと選手、そして選手間の中でコミュニケーションされるようになるべきだと考えます。
◆いくつかのシナリオをイメージに
序盤からリードをキープしてセットをとるというのは、ゲーム展開の一例に過ぎません。仮にリードしたとしても相手に追い抜かれてしまうことだってありますし、序盤から相手にリードを奪われてしまうことだってあります。1点の差で進むシーソーゲームもあれば、連続得点や連続失点の応酬となる展開だってあります。
序盤がキーになることだってあるし、中盤にキーがあることだってあるし、20点以降の終盤にキーがある展開もあります。ですからタイムアウトの取り方も様々になってきます。
時として、選手もコーチも、相手にリードされる展開に耐えられないことがあるのではないでしょうか?でも考えてみれば、25点のラリーを制するゲームの中で、様々な展開やシナリオが考えられるわけです。対戦相手の特性やチーム力によっても変わってきますし、自分たちのコンディションにも左右されるはずです。
様々な展開やシナリオを理解し、訓練しておくことも重要なことです。
◆「自分にできること」で勝負
小中学生などでは、ラリー中に、ラストボールをオーバーでは返球できないのにアンダーではなくオーバーで返そうとしてネットにかけたり、ネットから大きく離れたセットを無理やり打ってネットにかけたりアウトにしたり、どんな時にも寸分も狂わないセッター定位置への返球を目指したり・・・初心者でなくても、10本に1本くらいしか決まらないような速攻やコンビネーションを仕掛け続けたり・・・なんとももったいない失点場面を多く見受けられます。
ミスを回避することが最優先とするのもいけませんが、練習でできていないことを、実戦の場面で勝負のオプションとするのも無謀です。いわゆる自滅型のゲーム展開の多くは、今の自分にできることとできないことの線引きができていない無謀なプレーによって発生していることが多いような気がします。
「今できないことに失敗しながらチャレンジするのが練習」
「今できることで、最大限試行錯誤してゲームを制する努力をしていくのが試合」
だと思います。
◆リスクテイクの判断
どの場面で、どういうことをやることが、どの程度のリスクのあることなのか。またはリスクを抑えることで、どのような別のリスクが発生するのか。そういったことも常に議論し共通理解をすべきことだと思います。
あの時は無理しなくてよかったのに、あの時は思い切りやればよかったのに・・・「たられば」からくる後悔の多くは、リスクテイクの判断が曖昧または狂った場合に生じてくるような気がします。
◆「勝つ責任」について
責任が大きくなればなるほど、重圧がかかるもの。選手が勝つ責任を自覚することはあってもいいし、必要以上に考えることはないことだってあろうかと思います。その「選手本人の」環境や事情、モチベーションによりますし、一概にいい悪いは言えません。
しかし、どうあっても良くないのは、選手本人ではない周囲の人間が勝つ責任を押し付けたり転嫁するというものではないでしょうか?コーチや保護者が、自分の勝利欲や自己実現欲求を押し付けることによって発生する「勝つ責任」というのは、選手にとって利するものがないと思います。
◆準備を入念に
練習や事前ミーティングも重要です。しかし、見逃しがちなのが試合当日の見通しです。どのようなアップや練習を行うのか。休憩時間の使い方はどうするか?栄養補給のタイミングはどうするか?移動はどうするのが負担が小さいか。どの場所を使うのか。
そういった部分も「準備」として、選手にも見通しを事前に持たせることは、本番の試合のパフォーマンスに影響を与えると思います。見通しもないまま、当日行き当たりばったりに言われた内容で動くと、選手のモチベーションが阻害されやすいです。
(2019年)