コーチのメンタルマネジメント ~怒りに支配されそうになってきたら
デンマークサッカー協会 少年指導10ヵ条
1.子どもたちはあなたのモノではない。
2.子どもたちはサッカーに夢中だ。
3.子どもたちはあなたとともにサッカー人生を歩んでいる。
4.子どもたちから求められることはあってもあなたから求めてはいけない。
5.あなたの欲望を子どもたちを介して満たしてはならない。
6.アドバイスはしてもあなたの考えを押し付けてはいけない。
7.子どもの体を守ること。しかし子どもたちの魂まで踏み込んではいけない。
8.コーチは子どもの心になること。しかし子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない。
9.コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切だ。しかし、自分で考えさせることが必要だ。
10.コーチは子どもを教え導くことはできる。しかし、勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身だ。
まさにこれ、サッカーを「バレーボール」に置き換えたらいいと思います。
時々思うのですが、バレーボールって、指導者がリアクション入れやすい競技だと思います。ボールコンタクトのリズムが、ある程度、周期的です。ボールタッチは3回以内に返球するのを繰り返します。だから、プレーのタイミング一つ一つに、反応しやすい。さらには、ラリーは短期的に切れますから、オフ・プレーの時間にはさらに、リアクションをとりやすいわけです。だから、指導者の感情をコートや選手に介入しやすい状況があるのだと思います。負の心理、ダークサイドに引き込まれやすいのかもしれません。ですから、余計に指導者は、どのように試合や選手に接するかは、意識しておいたり訓練しておくことが必要なんだと思います。
個人的には、自分も含めて、バレーボール指導者には、まだまだこの10か条の心構えは浸透してるとは言えないと思います。
コーチの「アンガーマネジメント」なるものとは・・・
何でもかんでも怒鳴ればいいものではない。指導者が怒って選手が委縮しては、選手は育たない・・・そういったことは頭では分かっている人は多いけど、試合などでは、なかなか練習の苦労が発揮されずに、ついつい声を荒げたくなっちゃう感覚になることはありませんか?不思議なもんです。今年自分なりにそういうものと我慢比べをしてみました。
※下の映像、旧ソ連~ロシア名将ニコライ・カルポリは、檄を飛ばすスタ イルが有名なので載せていますが、彼はバレーボールの研究者としてもエキスパートであり、リスペクトすべき指導者です。
1 床をじっと見つめて歩いてみる
見ていて声を荒げそうになったら、まずはじっと床を見つめて歩いてみます。その間言うべきか言う必要がないかなどをぐるぐる考えます。そうすると大体はクールダウンしていくようです。
2 コートから離れてゲームを見る
相手コート側や隣のコートなどで試合を見守ります。いちいち怒鳴るのが困難になるので、否応なしにじっと戦況を見るようになります。
3 声にする代わりに紙に書く
ありのままの自分の心理や考えを紙に書き殴ります。何でもいいです。「何対何のこのプレーのここがダメだ」など、腹が立つことも嬉しいことも、どんどん紙に書いていきます。だから不必要な言葉がけがなくなります。見直す目的ではないですが、たまにいいヒントを見つけることもあります。
4 言うことで生じる影響の損得勘定
言う前に、損得勘定を考えます。こういったらどうなるか?何がメリットで何がデメリットなのか?それで自分は利益があるか?選手に利益はあるか?などです。そうするとその場の感情の言葉の大部分にはあまりいいメリットはないことがわかってきます。
5 質問を選手に投げかけてみる
WHY?を求めますが、この場合は、「なぜできないんだ?」という意味ではなく、指導する側の心理や考えを聞かせるのではなく、選手なりの心理や考えたことを確認するために質問を投げかけます。悪いプレーだったとしても、質問に対し考えられた返答ができれば、それは逆にGOODの評価を与える機会に転換することもあります。
6 身近なしがらみから離れる
身近の指導者の評判や評価が自分を苦しめることがあります。どうしても比較してしまったり、他をうらやましく思ってしまうことがあると、自信がなくなり、焦りや不安に支配されそうになります。それが選手に八つ当たり的に出てしまうことがあります。そういった場合は、狭い世界にいるだけじゃなく、たまには遠くにいる人とコミュニケーションをとったり、アドバイスを求めたりするといいと思います。遠くの人は、立場や利害関係なくフラットに話し相手になってくれることが多いです。
7 反省点や欠点の指摘は、時間を置いてから
試合が終わり特に敗戦した直後には、反省点や問題点を指摘したくなっちゃいます。あそこがダメだったとか、どうしてあの時ああだったのか?など。ですがそういったダメ出しは、いったん胸の内にしまって、少しでも良かった点は伝えて置き、あとは「お疲れさん!」としてみてはどうでしょうか?反省材料などは、一晩か数日寝かせておいて、後日ミーティングで論理的な伝え方に直しておくといいと思います。
8 自分の努力でできること、自分の努力だけではできないこと
怒りの多くは、他との比較で生まれてきます。指導力と一言で言っても、選手層の違いや練習環境の違いなど、自分一人の指導力だけでは逆転できない要素もたくさんあるはずです。そんな要素はあらあじめ分けておいて、整理して考えると、不必要な怒りは沸いてこなくなります。
9 自分の中の評価基準をチェックする
指導の中で、「見過ごしてはいけないもの」、「OKを出せるミス」の基準を明確にもっておくことです。例えばレセプションは、ノータッチでのミスは必ず指導を入れる、その代わりセッター以外でも誰かがセットできれば返球の精度はいちいち言わない・・・などです。
10 自分の指導を責めすぎない。「伸びるのは選手自身」
そもそも選手のスキルアップやチーム力の向上は、選手自身が成し遂げるもの。指導者がすべてに手を加えてつくるものではないという認識をもっておくことが大事だと思います。「指導者の責任」という言葉は、選手が自信やモティベーションを失わないために大切な言葉ですが、一方で指導者の責任ばかりを考えて指導者自信が自信を失っては元も子もありません。
11 あえて良い所を探して指摘する
負け試合やミスが多い試合であるほど、選手自身がダメであることを感じています。ですから、あえて良い部分や頑張ったところを指摘したらどうでしょうか?これ、結構難しいです。どうしても納得できないところ、消化できないところはあると思います。それを耐えしまっておくことも限界があるかもしれません。そういう時は
「~なところはダメだ」とまず言っちゃいます。そしてすかさず、「でも~の部分はよくやっているよ」とセットで言うようにするといいと思います。
12 納得いくまでやり直し
練習などで、怒鳴りたくなることがある場合は、優しい表情で「もう一度」と言えばいいと思います。でもその「もう一度」は優しく与えるも妥協はしません。できるまで、何かをつかむかで要求します。励ましながら何度もトライさせます。少しでもいい兆しが出てきたり、まぐれでもナイスプレーが出たら、見逃さず評価します。そういった姿勢が本当の厳しさに迫るものではないでしょうか?いちいち言葉にしなくても、魂に語りかけることはできると思います。
13 精神論に支配されない
「やる気あんのか!?」、「集中しろよ!」と言いたくなる時は、自分の指導の引き出しがないと考えるようにし、精神論ではないアドバイスや指導ができるかどうかに挑戦してみてはどうでしょうか?常に解決方法を論理的に考える習慣ができあがっていくと思います。
14 それでも「闘争心」は大事
怒っていけないわけではありません。勝負の厳しさを求めることは必要だし、勝負の厳しさに打ち克つ経験も必要です。だから時には、アツい言葉がけは必要です。ある意味そのような場面は、指導者としての勝負です。選手がその言葉に目が覚めるのか、それとも委縮してしまうのか・・・指導者自信が勝負にどうリスクテイクの決断をするかも、勝負強さの要因ですね。
15 感情から離れる
自分の感情をぶつけようとしていないかどうかを、言う前に自分に問うてみる。そこで単なる自分の怒りや八つ当たりだということに気づければ、言うことをやめることができます。
叱るか?褒めるか?みたいな議論がよくありますが、どちらか?という議論ではダメなんだろうと思います。ですが一方的に指導者の怒りにまかせてアクションをとるよりかは、ワンクッション思考を入れた方が得策であると思いました。耐えがたきを耐え・・・「我慢我慢」とは言いますけど、指導者が怒りをコントロールするのは、なかなか簡単なことではなく、少しずつのトレーニングが必要だなと、実践して感じています。
(2015年)