自分の中で一番だったネーションズリーグ2021・雑感
FIVBバレーボールネーションズリーグ(Volleyball Nations League)は、2018年から開催しているバレーボール国際大会です。
それ以前までは、男子は「バレーボール・ワールドリーグ」、女子は「バレーボール・ワールドグランプリ」とで、男女別々にナショナルチームの国際大会が設定されていましたが、それらを発展的に統合した大会となったのがこのネーションズリーグです。
コロナ禍にあって、長きにわたって世界のバレーボールの今が見えにくかった中、東京五輪直前の各チームとも様々な本気の思惑をともなった、久しぶりのバレーボールの国際大会。大会期間があっという間に過ぎていきました。
男子は、ブラジルとポーランドの決勝。21世紀になってから世界のバレーボールのゲームモデルをけん引してきたブラジルが、2010年代になってから世界の頂点に返り咲いてきたポーランドを圧倒しました。
ベースの「サーブ&ブロック」、ゲームチェンジャーの「サーブ&ブロック」
互いにサーブ&ブロックのガチンコ勝負。我慢比べの様相の中で、序盤はポーランドが押すも、徐々にブラジルがはね返します。ひそめていた中央からのクイックやバックアタックなどでブラジルが先手を打ち始め、中盤から終盤までは、すべてにおいてブラジルが圧倒。現代バレーにおいて、ゲームのベースであるサーブ&ブロックが、ゲームチェンジャー、ゲームを動かす大きな要因としてのサーブ&ブロックへ進化。ポーランドを詰んでいく状態に追い込んでいきました。
サーブ&ブロックの徹底ぶり、そしてノータッチではフロアにボールを落とすことはほとんどない、「そこに人がいる」トータルディフェンス。現代バレーの今を垣間見ることができました。
各チームともさまざまな戦略やオプションを用意しているはずです。データもとったはずです。東京五輪が楽しみです。
女子の決勝も見応えがありました。やはり男子のバレーボールを追従しつつある、パワープレー、そして組織的なトータルバレーを観ることができたと思います。
特にサーブとブロック、オポジットからのスパイク、バックアタック。
この4つが特に女子では、チーム力の差に直結していることがよくお分かりになると思います。
私とネーションズリーグの出会い
私が、バレーボールの世界にどっぷりハマることになったのは、社会人になり教師の仕事につき、部活動とのつながりでコーチングに携わるのがきっかけでした。しかし私にとってバレーボールとの縁は、昔からあったと思っています。
昭和後期生まれの私たちにとって、平成期前半くらいまでは、バレーボールの試合は比較的よくテレビ中継で観ることができていました。そしてそれは日本代表戦のみならず、海外勢どうしの試合もよくみていました。ですから、私は今の各国の選手たち以上に、当時観た選手たちの名が記憶にとどまっています。
私が、バレーボールのテレビ中継にくぎ付けになったきっかけとなったのが、当時のソビエト連邦女子代表チームやイタリア男子代表チームの強さでした。
そして当時観たものが、今回の「ネーションズリーグ」の前身である、かつての男子の国際大会「ワールドリーグ」で観た、日本男子代表とイタリア男子代表の試合に衝撃を受けたのです。
その時子供だった私、そしてバレーボールをやっていなかった私でさえも、バレーボールの試合中継を観ていたし選手の名前もみんな知っていたくらい知名度はまだありました。だから、そんな日本代表が国際大会の試合で勝つか負けるかを、けっこうドキドキしながら茶の間で家族と家族と観たこともありました。
そんな中の、90年代はじめ頃の「ワールドリーグ」日本男子代表が、イタリア男子代表に完膚なきまでに圧倒される試合を観たのです。かなりびっくりして衝撃を受けた記憶があります。そして、これは一体どういうことなんだ?何が起きているのか?イタリアってなんでそんなに強いのか?などといった好奇心に駆り立てられ、イタリア男子代表を中心に世界のバレーボール中継をVHSテープに録画して観るようになった少年時代でした。
何が「イチバン」だったかというと・・・”日本代表男子だよ!”
時は21世紀、日本では令和という新しい時代に突入した中での、今回ネーションズリーグのバレーボール日本男子代表チーム。
結果は「11位」。
この結果に明るくなれなかった方もいたかもしれません。もちろん、惜しい試合もありましたから、順位的にもの足りないと感じた方もいるでしょう。
しかし、私は、観ていてとても興奮し楽しくエキサイトできました。
結果に対してもネガティブな気持ちにはなっていません。これまでナショナルチームのバレーボールの試合、日本代表の試合をウォッチしていく中、これまでは海外勢のバレーボールとゲームモデル的にもスコア的にも大きく溝を開けられ歯が立たない展開に毎回ストレスを感じながら観ていました。
ところが、今回のネーションズリーグの日本代表男子がみせたゲームは、かつての観ていてのストレスがなかったのです。
序盤に対戦したロシアは、両チームともメンバーが少し変わっていたものの、ロシアは、主砲ミハイロフが終始きっちり出場し、ガチのサーブやスパイクを殴りまくっていたので、日本が勝利できたことは大きな成果ですし、海外のメディアでも大きく取り上げられていましたね。
バレーボールが日本のお家芸と称されていた頃。アジアでは日本が頂点に立つのが当たり前だった時代。しかし90年代からは影を落とし、2000年代あたりからは、FIVBとのタイアップや名将ベラスコの代表監督就任などを経て。アジアの頂点を走ってきたイランにも勝利。
勝った試合はもちろん、敗れてしまった試合を観ても、見応えのある内容が続きましたね。
世界の今のバレーボールは、1990年代初頭からトレンド化したリードブロックを基盤とし、情報技術を駆使してのデータを積極的に取り入れた組織的バレー。そして2000年代に入り、その組織バレーを打ち破るための、同時多発的シンクロ攻撃、ALL TEAM ATTACK、Same Time Attack、というオフェンスシステムが上乗せされ、さらにはそれに対抗するためのブロックの組織化。そしてサーブ&ブロックのさらなる向上。
そういった現代バレー、世界のバレーボールの今という土台に、ようやく日本代表男子が立った。スタートラインに立った。このことが長年打ち破ることができなかった、フィックストマインドセットを克服しつつあり、頑なに拒んできたかのように見えるグローバルビジョンの風が吹いてきているのです。
終盤の敗戦に覚えた今までにない「悔しさ」
ネーションズリーグ前半の日本男子代表の勝利や善戦に、ワクワクしエキサイティングしながら観ていた人は、私だけではない多くのひとがきっとそうだったと思います。中盤の、強豪国セルビア、ブラジル、フランスとの試合においても、いずれも力の差がある敗戦ではあっても、何かこれからに期待をもてるアップデートされた内容で、観ている人も前を向ける内容ではなかったかと思いました。
ところが・・・です。それまでの、私たちが抱いていた期待やワクワク感が、たちまち凍り付くかのような、試合を目にします。
それが、ポーランド戦とカナダ戦でした。
ポーランドは近年においては世界の男子バレーのトップを競うチーム。対戦前から厳しい展開は要因に予想できますし、勝利よりもどれだけ食らいついていけるかが注目点だったように思います。
一方のカナダ戦は、どちらかというと、これまでの日本男子代表チームのアップデートから善戦以上の勝利を期待していた人が多かったのではないでしょうか?
トップカテゴリにおいて、「サーブミスだけをもって負けるということはない」。ということはデータの上でも言えることではありますが、それにしてもポーランドを相手にした日本チームのサーブは、委縮したものというか、ことごとくミスとなっていました。珍しいくらいのサーブミスの多さで、ポーランドからブレイクをとることが圧倒的に厳しい試合となりました。
対するポーランドは、ド派手なクイックやバックアタックこそは多くはないものの、強烈なサーブで日本を圧倒します。ビッグサーブだけではなく、ハイブリッドなサーブや日本のアタッカーを2~3人同時に「潰す」コントロールされたサーブなど、サーブで日本日本に試合をさせません。
ポーランドのディフェンスもほぼパーフェクト。レセプションがからむ失点もなければ、トータルディフェンスの機能もほぼパーフェクト。トランジション局面では、ブロックが日本のスパイクを無効化するか、フロアディフェンスがほぼ定位置でディグをする。
まさに歯が立たない世界のトップのレベルを思い知る試合となりました。しかし、ポーランドには、クレク選手、クビアク選手と、ポーランドのみならず世界的な名選手が、日本のVリーグで戦っているということもあり、日本チームには世界のバレーをよりたぐりよせる経験となったに違いないと思いたいです。
カナダ戦での善戦を想定していた私たちにとっては、その期待を打ち砕く大変ストレスのかかる試合となりました。カナダのバレーは、一言でいえば「堅実なバレー」。ポーランドやブラジル、フランスやアメリカなどのような圧倒感を覚えるようなハイパフォーマンスは多くはない。しかし、気が付けば日本が失点しカナダが得点を重ねていきます。
カナダのバレーは地道な試合運びと、「当たり前」(ゲームの基本)の徹底、特にサーブからはじまるトータルディフェンスの徹底が光っていたように思います。
私たちは、日本男子代表のバレーボールのアップデートに心躍り、早くブラジルやポーランドのような強豪国に追いついてほしい・・・そんな期待や希望が先行しすぎていたのかもしれません。
もし、日本代表が世界のトップと互角に戦える日が来るとしたら、それは一朝一夕にはいかないのはもちろんですが、カナダ代表チームのようなプレーやゲームモデルを習得することは避けて通れないプロセスになってくるんだと思います。
このnoteの記事でもたびたびご紹介していますが、2000年代に入り、ポーランドは、バレーボールの普及~育成~強化のシステムを根本から構築し直し、プロリーグの改革や育成システムの構築が成功し、今日の位置に至っています。
時をほぼ同じくし、カナダは、プロリーグがない分、国全体としてスポーツの在り方を模索し、バレーボールに限らずスポーツ界全体でアスリートの育成「LTAD」に着手しています。
そしてカナダ・バレーボールもその中にあって、バレーボールのコーチングや育成の在り方を新たに構築しています。そういった取り組みが日本戦での差となっているような気がしました。
つまり、日本の男子バレーの世界に近づくアップデートは、突貫的なものであり、ベースが浸透していくのも、根付いていくにもまだまだ時間が必要なのでしょうか。まだまだ選手「個」の能力や思考力に依存していて、システムやモデルとして確立するには至っていない。ということになるのでしょうか。
「悔しい」けど、受け止めなければならない現実なのかもしれません。
しかし、「悔しい」というこの感情は、私自身、バレーボールを観戦していて久しくなかった感情です。悔しいけど、悔しいと素直に思える現状をポジティブに受け止めています。
良いものはトレンド化していく。そして標準化へ
かつて日本が開発したとされる、クイック攻撃や時間差攻撃などのコンビバレーはもちろん世界のスタンダードなプレーとなっていき、これに対抗する形で、現代バレーのベースの一つとなっている、シー&リアクトによる「リードブロック」が開発されそこから30年余たっています。
その間、データバレーが組み込まれ、バックアタックの多用・多様化、そして戦術が個人スキルの集合体からチームの組織化へ。その結果のシンクロ攻撃やトータルディフェンス、サーブ&ブロック戦術。
とにもかくにも、現代バレーのシステムの土台となっている「リードブロック」の30年間以上の歴史の蓄積は、日本にとっては重いものだなと痛感しています。
20世紀までのバレーボールは、どちらかというと、個の能力の開発とその組み合わせの競い合いみたいな要素が強かったです。
それが2000年代になってからは、組織化、プレーやゲームのトータル要素が強まってきたわけですが、そこからさらなる進歩に向かうにあたっては、
現段階でトレンド化(標準化)している組織や戦術
↓
組織力や戦術性を定着させるための個の能力やスキル
↓
より高まった組織力や戦術を打ち破るための個の能力やスキルの向上
↓
新たな戦い方(戦術)
ブラジル、アメリカ、ポーランド、スロベニアやセルビアなどの欧州勢・・・。もはや「リードブロック」というスキルは、その必要性を入念に学ぶまでもなく、ゲームの土台となっている中約30年間もの進化をしてきているわけです。対する日本は、ここ数年でようやく取り入れ出した現状。この経験の差というか、ゲームセンスの差は、相当大きいのでしょう。
そして、世界のバレーは、
・サーブの高度化、複雑化
・MBのハイスペック化
・OPの中心的役割
・ディフェンスのトータライズ
・セッターの大型化
・クイック攻撃の同時多発性
・ブロック戦術の変化
・左利き選手の多様化
と、日本が追いつくのを待たず、進化を続けています。
バレーボールのゲームのベースとしての「サーブ&ブロック」から、ゲームチェンジャーとしての「サーブ&ブロック」。これからは、ますますサーブの重要性と、ゲームにおけるターニングポイントになることは間違いないと思います。
これからも、日本がこの潮流にどのように食らいついていくか。強豪国にどのように渡りあっていくのか。日本の男子バレーに対して、私は、バレーボールをウォッチしてきた20年間の中で、一番ワクワクしているかもしれません。
日本女子代表チームは五輪本番までをみて振り返りたい
予選では、セットカウント3-1でトルコに勝利した日本女子代表。
3位決定戦で再びトルコと対戦するも、0-3のストレートで惜しくも3位を逃しました。
ネーションズリーグ後に発表された、東京オリンピック出場内定選手をみても、日本女子代表チームは、ネーションズリーグで出場し続けたメンバーが中心となって五輪に臨みます。私のような外野からは思惑は量れませんが、ネーションズリーグでは、チームの調整という以上に、五輪に向けた実践経験を重視したのかもしれませんね。
いずれにしても、日本女子代表チームの東京オリンピックで見せてくれるプレーやゲームが、ネーションズリーグとどのようなつながりや関連がみられるのか。ゲームモデルに変容はあるのかないのか。そのあたりがものすごく興味があり、注目すべきポイントではないかなと思います。
日本男子代表・女子代表ともに、一つの大会の競技成績だけの優劣をみるだけではなく、そこまでに至ったプロセスやその後の経過までを追って見ていくことで、見えてくることもたくさんあるのではないでしょうか。
(2021年)