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バレーボール日本代表男子にみた「熱気」とは?(FIVBワールドカップバレーボール2019)

 FIVBワールドカップバレーボール2019は、他競技のラグビーワールドカップや世界陸上、野球のクライマックスシリーズなどと重なりましたが、今まで以上の盛り上がりを感じることができたような気がします。

長いトンネルの暗闇の中の先に見える光

 特に日本代表男子の活躍が目覚ましく、競技結果だけみても、これまでにはない善戦がみられただけではなく、選手のプレーやチームの戦い方にも明らかな進歩を見て取れた人が多かったのではないでしょうか?男子バレーの試合中継では、女子から始まって男子へと続く中で、これまではどちらかというと女子が善戦を見せるも、男子になると海外との差がかなり大きく、ゲームの結果や内容に残念ながらネガティブな感想をもった人が多かったと思います。しかし今回はこれまでの国際大会とは違い、日本代表男子チームはいい内容の戦い方、そしていろんな選手の活躍を観ることができて、日本のバレーボールを楽しみ、期待感をもっている人も多いのではないでしょうか?

 女子で言えば石川真佑選手、男子では石川祐希選手や西田有志選手、そして柳田将洋選手などのスター的な注目を浴びた選手ばかりではなく、特に男子はいろんな選手の活躍や個性が光ったワールドカップだったと思います。
 個人的には特に男子では、高橋健太郎選手や小野寺太志選手などのMB(ミドルブロッカー)陣の成長ぶりも光っていましたし、セッターの関田誠大選手と藤井直伸選手は、互いの長所を補完し合い、それが采配にもいい効果を与えていたなと思います。さらには今やベテランとなり数年前はスター選手だった福澤選手や清水選手の献身的なプレー、そして数年前とは違ったチームの歯車的な活躍もすばらしかったです。
 
 以前から申し上げているのですが、バレーボールはチームスポーツであるので、個人の活躍やプレーに注目するのも醍醐味ですが、それ以上にチームとしての戦い方に注目するのを忘れてはいけないと思っています。
 バレーボールのゲームにおいて、自チームを勝利に導くためには、あらゆる観点から練られた戦略があり、そのうちの要素の一つが戦術なんだと思います。
 これまでの日本のバレーボール界では、とにもかくにも選手個人への焦点化が強すぎたと思っています。スター選手が出てくればそればかりに話題がいき、選手の世代交代では「ポスト~」「~の後継者」探しに終始し、世界に通用する日本のバレーボールのために、どういう戦い方やプレースタイル、バレーコンセプトが求められるかへの着目がなさすぎでした。

 ですから、今回のワールドカップでの日本代表女子で話題になった課題、そして男子で話題になった成長と躍進についても、ただ「個人」の活躍や問題点に終始しない、見方や観ることの楽しみ方も広まってほしいなと思うわけです。

FIVB WORLD CUP VOLLEYBALL 2019 と 日本代表女子チーム

日本代表女子(2012年ロンドンオリンピック)

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日本代表女子(2019年ワールドカップ)

日本代表女子ですが、今回のワールドカップでは、前半は精彩さを欠くゲームが多かった印象で、今の世界の女子バレーのトップレベルの中国やブラジルなどとは圧倒的な実力の差を見せつけられた感がありました。
 日本の女子バレーボールのゲームスタイルは、伝統的に求めてきた、プレーの「正確さとスピード」。言い換えると、ボールコントロールのミスへの許容範囲を狭くした中でのプレーの安定性と、ボールタッチ間の時間の短縮化とボールの球速の高速化による、計測速度のスピードアップ化による戦い方です。いわゆるミスが少ないはやいバレーとか精密な高速バレーといった類になるものだと思います。
 しかし今大会ではそのデメリットやリスクが表面化し、世界の今のバレースタイルには立ち行かない形になりました。個々の選手の精神的なプレッシャーだけでなく、動きもダイナミクスさを犠牲にすることが多く、結果的にパフォーマンスを落とすことで、相手を優位にしてしまう展開が多かったです。
 大会の終盤では、選手間の「気づき」によって、ファーストタッチ(セッターへの返球)をゆったり高めにしたりセッターからのセット(トス)を少しゆったりするなどして、選手個々が動きを作りやすくしパフォーマンスを発揮しやすくするための「間」(ゆとり)を確保するということにも言及されるようになってきました。
 この話は、ロンドン五輪で日本代表女子が銅メダルを獲得したときに活躍した木村沙織選手など選手たちの活躍と気づき、修正のエピソードと重なります。
 女子バレーは、いつまでも同じ歴史を繰り返すのではなく、そろそろ「気づき」ではない、世界のバレーボールの「今」に目を背けず、当たり前とされている基本的なゲームエッセンスを基本とする修正が必要なのではないでしょうか?

FIVB WORLD CUP VOLLEYBALL 2019 と 日本代表男子チーム

日本代表男子(グラチャン2013)

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日本代表男子(ワールドカップ2019)

 久しぶりに多くの人に熱気をもたらせた、日本の男子バレー。
 注目すべきは、スター選手の台頭という個人に依存した見方ではなく、チームの戦い方やプレースタイル、バレーボールコンセプトとして「何が変わったのか?」という点です。
 今回は、「サーブ」、「ブロック」、「数的優位に立脚したアタック」の3点を挙げておこうと思います。

① 日本代表男子の「サーブ」の進化
 「サーブ」では、今大会では「ビックサーブ」、「ビックサーバー」などといった言葉をよく耳にするようになったことが象徴されるように、サーブミスを恐れず果敢にサービスエースを視野に入れた攻撃性の高いサーブが日本代表男子にみられました。西田選手は最終戦でもあるカナダとの試合で15点で決まるフルセットの第5セット。得点9-9の状況から放った6本のサーブのうち、5本がサービスエースという圧巻の場面が象徴的でした。
 華々しいサービスエース以外にも、福澤選手の相手にストレスを与えるサーブや、従来の日本バレーでは目立つことがなかったMBの選手たちの効果と威力のあるサーブなど、チームとしての戦略的なサーブが印象的です。単なる「入れとけサーブ」は、ゼロに等しかったのではないでしょうか?
 サーブの重要性は、このブログでも何度も話題にしています。ゲームにおける「ブレイク」獲得の起点、ラリーのスタートとして自チームのブロックとトータルディフェンスを機能させる働き、そして相手への精神的なストレスを与え自チームのカウンターマインドを優位にするなどです。やはり世界の男子バレーの今、今大会ではポーランドやブラジル、アメリカなどのサーブは脅威となるものだったと同時に、日本代表男子のサーブもそれに引けをとらない形となったことが、観ている私たちの熱気を喚起していたのだと思います。

②「ブロック」のアップデートは組織性
 「ブロック」は、過去の日本代表と比べて、相手スパイカーに対して2枚、3枚とブロッカーがついていく場面や、シャットアウトだけでなくワンタッチをとっている場面が格段と増えています。
 従来までは、ブロッカーの個人の判断に委ねる要素が強く、相手スパイカーとのマンツーマン的なかけひきと、その場その場での選手個人の判断と反応でブロックがなされていました。個人スキルでは、ネットに正対した状態を維持しつつサイドステップでの移動を基本としていました。
 これが、ブロッカーは従来以上に組織的な枠組みを取り入れたように観えます。「リードブロック」によって、相手セッターからのボールの行方にMBが正しい判断をしてセットされたボールを追いかけていくことで、ブロックの枚数確保へとつなげています。またブロッカーのパフォーマンスをより発揮するためには、ネット正対型サイドステップにとらわれることなく、腕のスイングをともなったダイナミックな動きによって、海外選手の強力な攻撃に対抗できていた場面が多かったです。

③「数的優位に立脚したアタック」

 バレーボールの戦術は、その変遷を歴史的にみても、「ブロックVSアタック」のせめぎ合いで進化してきました。
 21世紀以降の現代バレーのスタイルは、6人制バレーボールにおいて、ブロックは3枚という状況の中で得点力を上げるために、攻撃する側のアタッカー枚数を3枚から4枚へと「数的優位」を生み出すことで、相手ブロッカーの思考判断を低下させ、相手ブロックの組織力を分断する攻撃が主流となっています。フロントゾーンでスパイクできるのは最大で前衛にいる3人。このままではブロック3VSアタック3となり数的優位を生み出しにくいわけです。そこで「バックアタック」が標準装備されてきており、しかも3rdテンポのバックアタックではなく、2ndテンポや1stテンポのバックアタックが男子では当たり前となってきています。しかも今回は、スロットに変化をもたせたアプローチ(助走)によるバックアタックも多かったです。
 バックアタックだけでなくMB(ミドルブロッカー)の得点力向上も大きかったですね。これはMBの選手の能力が向上した以上に、チームの戦い方やプレーシステムによってMBがこれまで以上に、力を発揮しやすくなった点が大きいです。セット終盤やセットの最後の得点をMBのクイックによってたたき出すなど、昔の日本ではほとんど見られない象徴的な場面だったと思います。
 この現代バレーの攻撃スタイルを、「ようやく」取り入れ浸透してきた姿をみせたのが今回の日本代表男子の戦い方でした。

日本のバレーボールが世界の中でアップデートできるか

 このように、ただ勝った負けたの勝敗結果だけではなく、観ていて「すごい」「わくわくする」という湧き上がってくる高揚感や熱気は、選手個人のタレント性はもちろんですが、平成期の長きにわたって歯が立たなかった海外チームとの溝を埋め、対抗できる手ごたえをみせた「戦い方」の進化こそが要因としてあるのではないでしょうか?

 さらに言えば、進化といっても、今回の日本代表チームの平均身長や筋力が劇的に向上したでしょうか?これまで世界と戦えていない理由が「高さとパワー」としてきた論理も明らかに崩れていることがお分かりになるでしょうか?平成期の長きにわたっての世界での低迷は、身長の高低以外の、現代バレーボールの「基本」に遅れをとってきたからだということがこれで明白になったと思います。

 もっと紹介したい注目してほしい日本の選手たちがいます。ぜひ引き続き日本で開かれる「Vリーグ」にみなさん注目してもらいたいです。そして、来年開催される東京オリンピックでの日本代表チームの活躍とこれからの進化をみんなで応援していきたいものです。

 最後に個人的に、日本のバレーボール界の様々なカオスの中にあって、日本のバレーボール、そして代表チームに光を与えてくれ礎を築いてくれた、外国人指導者として招聘されたゲーリー、アーマツ、そして現スタッフのブランに改めて感謝を表したいです。


(2019年)