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ローテーションやポジション、攻撃種類の弱点を埋める

 スポーツに限らず、勝負や対戦といえば、相手の弱点を突くとか、自分たちの強みを最大限生かすとかそういう戦術や作戦になっていくんだと思います。

 テレビでゲームをたくさん観ることができたFIVBバレーボールワールドカップ2019では、日本代表男女の戦い方が対比されたりしているわけですが、これまで以上に日本代表男子の試合内容に手応えを感じている人は少なくないと思います。

バレーボールとローテーション

 今回の女子の試合を振り返り、「魔のS4ローテ」と言われるような、特定のローテーションの弱点が露呈し、連続失点をしやすい課題があるなどが指摘されました。

 これに対し男子では、アルゼンチン戦の最終得点場面(マッチポイント)は、日本のクイックによる得点であることからも、従来のクイックは、なかなかセッターとスパイカーの意思疎通を合わせることが難しい(とされていた)リスクがあることから、特に重要な局面は終盤ではトライしにくく、出現率が低かったというスタイルを打ち破った象徴的な場面だったと思っています。

 今こそ、日本代表女子の課題は何があるのか?そして日本代表の男子の進化はどこにあるのか?という情報をみなさんでシェアすべきです。決して石川兄妹の活躍や、男子の西田選手の彗星のごとくな活躍だと片付けない方がいいです。そして男女の差にも注目すべきだと思います。
 今述べたように、選手の個やタレント性ばかりに目を奪われてはいけない、というのがこの記事のメインとしたい内容です。
 そこで、冒頭に述べた通り、バレーボールのゲーム(試合)において、勝つチームには様々な要因がありますが、ざっくり過ぎる言い方をすれば、「弱点が少ない」(弱点を埋める戦術がある)、「相手の弱点を上手く突く」というような戦い方ができているんだろうと思うわけです。ですから、選手個人の個人技やタレント性ばかりに注目できないというのはそういうことです。

◆ローテーションの弱みを埋める

 バレーボールにおいて選手6人がローテーションを伴ってゲームが展開されます。セッターは基本的にはアタックに参加することはあまりないため、S2、S3、S4のローテーションはセッターがフロントゾーンにいることになり、フロントでのスパイカーは3から2に減った状態になってしまい、攻撃の数的優位からも不利になりやすいです。
 さらには、レセプションアタック場面における、本来得意とするスパイク位置が左右逆転する「S1問題」や、セッターのポジショニングに負担がかかりフロント(前衛)のスパイク枚数も3枚確保できない「魔のS4」とか言われる場面もあります。
 これらのウィークポイント(弱点)を埋めるためには、一つはレセプション時における選手の配置を、守備・攻撃両方で限りなく最大効果を発揮できる配置をする工夫をすることが考えられます。
 第二に考えられるのは、バックアタックというのは必須になってきているということです。これによってどのローテーションでも攻撃枚数は3枚以上確保でき、数的優位の戦いに近づけます。
 そして第三は、OHやOP、つまり両サイドアンテナ付近からスパイクすることの多い
 サイドからのアタッカー3人の得意不得意の差をいかに埋めるかの問題もあると思います。従来右利きの選手はレフトサイドからのスパイクが、左利きの選手はライトサイドからのスパイクが得意な傾向があり、OH、OPの配置にも反映されていることが多いです。
 しかし利き手に左右される得意不得意を残していると、「S1問題」などのようなローテーションの弱点を生み出すことになってしまいます。右利きのOPも多くいますし、今回のワールドカップでは、左利きの選手がレフトサイドからしっかり決めている場面も多く見られました。

◆ポジションの弱みを埋める

 「OHとOP」や「セッターとリベロ」などのポジションによるプレーの垣根というかボーダーみたいなものが下がり、オールラウンドなスキルが求められてきているのだと思います。ポジション分業からポジションごとのスキルに特化した選手の集合体では、たちゆかない時代にもなってきています。
 例えば、OHやOPは、両サイドからのスパイクはもちろん、バックアタック、そしてレセプション(サーブレシーブ)やディグ、そしてセット(トス)とあらゆるプレーを主体的に行わなければなりません。

 リベロが導入されて久しいですが、近年はセッターがファーストタッチをした際には、リベロがセカンドセッターとして機能する場面が多く見られました。しかも単にアンダーハンドで「トスするのではなく」、アタックラインを把握しながら「セットする」ことで相手ブロッカーの思考判断を低下させたりするプレーが見られます。

(アタッカーがセッターとなる)

(リベロがセッターとなる)

 OH(アウトサイドヒッター)には攻撃的、守備的などの機能もあったりするかもしれませんが、これからの時代はまさに総力戦、トータルバレーとなってくるのではないでしょうか?ですから、個人スキルのオールラウンド化とそれにともなった臨機応変で多彩なプレーができることが求められてくるのだと思います。

◆攻撃種類の溝

 男子バレーと女子バレーのゲーム展開では、観ていて様々な違いを感じると思いますが、攻撃でいえば「バックアタック」の採用は際立って男子の方が標準化されています。
女子では、いわゆるブロード攻撃とよばれるようなアタックは、男子のようなバックアタックの標準化に至っていないがゆえの、それを補う対ブロック分断意図があるのだろうと思います。

 しかし、現代バレーの戦術が洗練されていく中で、先述したようにローテーションの弱点を埋める必要性や、選手個々のオールラウンド化を求められる時代になってくるなかではこれまで以上に選手の得意不得意の溝を埋め、限定的な攻撃しかできない、または特定のパターンでしか攻撃できないというのでは立ち行かなくなってきるのではないでしょうか?
 6つのローテーションの中で、攻撃の数的優位をいかに生み出し確保するのか。それは選手個人のスキルを高めることと同時に、個人に依存しない攻撃システムをつくりあげていくことが重要だと思います。

◆「インシステム」を拡大させる

 あるチームでは「ミス」と判断されることを、別のあるチームでは「ミス」とせずそこから果敢にポイントを獲りにくる攻撃を仕掛ける。
 バレーボールのラリーにおける3回のボールタッチの中で生み出すプレーにも、考え方とそこから生まれる戦い方に「差」があるのではないでしょうか?そのような意味においてはセッターや他の選手のセットスキルは重要になってくると思います。

 セット能力だけではなく、アタッカーも様々な状況やボール状態をスパイクできることも重要で、ニアネットでは打てるけど、ブロックに付かれたりバックアタックになると打てないでは困ります。特にハイセットからのスパイクは、アタッカーからしても打ちにくい分、相手チームの決定力との差となりやすい部分でもあります。
 Aパスか、Aパスじゃないかという議論もあったように、カウンターアタックを仕掛けることができる許容範囲が広いこと、インシステムの範囲をどの程度広げることができるか、またはアウトオブシステムをいかにして最小にするかがチーム力の競い合いには重要になってくると思います。


(2019)