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ムセルスキー選手は単にデカイからスゴイのではない(2013年)

グラチャンバレー2013男子の日本対ロシアの試合を僕も観ていました。
日本は勝てませんでしたが、それ以上にロンドンオリンピック金メダルの立役者が何人もいるチームと対戦すること自体、観戦にワクワク感がありました。

ところが、テレビ中継で観ていると、
ロシアの強さが「高さ」にだけフォーカスされていて、
しかもそれが、平均身長的な高さだけをひたすら強調され、本来観るべき、ロシアのすごさ・・・
戦略的かつ効果的なサーブ、
ブロックの「システム」とそこから生れる守備力、
オーバーハンドパスやレセプションなどの基本技術の高さ、などに眼が行かず、
さらには「日本は高さに屈した」とさえ受け取られるような伝え方になっているのが残念です。
特に、身長218センチのムセルスキー選手に注目がいっているのも、
結局は身長的な「高さ」。
確かに、彼の異次元的なブロックや打点はすごいのだけれども、
彼はタダのデカイ人ではありません。
日本では、2M近くの選手ともなると、MBに配置し、
そこにリベロなどを投入して、ディフェンスの一角を成したり、
バックアタックをしかけることなどあまりありません。

でも実際は、ムセルスキー選手は、そんなただの「デカイ人扱い」されてはいません。
今回は、それをお伝えしたかったのです。
女子のMB1の議論もそうで、「大きいから・・・」という、日本独特の言い訳というかコンプレックスが、世界との差を生んでいることもあるのだと思います。「高い」「大きい」と言い、現実から目をそむけないでほしいです。

ムセルスキー選手を引き合いに、
大きい選手が、単なるデカイ人ではないという話では、
先のロンドンオリンピックの男子決勝、ロシア対ブラジルの
まさにムセルスキー選手の活躍に象徴されています。

ロンドンオリンピック男子バレー決勝は、ブラジル対ロシアでした。
下馬評はブラジル優位の中、ロシアは劇的な逆転劇で、
2000年代になって世界で勝ち続けているブラジルを3-2で破って優勝に輝きました。
ロシア(19-25、20-25、29-27、25-22、15-9)ブラジル 
の大逆転劇となりました。
ロシアはブラジルに2セットを連続して先取されます。
そしてあとがない第3セット目。観ている人も、ブラジルのストレート勝ちを考えたかもしれません。

さて、この試合でのムセルスキー選手ですが、
結果的にセットを落としている第1、第2セットは、
どこでもありがちな大型選手が入りやすいMB(ミドル)に配します。
しかし、ロシアは第3セットで、選手の配置を変えます。
最長身のムセルスキー選手をOP(オポジット)に配置しました。
結果、この第3ロシアの試合展開が良くなり、3連続セットをもぎ取って、
大逆転の金メダルをとります。

現代バレーのシステムの大方の特徴は、
ディグ(レシーブ)やレセプション(サーブレシーブ)の要は、
リベロやWSなどにあり、MBは真ん中でのブロックやアタックに重点が行き、
その分バックへ回った際にはリベロなどを投入するなど、
要するにフロアディフェンスの労力が小さいことが多いです。
日本などはこの分業化が顕著過ぎて、
MBをやっている選手は、レセプションができないとか、
十分な助走からのバックアタックができないとかになっちゃいます。
・・・ですが、ムセルスキーは違うんです。世界でも最長身でも。
彼は、MBからOPにチェンジした後も大活躍します。
サイドからの高いセットを打ち切り、バックアタックも打つ。
もちろん、フロアディフェンスにも参加する。
リベロと交替せず常時コートに立っている。
つまり、もともとMB以外にも対応できる力があるということなんです。
もちろんムセルスキー選手が変わったということは、
他の選手も伴って変更があったということ。
ミハイロフ選手など他の選手もポジションが変わっても、
力を発揮できるものがあったということです。

「対応できる力」・・・
つまり、ただデカイからブロックだけがすごいとか、
そういうことじゃないのです。(もちろんブロックは驚異的にスゴイ)
それ以外に、当たり前にパスやレセプションやディグの力も
身についているということです。というか洗練されています。
こういった選手たちがロシアや世界にはゴロゴロいて、
そういう意味での「強さ」「スゴさ」がもっと伝わればいいな。

だから、ムセルスキーはこんなナイスプレーもしています!
↓ ↓ ↓

というわけで、「日本は高さに負けた」とか「高さがないから勝てない」
というような受け取り方にならないでほしいと思います。
「高さ」以外の素晴らしさがたくさんある点にみんなに観てもらいたいです。
そんな(日本は)「高さで負けた」思考が、いろんな足かせになっていることに気づきたいです。
日本は、外国勢に「高さで負けた」のではありません。
日本人に高さがある選手にこそしっかりとしたスキル、フィジカル、テクニックをつけさせてこなかったゆえに起こった結果なのです。

(2013年)