アンダルシアの空にきらめく東急百貨店の袋
エコバッグを持ち歩いている。
時々忘れる。
その日は、スーパーにいた。
しまった、今日はたくさん買い物したんだけどな。
だめもとでかばんの中を探したら、小さく折りたたんだ東急百貨店の袋が手に触れた。
こないだの日本帰省で立ち寄った、東急百貨店東横店(以下、東急東横店)の袋だ。ブルーのやつ。
そういえば、3月末で営業終了になったのではないか。
野菜や果物をブルーの袋に入れながら、思い出すのは東急東横店に通った日々のこと。
もしかすると、私にとって東急東横店とは東京で一番思い出深いデパートかもしれない。
初めて高いコスメを買ったのは、確かそしてなぜか東急東横店だった。
渋谷駅と直結していたから、会社帰りにぶらっと寄ったのも東急東横店。
友人と待ち合わせしたら、突然の雨に降られて避難したのも東急東横店。
愚痴を聞いてもらったのも、東急東横店内のカフェ。
のれん街にもよく行った。
なんでかスペインといえばショート丈のジャケット! と思い、
スペイン出発前々日に駆け込んだのも東急東横店。そこで買ったジャケットは、今でも冬が来るたび活躍している。
伊勢丹、三越、高島屋まで行か(け)なくとも、たまたま当時住んでいた場所から近かった東急東横店は私にとって安心できる場所だった。
最近は、日本に帰るたび変わる渋谷駅周辺の様子におのぼりさんみたいになっている。何がどこにあるのかわからない。近未来都市に来たような気分になる。これを、年を取るというのだろうか。しかし、浦島太郎が竜宮城から帰ったときのショックはもっと大きかったに違いないと思い自分を励ましている。
青い袋を見ながら、そんなこんなを懐かしく思い出していたら、「ビニール手袋はそこのごみ箱に捨てていいよ」という店員さんの声で我に返る。
母親が亡くなり事実上解散になったと言える実家を思うとき、今や私のホームはどこにあるのかわからない。しかし、これまで住んだ街は全て私のホームだと思っている。関西も東京もその他住んだところも今住む田舎街も。その時その時の私を形作ってくれた街だから、それぞれの場所に思い出がある。
買い物を終え、東急百貨店の袋をぱんぱんに膨らませた私は外へ出る。
右手に抱えたブルーの袋は結構目立つ。スペインの袋とちょっと違うし、もしかしたらスペイン人にはTokyuがTokyoに見えているのかもしれない。
午前10時の太陽に反射して、鮮やかな青がきらきら光る。
ありがとう、東急東横店!
偶然だけど、この袋を持ってきてよかった。
今日のあなたはスペインでも私を救ってくれた。
どうかこれ以上デパートやお店が閉店しませんように、と願いながら
私はこれからもここスペイン田舎で日本のショッピング袋を時々持ち歩こうと思う。