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アニメが夫に勝った瞬間

夫は日本のアニメをあまり見たことがない。マンガも読まない。

アニメは子どものものだと思っているようで、日本のニュースや小説は読んでもアニメやマンガとなるとあまり興味を示さない。

特に昔から日本に興味があったわけでもない。
知り合った頃、アジアに足を踏み入れることはおそらく生涯ないと思っていたのだけど、と言っていた。


そんな彼が『鬼滅の刃』に夢中になってしまった。

友人たちに勧められ、夫は「そんなに面白いというなら」と一度見てみることにしたらしい。

夕飯後、ソファに座って一緒に見る。


第1話を見て、夫は「まぁ、もう1話ぐらい見てみてもいいかな」と言った。

2話目が終わったところで、「いや、もう少し見ないと、どういう話かまだわからないしね」となった。

5話目が終わる頃には、「これは…テーマが深い!日本の文化もうまく取り入れているのがいいね。早く次のエピソードが見たい!」となった。

アニメの勝ちだ。

主人公が言う「全集中の呼吸!」という台詞が気に入ったようで、夫も言いたい。でも、「ぜんしゅうちゅう」がなかなか覚えられない。そして口がまわらない。とくに「しゅう」と「ちゅう」の連続は難しい。


そしたら、いつの間にか「ぜんりゅうふんのこきゅう!」になっていた。



全粒粉だ。


夫は料理が好きだ。

違うよと言ったけど、聞きやしない。全粒粉でいいと言うので、そのままにしてある。以来、キッチンに入ると、「全粒粉の呼吸!」と唱えてから料理をするようになった。


もう26話まで見終わってしまい、続きが気になって仕方がないらしい。でも、アニメの続きはどうやら10月の映画化まで待たないといけないようだ。そして、スペインで上映されるかどうかわからない。

それを伝えると、悲しい顔をしながら「せきにんとって」と日本語で言われた。

どこでそんな言葉を覚えてきたのか知らないけど、いつの間にか日本語ですねることまで習得していた。

というわけで、夫はすっかりアニメの面白さに気づいてしまった。

「次は何見る?」と聞いてくるようになった夫を前に、嬉しいような、でもちょっと変な感じがする。

今度日本に帰ったら、夫にアニメを教えた友人たちに知らせなければならない。

彼らにこそ責任をとってもらおう。

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