The Lord of the Donkeys
あれは確かセマナサンタ(聖週間)のとき。
少しばかりおめかしをして夫と出かけたところ、後ろからやってきた
電動キックボード(スクーター)の人とぶつかりかけた。
「わあ!ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ!」
「あれ?君は確か…」
電動キックボードの男性は、夫が勤める学校の高等部の学生さんだったようだ。
「はじめまして」
満面に笑みをたたえた学生は、私の両頬にベシートをした。
さながら若き日のアラン・ドロンのようだ。
実にさわやか。
「じゃあ、また!」
少し話した後、アランはさわやかな笑顔とともに人混みに消えていった。
「実は彼、ロバの持ち主かもしれないんですよ」
「まさか!そんな大切なことは、最初に言っておいてもらわないと…!」
「ほかの学生が話していただけですから、本当かどうかはわからないんですけどね。今度本人に聞いてみます!」
ロバたちは町が管理しているものと思っていた私は驚く。あんなにたくさんのロバを個人が所有しているのか。
◆
先週、夫はアランを見かけたようだ。
「あ、どうも!」
「アランくんじゃないか!ひとつ質問があるのだけど」
「なんですか」
「君の、その、あの、つまりロバは…」
「ああ、はい!」
「つまりその、ロバたちは」
「はい、そうです。私のです」
「え、あのあそこの広場にいる彼らは」
「ええ、僕の家のものです!」
「……」
聞くところによると、アランはとてもお金持ちの家の息子さんだそうだ。
お父様が昔あるところからロバ2頭を譲り受け、今では30頭に増えたらしい。
「妻がよくご飯をあげにいっているんだよ」
「そうでしたか。あのあたりは家の敷地ですから、今度いらしたら教えてください!僕はときどきロバに乗っていますから、先生と奥さんももしよかったら一緒にどうぞ!」
「そんなことを言ったら、僕たちは本当に行ってしまうかもしれないよ」
「ええ、ええ!もちろんです!」
◆
学校から帰った夫は、アランとの会話の詳細を教えてくれた。ときどきロバたちがいないのは、彼らにもスケジュールがあるからだということも含めて。どうやら、この時間は雄だけ、この時間は雌だけ、なども決まっているらしい。
「なんだって!つまり彼は、The Lord of the Donkeysじゃないか!!」
ロードオブザリングならぬ、ロードオブザドンキーと叫んでしまったこのときの私は興奮が最高潮に達していたようだ。
それ以来、我が家ではアランのことをThe Lord of the Donkeysと呼んでいる。
◆
先日、2回の空振りを経て、やっとロバたちに会うことができた。
いまや、私の携帯の写真はロバだらけだ。
この茶色い方は私の推しロバ。
大きいロバたちにおいやられても、決してあきらめない方。
ここから連写が続きます。
紙芝居風にご覧ください。
思いがけず、ロバたちの所属がわかって驚いた日。
2頭から始まって、現在30頭。
皆さん、ひとつの大きな家族じゃないか!
ボー!ボー!
例によって、皆さんご飯の取り合いに忙しかったが、
この日も皆さんが見せる表情と動きに癒された。
スペインの夏は暑いですから、皆さん元気でいらしてください。
今度、Lordにお会いするときは正装していかねばならない。
ボー!ボー!
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