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ぐーちゃん、伸びる伸びる

「ぐー、すごいでしょ。こんなに伸びるんだよ」
いぬうた市在住の、ぐーちゃんは、
一緒に住んでいる、きゅん君に、家の2階のベッドの上で、
何やらを見せているようです。
「ほら、ほら、もうすぐ、頭が壁につく勢いよ」
ぐーちゃんは、ベッドの足側の方の端っこに後ろ足をかけ、
大きく伸びをしています。
「本当だ!よく胴体が伸びてるね。今まで見た中で一番長く見えるよ」
きゅん君は、おだて、も含んで、
ちょっと大げさに、びっくりしてみせます。
「そのうち、いぬうた山まで届くんじゃない」
それはちょっと言い過ぎですが、
ここのところ、まだまだ成長しているのか、
ぐーちゃんの胴体がより長くなったような気がします。
並ぶと、きゅん君の方が一回り大きいのですが、
ぐーちゃんは胴体が細いので、何だか長く見えます。
伸びをすると、それが更に顕著に分かり、
物凄く、長く見える、ぐーちゃんです。
「行けるかなあ。そのうち、ぐー、いぬうた山まで。でも、ぐー、確かにこのまま何処までも行けそうな気がするー」
と、すっかり、きゅん君のおだてを間に受けて、
調子に乗る、ぐーちゃんです。
その晩、ぐーちゃんは夢を見ました。
ぐーちゃんは、びっくり箱に入っていて、
箱から、びょーん!と勢いよく飛び出して、
身体が何処までも、何処までも、伸びていきます。
家の壁も、するりと抜け出して、夜空をまっしぐらに、
後ろ足は、箱の中に残したまま、
胴体がどんどんと伸び続けます。
「思った通り、今の、ぐーなら何処までも伸びるわ。一体何処まで行けるのかしら?」
そう言っている間にも、ぐーちゃんは、風を切って、
ぐんぐん順調に伸びていきます。
もう、いぬうた山も目前で、このままいくと、
いぬうた山まで行けるのは間違えないでしょう。
と、ぐーちゃんも、そう思っていたのですが、
そのとき、ぐーちゃんの背後から、とてつもない、
勢いで迫ってくるものがありました。
竜と電車とウナギとヘビとか、その他もろもろの、
世間から長いと、言われているものたち、いっぱいです。
代表して、竜が言いました。
「やあ、お嬢ちゃん、大したものだ。あんた、相当長いねえ。あんたも今晩行われる、いぬうた山での、長いもの会に参加するのかな?」
いつの間にか、横を並んで飛んでいる竜に、
ぐーちゃんは大層びっくりして、
「いや、いや、ぐーは、ただの通りすがりです。あら、皆さん、これから、その、長いもの会に参加なんですね?それは大変よろしいこと。あっ、ぐーはちょっと用事を思い出したので、これにて失礼」
と、竜に言うと、すぐに、そのまま縮まっていきました。
そして夢から覚めて、ぐーちゃんは、開口一番、
「あー、びっくりした!まさか竜さんに会うとは思わなかったわ。それにしても、長いもの会なんてあるなんて、それもまた、びっくり。こんなに、びっくり箱がびっくりしては、びっくり箱も失格ね。もう、長く伸びるのは、こりごりだわ。これからは丸まっていくとしましょう。寒くなってきたことだし」
と、言った通りに、早速丸くなって、
もうひと寝入りする、ぐーちゃんです。
しかし夢で、今度は、丸いもの会からのお誘いがくることを、
その時の、ぐーちゃんは、まだ知る由もありませんでした。

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