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踏切怖い

今日もすっかりと、いぬうた市の日は暮れて、
きゅん君と、ぐーちゃんはママと夕方の散歩中です。
街中は太陽の代わりに照明がふたりを照らし、
それまで、ご機嫌に歩いていた、ぐーちゃんですが、
ある場所に近づくにつれ、急に怖がり出しました。
その様子に気付いた、きゅん君が、ぐーちゃんに聞きます。
「どうした?ぐー。足取りが重たくなってきたぞ」
おびえながら、ぐーちゃんが答えます。
「だってもうすぐ踏切さんがある場所だわ。ぐー、踏切さんは未だに慣れないの。だってとても早い電車さんが間近でものすごい音をたてて通るんですもの。それだけでも、ぐー怖いのに、暗くなって灯りがついた踏切さんはチカチカして、もっと怖いわ。電車さんもコウコウと光を放って、迫力がすごいし」
確かに言われてみれば怖いですよね。
電車は結構なスピードで走り去りますし、その時の音は、
なかなかのうるささですものね。
と、その電車がやって来るようです。
踏切がカン!カン!カン!カン!と小刻みに警報音を立てて、
遮断機のバーが降り始めました。
「きゃー!ぐー、怖いー!」
そう叫ぶと、立ちすくんでしまった、ぐーちゃんです。
カン!カン!カン!カン!と、そんな、ぐーちゃんに、
おもんばかることもなく、非情に鳴り続ける踏切に、
徐々に大きく聞こえてくる電車の走行音がプラスされて、
ぐーちゃんはいよいよパニックに陥り、
ブルブルと震え出してしまいました。
「ぐー、怖いよー!」
しゃがんで、もう一歩も動けない状態の、ぐーちゃんです。
その時、ぐーちゃんを後ろから、
優しく抱きしめてくれる手がありました。
ママです。ママの温かい両手が、ぐーちゃんを、
しっかりと抱いてくれたのです。
そのおかげか、ぐーちゃんの震えはゆっくり収まって、
気がつけば電車は走り去り、踏切は音を止め、
遮断機のバーが高く上がっていました。
「ママ、ありがとう。ぐー、ママに抱きしめられてから、不思議に全然怖くなかったよ」
ぐーちゃんは後ろにいるママを振り返って、
そうお礼を言いました。
その様子を隣でじっくり観察していた、きゅん君、
僕もママにあんな風に抱きしめて欲しい。
と思ったのです。
で、実際どうしたか?というと、
次の散歩から、ぐーちゃんに習って、同じように、
怖いフリをしたのです。
「いやー!きゅん、怖ーい!」
とか言いながら。
しかし、目が笑っていたので、ママにはすぐに見抜かれて、
その目論みは失敗と相なったのでありました。

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