きゅん君は想像主
いぬうた市の夜に自宅のベランダで、
ひとり、ぼーっとするのが好きな、きゅん君は、
その夜も、その場所で、
穏やかな時間を過ごしていました。
秋の空気がそんな、きゅん君を包み込みます。
きゅん君はますます安らかな気分になります。
すると、風に乗ったのか、
電車のガタコトという音が聞こえました。
秋の夜のこの時間でも電車が走っているんだなあ。
きゅん君はそう思って、電車の走る様子を想像します。
たまに宙に浮きながらも、夜遅くまで、
がんばって走っている電車の姿を。
一体、どんな人が乗っているのでしょうか?
きゅん君は不思議に思うのです。
飼い主などは早々と床についているというのに、
他の人間たちは本当に、
まだ寝ずに行動しているのでしょうか?
もしかしたら、乗っているのは、
夜に動き出すと聞いている、
キツネやタヌキかもしれません。
この時間になると、いぬうた山から下山して、
電車に乗って街に繰り出しているのではないでしょうか?
何と言っても、街は美味しいものであふれていますから。
それをまんまと指を加えて見ているだけの、
キツネやタヌキとは、とても考えられません。
テレビで昔話のアニメをよく観る、
きゅん君は、そう思うのです。
だって街で人間に化けたりして、だましたり、
脅したりを、しょっちゅうしているではありませんか。
「そんなキツネやタヌキが夜に黙って、山でおとなしくしている訳ないよな。ひょっとすると」
きゅん君は更に頭に描きます。
今、電車に乗っている人間は、
全員キツネかタヌキが化けているのではないかな?
何なら、今、走っている電車自体が、
キツネやタヌキが化けたものじゃないのかな?
きゅん君の想像の輪はどんどん大きくなって、
ぐるぐる回るって、夜空に飛んで行きました。
そしてUFOみたいに飛来して、
いぬうた山の方に向かいます。
それを見た、いぬうた山にいた、キツネやタヌキは、
きゅん君の、電車に化けるアイデアを手に入れて、
それをすぐさま実行しました。
だから今、いぬうた市には、電車がいっぱい走っています。
陸、川、空と、ところ構わず走っています。
沢山の、キツネやタヌキが、
きゅん君のアイデアを、そりゃいいや。
と思って、化けたからです。
続々と、我も、我も、と、
いぬうた山の、キツネやタヌキが、
いぬうたの街に繰り出しています。
なので今頃、いぬうたの繁華街には、
電車から人間に更に化けた、
キツネやタヌキが何と大勢いることでしょうか。
そんなことになっているとは、つゆ知らず、
きゅん君は、そろそろ、お眠な時間です。
大きなあくびを、ひとつして、
ベランダから寝室のベッドに向かう、
きゅん君が今晩見る夢は、
きっと、既に決まっていますね。
いぬうたの繁華街で、きゅん君が、
悪さを働く、キツネやタヌキを、
バッサバッサと倒していく、そんな夢に違いありません。