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古いトランク

今、いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんの、
家の玄関ホールには、ひとつのトランクが置かれています。
これは、先日まで滞在していた、
飼い主とママの姪が持って来ていたトランクです。
普段、海外に住んでいる姪っ子は、
旅行を頻繁にしているので、このトランクの使用頻度は高く、
そのためなのか、まずキャスターが壊れ、
外見もかなり古びれたので、買い換えることとなり、
そのまま、ここで処分することとなりました。
トランクは、いぬうた市では、粗大ゴミに入るので、
それで、その引き取り指定日まで、このトランクは、
この、きゅん君と、ぐーちゃんの家の玄関ホールに、
置いておかれることになったのです。
きゅん君と、ぐーちゃんはその話を、
ママが飼い主にしていた時、何となくおぼろげに聞いて、
事情を察した次第です。
「いとこさんとはずいぶん、いろいろなところにいかれたのでしょうね。それはそれは、お疲れ様でした」
ぐーちゃんがまずはトランクの労を労います。
きゅん君と、ぐーちゃんにとって、飼い主のママの姪は、
いとこに当たるので、ぐーちゃんは、
いとこさんと呼んでいます。
「あなたがコロコロと音を立てて、威勢よく、いとこさんと歩いていたのを、ぐー、よく覚えているわ。正直、ぐーはコロコロという音がちょっと怖かったの。でも今となってはそのことを後悔しているわ。あの時、怖がってごめんなさいね」
と、ぐーちゃんはしばらくの間、玄関に置かれた、
トランクに話かけていました。
「でも、いとこさんが帰ってしまって、寂しかったところ、あなたがいてくれて、ぐー、本当によかったわ。どうぞ、ぐーのおウチでゆっくりなさって下さいね」
ぐーちゃんは、いとこが帰った寂しさを癒やすように、
トランクと話します。
「あんまりトランクの側にいると、そのうち、トランクがパカっと開いて、閉じ込められて、一緒に粗大ゴミに出されちゃうぞ」
きゅん君が、そう冗談を言っても、
「トランクさんが、そんなことするはずないじゃない!だっていとこさんが大好きだったトランクさんよ。いい方に決まっているじゃないの!きゅん」
と、真面目に捉えて返す、ぐーちゃんです。
そんな日が何日かは続いたのですが、
ある日突然トランクがなくなっていました。
引き取り指定日がきたのです。
一瞬で事情を察した、ぐーちゃんは必死で涙を堪えて、
いつまでもいつまでも、トランクが置いてあった場所から、
離れようとせず、
きゅん君はそんな、ぐーちゃんを、
黙って見守っているのでした。

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