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慌てん坊のセミ

いぬうた市に秋がひょこひょこ、
顔を出すようになりました。
きゅん君と、ぐーちゃんも散歩が、
のんびり楽しい季節になってきたと喜んでいます。
さて、今日も散歩に出ようと家を出た時、
家の外壁の真ん中に何かがくっついているのを、
発見した、ぐーちゃんです。
「見て!きゅん。何かしら?あれ」
ぐーちゃんが見た方向を、きゅん君も見て答えます。
「ああ、あれはセミの抜け殻だよ。ぐーも前にも見たことあるでしょ?」
それを聞いて、ぐーちゃんは思い出しました。
「そうだったわ!セミさんのお洋服だったわね。でもあんな所で着替えるなんて器用な方ね」
すると、きゅん君は、
「場所を選んでいる時間がなかったのかな?夏ももうすぐ終わっちゃうからね」
ちょっと悲しそうに言いました。
ぐーちゃんも同情するように、
「そのセミさん、夏に遅刻しそうになっていたのね。飼い主も仕事に遅刻しそうな時は慌てて着替えるから、服があちらこちらに脱ぎ捨ててあるわ」
経験を交えて同調します。
「果たして間に合ったかしら?今頃、元気に鳴いているといいわね」
ぐーちゃんは、まだまだ辺りに鳴いているセミのいるだろう木を見上げながら言いました。
「そのセミ、その感じだと慌てん坊だろうからきっと焦って鳴いているね。もの凄く早口で鳴いてたりして」
そう言って、きゅん君が、
ミンミンミンと早口のセミのマネをします。
思わず笑った、ぐーちゃんも、ミンミンミンと、
きゅん君に合わせてマネをします。
しばらく、ミンミンミンと、ふたりマネをしていると、
辺りのセミもそのテンポにつられたのか、
ミーンミーンミーンがミンミンミンと、
何だか早く鳴いているように聞こえてきました。
「これはよくないわね。セミさんたちったら、ぐーたちにつられて早口になってきているわ」
ぐーちゃんが困ったように、きゅん君を見ます。
「じゃあ僕たちもゆっくり鳴こう。そうすれば、またつられてセミも元のテンポに戻るよ」
そして、きゅん君は、ゆっくり、
ミーンミーンミーンと鳴きました。
ぐーちゃんは、木の中にいるだろうセミたちに訴えます。
「セミさんたち、この夏はありがとう。おかげで、ぐーは楽しかったわ。もうすぐ夏は終わっちゃうけど、ゆっくり、落ち着いて、思いの丈を、存分にぶつけて鳴いて下さい。別に秋になって鳴いていても、ぐーは一向に構わないわ。だからあせらないで慌てないで、お願いします」
ぐーちゃんの気持ちのこもった話が伝わったのか、
辺りは、ゆっくりゆっくりとしたセミの大合唱が、
いつまでもいつまでも続きました。

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