
秋の風のように
気がつくと、いぬうた市に秋の風が吹いています。
ちょっと涼しくて爽やかな秋の風です。
そんな風を只今、きゅん君はドッグランで感じています。
本日は散歩代わりにママが、ぐーちゃんと共に、
車で連れてきてくれたのです。
日陰が少ないドッグランは、ここのところ暑くて久しぶりです。
今日は平日なので人もわんこも、きゅん君たちだけの、
入場するやいなや、ドッグランのど真ん中に、
すっく!と立って、まず風を存分に味わう、
きゅん君、
近くで、きゅん君が走るのを、今か今かと、
待っている、ぐーちゃんに向かってこう言いました。
「決めた。決めたよ。ぐー。何って、僕の今日の走りをさ。僕くらいの走りのスペシャリストともなると、ただやみくもに走るだけではダメなんだ。毎回毎回にテーマを持って走らないと。それで、じゃあ、今日のテーマは何か?って。よくぞ聞いてくれたな。ぐー。では発表しよう。今日のテーマはだな。秋の風のように走る。だ。素晴らしいだろう。ぐー」
「ぐー、何も言ってないけど」
そう、きょとんとする、ぐーちゃんを無視して、
まだまだ、きゅん君の話は続きます。
「何?何?秋の風のように走るって、どうゆうことかって?ぐー。それはだな。秋の風は爽やかだろ。だから爽やかに走るんだ。あとはこれはテーマとは別に、どんな時も優雅に走るんだ。僕くらいになると。これは経験がなせる術だな。一長一短ではとても出来ないだろう。全ては僕の余裕の走りが優雅さを生む訳で」
まだまだまだその話しは続きそうですね。きゅん君。
ぐーちゃんなどはとっくに見切りをつけて、
ひとりで楽しく走ってますよ。
しかし、そのことに気付かない、きゅん君、
ぶつぶつと何かを言っては時折笑ったりしています。
秋の風に吹かれながら。
と、その時のことでした。
今まで、きゅん君たち以外には誰もいなかった、
このドッグランに飼い主さんと共に、
とっても、とっても大きなわんこが入ってきたのであります。
そのわんこは入場するとすぐにリードを外されて、
そのタイミングで一気に走り出しました。
それもまるで、きゅん君を目がけるように。
「わー、何だ、何だ!」
と、わんこに気付いて大声を上げる、きゅん君。
わんこはもう、きゅんとの目前です。
「わー!来るなー!来るなー!ちょっと僕が苦手なタイプの犬だあ!」
と言いながら、必死に逃げる、きゅん君。
一方のわんこは、きゅん君が遊んでくれていると思って、
喜んで、きゅん君を追いかけます。
なので、逃げるしかない、きゅん君。
その姿は先程言っていた爽やかとか優雅とか余裕などは、
みじんもなく、ドタバタと慌てふためいて、
「わー!わー!」とカッコ悪くただただ逃げ回るだけで、
そんな、きゅん君をはために見て、ぐーちゃん、
「あれこそが、きゅんの本来の姿ね」と、
思い切り笑い転げるのでありました。