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いぬうた市を吹く風は
「むわー。むわ。むわ。むわ。むわー」
あら、いぬうた市の、きゅん君、
そんな眉をひそめて、そんなこと言って、
それは何かのマネですか?
とは、只今早朝、ぐーちゃんとママと散歩に出かけるべく、
ちょうど家を出た途端に、むわー。とか言い出したので、
聞いてみたのですが、その、きゅん君の答えとは、
こんなことでした。
「ええ?これが何の擬音か分からないの?まさしく今の、いぬうた市の重たい空気そのものの音だよ。この不快な湿気たっぷりでほとんど風のないこの感じ、蒸し暑い、今のこの感じにぴったりじゃない」
なるほど。今の、いぬうた市の空気の雰囲気の擬音ですか。
確かに言われてみれば、むわー。な感じですね。
それが気に入ってマネをしてみたのですか?
「な訳ないじゃん。真逆だよ。真逆。僕のこの眉をひそめてるので分からないかな。もう勘弁してよって意味じゃないか」
それは失礼しました。
せっかくママが涼しいうちにと、朝早く出たハズなんですが、
夏の暑くなり方はナメたものではないですね。
陽もまだちゃんと出てないのに、この暑さですから。
「本当だよ。何だよ、このたまに吹く風、ただ生ぬるいだけで、爽やかな、いぬうた市に吹く風に全然相応しくないよ。こんな風からの空気吸っていたら、すぐに舌が出て、ハーハーと呼吸が荒くなるさ。ほら、僕の隣を歩いている、ぐーみたいに」
と、きゅん君、隣の、ぐーちゃんを例えにして、
今の不快さを訴えましたが、
確かに、ぐーちゃん、先程から一言も発していませんね。
きゅん君の言う通りに、舌をだらんと垂らして、
暑そうな雰囲気が漂ってきます。
そんなところ、ちょっと聞いてもいいですか?
ぐーちゃん、やっぱりその感じだと、
早くも暑さにまいっているんですか?
「へぇ、今、もしかして、ぐーに話かけていらっしゃるかしら?」
そうですよ。ぐーちゃんにですよ。
大丈夫ですか?ぐーちゃん。
頭、働いていますか?
「それは、ぐーの頭さんに直接聞いて頂きたいわね。ぐーは今、それどころじゃないのよ。ぐー、ぐーのベロさんが出たがって出たがってしょうがないから、ぐー、ぐーのベロさんとケンカをしてるのよ。ほら、また、ハーハーだなんて言ったりして、ぐーは今、ハーハーだなんていいたくないんだから」
何だかよく分からないんですが、ぐーちゃん。
「ぐーは暑過ぎて頭が混乱してるんじゃない。まあでも仕方がないよなあ、こんな感じじゃあなあ。頼むから、いい風が吹いて欲しいよね」
と、きゅん君は言います。
でもだったら、きゅん君がせめて風を、
起こせばいいのではないですかね。
「なるほど。その手があったか!ぐー、喜べ。僕が風を起こしてやる!」
と言うなり、きゅん君、隣の、ぐーちゃんに向かって、
フーフーと息を吹きかけました。
「どうだ。涼しいだろう、ぐー」
と、やってやった感いっぱいの、きゅん君に、
ぐーちゃんは、
「ちょっと、きゅん!何やってんのよー!気持ち悪いじゃない!生暖かくて、ただでさえ不快さんなのにー!」
って、言い放って、きゅん君に飛びかかります。
とうとう不快さが怒りに変わったのでしょう。
そしてそのまま道の真ん中にも関わらず、
ふたりバトルとなって、そのヒートで更に、
ハーハーと息は乱れ、散歩開始直後にして、
もうとっても暑くて暑くてたまらない、
きゅん君と、ぐーちゃんなのでありました。