梅雨の時期の夢
「今晩はね。支配人さん、ぐー、リクエストがあるの」
と、突拍子に、いぬうた市の、ぐーちゃんがこう言いました。
言われたのは、ぐーちゃんの夢の国の支配人です。
この方は、ぐーちゃんが夜見る夢を、
一斉管理している方なのですが、
ぐーちゃんはことのほか、自身が見る夢の内容には、
とても厳しく厳選していて、なので月頭には、
その月に見る夢の予定を決める会議などが行われて、
そこでだいたい月スケジュールが決まるのですが、
たまに、ぐーちゃんから突発的に今晩のように、
急なリクエストもあったりして、その時は、
夢の国の支配人の名にかけて、何としても応じるべく、
頭を一気にフル回転させ、その分、緊張感も走ります。
「そうですか。リクエストですか。分かりました。出来るだけのことはさせて頂きます。で、ぐーちゃん、今宵はどのような夢をご所望されますか?」
そう、支配人が覚悟を決めて、ぐーちゃんに聞くと、
ぐーちゃんはそんな支配人の気持ちなどつゆ知らず、
それどころか、待ってました!とばかりに、
リクエストをします。
「今の時期は梅雨さんじゃない。だから、ぐーね。シトシトとお外にお雨が降る中に見る、ちょうどいい夢を見たいのよ」
支配人は、なるほど。と思うと同時に、
ひとつ疑問を口にします。
「ぐーちゃんのその気持ちは分かりますが、今は梅雨といっても現実はおよそ梅雨らしくありませんよ。シトシトと降る雨など最近降ってませんし、今も降ってませんし」
との支配人の言葉に、
「だからよ!だから、ぐーはシトシトさん夢が見たいのよね。シトシトさんを願いたいの。?シトシトさんと眠りたいし、シトシトさん気分になりたいのよ」
と訴えた、ぐーちゃんの気持ちがこれでよく分かったので、
「なるほど。ではちょっとお時間を下さい」
と言ってから、目を閉じて、必死に頭を働かせて、
思いついたことを口にする支配人です。
「どうでしょう?ぐーちゃん、こうゆうのは。シトシトというのは、しっとりと、水気を感じながらも、静かで爽やかな雰囲気があります。なので、月明かりの下、湖の上に浮かんだボートに揺られている、ぐーちゃんというのは」
咄嗟に思いついたわりに、自分でもいい!と思った、
支配人は自信たっぷりに言いました。
「いいじゃない!それでいきましょ!」
と、一発で支配人のアイデアを気に入った、
ぐーちゃんは、
ただちに夢の中に入ることにしました。
数分後、ぐーちゃんは支配人の、
アイデア通りの夢の中にいました。
ぐーちゃんの寝顔は願いが叶ったのもあるのか、
とても満足そうで穏やかです。
そんな、ぐーちゃんを見て、
支配人も胸を撫で下ろしましたが、
そのうち、あれ、ひとつ何か足りないことに気づいたのです。
「そうだ。シトシトが足りないんだ。実際に、ぐーちゃんの夢の中では雨は降ってないからだ。しかしここで雨を降らせたら、ぐーちゃんが濡れてしまう。一体、私はどうしたら?」
そこで考えた支配人、シトシトと、
自分でつぶやきだしたのです。
ぐーちゃんの耳元でささやくように、シトシトと。
すると、どうでしょう。
ぐーちゃんの寝顔がより穏やかになって、
やっとこれで、今晩もいい仕事が出来た!
と喜びにひたる、仕事熱心で、ぐーちゃん思いの、
ぐーちゃんの夢の国の支配人などでありました。