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ママと話が出来たら

いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんは、
わんこですから、人間と会話をすることは出来ません。
なので、ふたりは何とかジェスチャーで身振り足振り、
がんばって飼い主やママに伝達することもありますが、
その方法にも限界があります。
いつもは別に会話出来なくても、
ママはそんなことは関係なく、
たっぷり愛情を注いでくれるので、
特に会話の必要性などは感じないのですが、
たまに思うことがあります。
ママと会話が出来たら、どんなにか楽しいだろう。と。
そして、きゅん君と、ぐーちゃんは、
よくその事について話すのでした。
ママと会話が出来たら、どんな会話をしようか?
想像はどんどんふくらむ、ふたりです。
「ぐーはママと好きなオヤツについて話してみたいわ」
ぐーちゃんは、そんなあどけないことを言ったりします。
「ママは人間だから僕らとは好みが違うと思うよ」
と、きゅん君が言っても、
「きゅんは男子だから分からないのよ。ぐーとママは女子だから、女子はオヤツトークが好きだから、そこには犬も人間も関係ないわ」
ぐーちゃんは、そう信じているようです。
「僕は、ママとお互い好きなところを言い合うんだ。僕はママの優しいところが好きだから、はっきりそう伝えたいな。それを聞いたママが喜ぶ表情を考えるだけで、わくわくしてくるよ」
甘えん坊らしい、きゅん君の発言です。
「ママの言っていることは何となく分かるんだけどね。いかんせん僕が人間の言葉を話せないからね」
あらら。そう言った、きゅん君はしゅんとしてしまいました。
ぐーちゃんも、きゅん君に引きずられて、
元気がなくなりそうになりましたが、
そこで、ぐーちゃんは名案を思いつき、
すぐに元気が復活しました。
「ぐーが人間の言葉が話せないんだったら、ママに犬の言葉を覚えてもらえばいいのよ」
そう言うと、即実行とばかりに、
ママのところに駆け寄って行きました。
ママは家のダイニングルームのテーブルにいました。
ぐーちゃんはママの前にどかんと座り、
目で必死に訴えます。
わんこの言葉はテレパシーみたいなものです。
心の中でビジュアルを具体的に作って、
それを相手に伝えるのですが、
それをママに教えようとする、ぐーちゃんです。
ママは、ぐーちゃんのその様子を、
笑顔でずっと見てくれています。
ぐーちゃんはそんな、ぐーちゃんなりの、
わんこの言葉のレッスンを、
その日から、毎日毎日、根気よく続けるのでした。
ある夜、ぐーちゃんは夢を見ました。
ママが、わんこの言葉をすっかり覚えて、
楽しく、あれやこれやと会話する夢を。
朝起きて、隣で寝ていた、きゅん君に、
開口一番、報告します。
「きゅん!ママが犬の言葉を覚えてくれたよ!ママとおしゃべりしたんだよ!」って。
きゅん君は眠い目をこすりながら、ぐーちゃんに尋ねます。
「よかったじゃん、ぐー。で、何を話したの?」
「えへへ。それはね」
と、ぐーちゃんが、事細かに話の内容を、
説明してくれるのを聞きながら、きゅん君は、
そういえば、僕はママと夢の中では、
しょっちゅうおしゃべりしているな。
と気付きましたが、その事は、ぐーちゃんには、
内緒にしておこう。と思う、きゅん君です。

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