ミッシング・チャイルド・ビデオテープ レビュー(ネタバレあり)


公開:2025年
監督:近藤 亮太
脚本:金子 鈴幸
総合プロデューサー:清水 崇
製作:日本
評価:Filmasks ★3.8 (1/25現在)



あらすじ

 主人公・敬太は、とある山で一緒にかくれんぼをしていた弟・日向が失踪してしまったという過去を持つ。13年経っても弟は見つからず、敬太は行方不明者を探すボランティア活動に参加するようになっていた。
 そんな彼のもとに、実家の母親から古いビデオテープが送られてくる。そこには、日向が失踪する瞬間の不気味な映像が記録されていた。敬太の同居人であり霊感のある司は、このビデオテープを燃やすか捨てるよう敬太に忠告するが…。


映画的な話

 この映画は、テレビ東京系列ドラマ「イシナガキクエを探しています」にて、演出を手がけた近藤亮太の初の監督作品です。2022年・第2回日本ホラー映画大賞にて、大賞を受賞した短編映画を自ら長編映画化したホラー映画で、総合プロデューサーとしてJホラー界の巨匠である清水崇も参加し、「ノーCG・ノー特殊メイク・ノージャンプスケア」を謳い文句に公開されました。
 
 これは映画というよりも、限りなく「怪談話」に近いなという印象。ストーリーの先が見えないというか、何が起きてるのか、何が怖いのかを意図的に覆い隠すような脚本、不安や不快感を煽るカメラワークやビデオテープの映像など、とにかく観客の想像力を無理やり掻き立てるような演出に特化しています。この想像力というのが怪談話を聞いているときのゾワゾワする感じと同じだと感じました。
 近年、梨さんや背筋さんを筆頭に「読むホラー」がブームになっています。今作の監督である近藤亮太を生み出したテレ東のホラー作品などとも併せて、「現代ホラー」と総称されることもあります。現代ホラーの特徴は、今までのホラー作品にはない『余白の多さ』だと思います。この余白というのは、ストーリーにおいて製作者が意図的に明言していない部分です。この余白があると、解決されていない謎や説明のつかない恐怖が浮き彫りになり、観客ないし読者が余白に思いを馳せることでモヤモヤとした理不尽さや陰鬱さを強く感じるような仕掛けになっています。これが怪談話と同じ仕組みだと思います。
 今作もまさにそうで、謎が謎を呼んで巨大な深淵に様変わりしてくる脚本、「今なんか映った?」と思わせるような湿り気のある演出や編集など、恐怖の中で想像や考察がじわじわ肥大していく感覚が素晴らしかったです。映画としての試みはかなり新しく前衛的なのですが、個人的には昔懐かしい「洒落怖」を読んでいるときを思い出して、どこかノスタルジックな感じもしました。

 今作が怪談話みたいで、その怪談というのは最近流行りの想像や考察を掻き立てる仕掛けがあって〜、という話を長々したのですが、これが伝統的なJホラーとかなりマッチしていました。Jホラーと言えばとにかく湿度が高くて、日常のシーンでもどこか不気味な映像で、恐怖だけでなく絶妙な不快感があるのが印象的です。ここに膨大な余白が乗っかってくるので、ぎゃーと声が出てしまうような怖さではなく、脳の奥のほうをザワザワと撫でられる怖さ、勝手に自分にも恐怖が介入してくるというか、そんな恐怖が体験できます。フィクションだとわかっていても、恐怖が自分の身にどんどん近づいてくるのではという不安、どこか現実と創作が曖昧になる感覚もJホラーならではの質感だと思います。この辺りは、モキュメンタリーを得意とする監督の強みですね。ジャンプスケアはないけど、この映画はホラーが好きすぎる人に是非観てほしいです。

 あと、中盤で俳優の吉田ヤギさん演じる男性が過去に自分が体験した出来事を語るシーンがあるのですが、このシーンがとにかく素晴らしい。彼が話してるだけの映像が流れるだけのシーンにもかかわらず、「なんかやばい話を聞いてしまった」感が異常で、このシーンから一気に映画全体の恐怖が加速します。演技はもちろん、恐怖を掻き立てる話し方が上手いんですかね。ここだけを観るためにまた劇場に足を運ぶ価値があるくらい、ぐっと引き込まれる恐怖がありました。


感想(ネタバレあり)

 めちゃくちゃよかったです。
 前世から続くなんらかの因果ではないかと疑うくらい普段からホラー映画を観ているのですが、自分の未開拓の恐怖を見つけることができて純粋に感動というか脱帽です。かなり前のめりになって観てしまいました。何かがじわじわ迫り来る恐怖や、考察しがいのあるストーリーに魅了され、そもそもモキュメンタリーホラーが好きなので、ビデオテープの映像が流れたシーンとかはもう最高でした。

 しかしながら、Twitterなどで感想やレビューを観ていると「惜しかったな〜」みたいなコメントが散見されました。映画.comのレビューも★2.7で、やや低めな評価です。その理由としては、ぼんやりしているとか観客に(解釈を)投げすぎ、観ていて飽きるという意見が多いようです。
 確かに、「結局何なの?」というところは作中でほぼ明らかにされず、また、余白を持たせるためとはいえ説明不足な箇所があったり、ザ・ホラーなシーンはかなり少なめなのでやや冗長な印象を受けてしまうかもしれません。個人的には、人智を超えた説明のつかない怪異とか、謎が明らかにされないことから生じる理不尽さがこの映画ないし現代ホラーのよさだと思っているので、この部分に好みがわかれるのかもしれません。「見せられるのはここまでですよ」とでも言わんばかりにフワッと終わるのとかもよかったと思います。「よくわからないから怖い」という感覚とか雰囲気が好きな人は十分に楽しめるはずです。ぼんやり感は否めませんが…。


考察的な話(大ネタバレあり)

 あらすじ以外の情報を全くインプットしていない状態で観たのですが、詰まるところ強大な怪異というか呪いに誘われてしまった、というオチは予想できませんでした。説明がつかないものに囚われてしまうっていうのが一番怖いですよね。どうしようもないから。
 「山」というのが全体を通しての大きなキーワードで、恐らく「2階」というのもそれに付随するキーワードなのではないかと考えています。敬太の実家の2階、例の施設の2階など、とにかく2階が山にアクセスするための経路になっていたのではないでしょうか。2人が住んでいたアパートも2階、宿泊した旅館の部屋も2階でしたね。だから司も旅館の息子も、あのようなラストを迎えてしまったのでしょうか。
 アパートも2階だったので、最初から敬太も司も山に誘われていた可能性もありますよね。そもそも敬太は運命というか敷かれたレールの上だったとして、霊感のある司はどこまでわかっていたのでしょうか。敬太ではなく司が連れて行かれた理由も釈然としない。でも、最終的には「山」によって敬太をおびき寄せる媒体になってしまったと思うと、理不尽で逃げようのない恐怖がありますね。
 あと、「なぜビデオテープやカセットテープという記録媒体を経由すれば施設があることを証明できたのか」がはっきりしないですね。タイトルに「ビデオテープ」とあるし、その辺りがもう少し詳細に描かれていれば謎に近づけたのかもしれません。それらの記録物が、「山」が準備した敬太を連れ戻すための材料だったから?というのが自分なりの見解ですが、強い呪いの前にはそこまで意味のないことなのかもしれません。映画「リング」でも、ダビングしたやつならOKの理由も明かされていませんでしたしね…。もう2回くらい観ればいろいろわかってきそうです。短編のほうも観てみます。


まとめ

・映画というより「怪談話」
・想像力を掻き立てる不穏な演出が素晴らしい、Jホラーの新たな進化
・「よくわからない恐怖」という解釈に好みがわかれる可能性あり

おわり

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