香港とレスリーチャンとMy little airport、愛しているよ
先週、仕事を一日さぼって香港旅行に行ってきた。
通勤用のリュックに旅行の荷物詰め込んで出勤した時の気持ちよさと言ったら。退勤後直行香港。前の晩はちゃんとレスリーチャン様の大三元を鑑賞した。愛してるよレスリーチャン。イケメン純朴モテモテな神父のレスリーチャンがありがたくて会いたくてアーメン。
今回の旅行の目的はMy little airport(以下MLA)の20周年ライブ。MLAは私のバイブル、今の私にとって1番かっこいいアーティストでここ数年はとにかく聴きまくった。彼らの歌詞は主に広東語と訛った英語やフランス語たまに中国語本当にたまに日本語などが混ざっていて耳に面白い。まさに香港社会。私はハードな音楽を聴く体力がなく、インディーズポップか身体に影響の少ないオルタナティブばかり聴いてきたから、MLAを見つけたときはやっと私のための音楽を発見できて感慨深い気持ちになった。MLAのメロディーは気だるさと湿気で出来ていて、ラフで力が抜けていてそしてちょっとドリーミングで懐かしい雰囲気なのが最高。寝起きでもスッと身体に入る。2ヶ月前の仕事中、トイレでMLAのライブを何気なく調べた勢いでライブチケット購入した時の興奮といったらなかった。淡々と過ぎる日々の中で、たまには衝動的に行動しておかないとやっていけないよ。
香港の湿気と熱気を期待して気合いの半袖で向かったが、颱風の影響なのか台北と変わらず涼しかった。どこもかしこも秋めいちゃって寂しい。香港島へ向かっていくと、街が本当に写真集や本の知識として知っている景色で興奮した。ペンシルビルの住居が地面に突き刺さって天高く聳え立ち、風水を遵守した鏡張りのオフィスビルが所狭しと並んでいた。鏡はなんでも取り込んじゃうらしく、鏡の中にいる(何か)が出てくるのが怖くて私は晩には鏡を外向きに置いて寝ている。香港はきっと街のエネルギーでかすぎて、ビル全体を鏡張りで結界を張って保護しないとだめなんだな。文武廟の背後に取り囲むように高層マンションが並んでいるのを見た時には、これは果たして風水的に良い構成なのか疑問に思った。香港の高層マンションは圧倒される細さと高さだ。見上げたどれかの部屋は、一部屋をさらに細かく分割して人が住んでいるんだと想像するとなんだかもう圧倒される。
香港の地下鉄の雰囲気はロンドンそのものでなかなかかっこいい。地下鉄の壁には正方形の細かいタイルが貼られていて駅ごとに色彩が異なる。調べてみると70年代から今のようなデザインになっていて、駅ごとにテーマの色が決められているようだ。私の想像する90年代までの香港に触れられるようでそっと撫でてみた。地下鉄で驚いたのはエスカレーターの速度が異常に速いことだ。私が田舎者であることを差し引いてもとても速くて乗るたびに楽しかった。ディズニーで最も遅いジェットコースターくらいの速さはあった。香港のどこもかしこも24時間動き続けているようだった。MLAの曲で「香港是個大商場」(香港は巨大なショッピングモール)というアルバムがあるが、まさのその通りで軍艦島のように街全体がひとつの巨大なまとまりだった。きっと現在の香港は全盛期よりは落ち着いているから、さらに盛り上がっている当時の様子を想像しながら歩いた。
開演の1時間前にMy little airportのライブ会場に着いた。そういえば海外でライブに行くことは初めての経験だ。会場には私が想像するよりも20代がとても多かった。MLAを好きな人たちを見るのもワクワクして嬉しかった。ライブはそのアーティストを好む人達の輪郭が掴めるから楽しい。ライブでは大きなスクリーンに歌詞の字幕が付けられていた。MLAのメロディーは緩やかだが、字幕に映し出される歌詞は全く緩くない。MLAは香港が1997年に返還された後の世界を生きる香港人のリアルを歌ってる。歌詞に出てくる人は恋をしていてもなんだか諦め姿勢だったり、仕事はだるいし低賃金で、小説や神話の一節を引用してみたり、自分はちっぽけな存在だと考えてみたり、200年後の遠い未来を想像したり、終わりに向かう香港のためにデモに出向いたり、明日捕まるかどうかわからない世界で生きていたりする。どん詰まりだけどでも確実に自分たちよりも大きいものに立ち向かってる。でも未来は不安定極まりなくて、だから不安で移住しようかとも考えているしマリファナ吸ったりもしてる。MLAの歌詞は何も美化しないでリアルで痛烈で、生活と社会と政治が一直線で繋がっていることが詩的にわかる。本当に大好き。最高だった。ボーカルのニコルが手で何かを手繰り寄せるように歌っていて見惚れた。本当に最高だった。
何年も前にもう会わない母のパートナーと喧嘩したことがある。彼はとても優しくて賢くて私をよく励ましてくれて、ベイマックスと同じフォルムをしていた。彼は中国人と日本人のハーフだったがあまりルーツについては話さなかった。 2020年末に、2019年の香港のデモに密着したドキュメンタリー「香港画」を見て私はひどくショックを受けた。多い時には200万人がデモに参加して民主化を訴えていた。警察は催涙弾や実弾の発砲を用いて制圧していた。香港の人々が理不尽に攻撃されていてただただ意味がわからなくてショックだった。ある時私は軽い気持ちで彼に香港はただそのままでいたいだけなのになぜあんな非道な方法で制圧する必要があるのか聞いてみた。彼は私にデモの制圧は必要なことで警察はするべきことをしただけだと言った。私はずっと仲良くしていた人が急に理解できないことを言い出してびっくりした。本当によくわからなかった。彼には彼の考えがあったんだと思うが、私は人が人を傷つける行為が正しいとは思えなかった。そこから私と母のパートナーは口論になり最終的に彼は泣き出して、「君のような若い人がこの世を変えていってくれたらな。」と言った。ライブでMLAの音楽を聴きながら彼の言葉を思い出していた。
最後の夜、ビクトリアハーバーの遊覧船に乗って香港の摩天楼を眺めにいった。激しい雨で立ち並ぶビルの輪郭は見えなかったが、ぼんやりと浮かぶビルの明かりが幻想的でむしろ良かった。遠くからぼやっと見るくらいがいい。ホテルから見える高層のオフィスビルは夜中でも煌々と光っていて、誰かが労働しているのを想像して辟易とした。
終わり!