ルポ:デパートにストーカーされる女
うだるような暑さが続く8月某日、ある緊迫した声の女性から一本の電話がかかってきた。
どうやら何かに怯えているようだ。
女性「もしもし?!坂口さん?!」
てんすぴ「いえ違います」
女性「そうか…やっぱり先日おたくの電話に出た坂口という男はスパイだったんだ…」
弊社には元々、坂口という男性社員はいない。
もちろん、てんすぴの記憶が何者かによって抹消されていなければの話だが。
てんすぴ「どうされました?」
かなり怯えた様子だったので、なるべく刺激しないように優しく声をかけた。すると、女性はとんでもない事を口にしたのだ。
女性「私ね、デパートの三〇と伊〇丹からストーカー行為を受けてるのよ」
ここで、転職して数ヶ月で身につけた秘技、「いったん受け入れる」を発動する。
てんすぴ「そうなんですね…」
女性「そう、この電話も盗聴されているし、部屋中カメラで監視されてるの」
てんすぴ「大変ですね…でも、何故そんなことに?」
普段ならあまり深追いしない案件だが、てんすぴは飢えていた。
もっとみんなに面白い話を提供したいというエゴが、てんすぴを動かしてしまったのだ。
女性「私、若い頃にデパートで派遣をやってたの。そしたらすけべオヤジたちが寄って集って私に不倫を申し込んできて、とっても気持ち悪かったわ!」
てんすぴ「はぁ…」
この女性の推定年齢は6〜70歳前後。
たしかに、高度経済成長期のバブリーな時代に商業施設の人達がワイワイよろしくやっていた話は聞いたことがないわけではない。
ちなみに私が昔聞いた衝撃的なやつは、キ〇スクで買おうとしたらカウンターの中で店員と運送会社の人が繋がっ
話が逸れてしまった。
要約すると、その女性はデパートから不当解雇され、それ以来スケベおやじたちからストーカー行為を受けているらしいのだ。
女性「警察に言ったけど、警察もスパイだから機能しない、鉄道会社もスパイだから私がどこへ行くか監視しているの。インターネットも買い物できないようにされている。」
てんすぴ「そうなんですね」
女性「本当に迷惑なのよ。すけべオヤジだから、パンツもちょっと使ったらすぐに穴を開けられちゃうの。」
(あ、それなら私のおかんもデパートにストーカーされてるわ。)
てんすぴは深追いしたことを後悔しながら、女性をひたすらなだめ続けた。
時間は10分、20分と過ぎてゆく。
残業確定である。
女性「貴方の名前を聞いたら今度は貴方に迷惑がかかるから聞かないわ。どうか、私を救うよう宇宙の高次元のナントカ様に伝えて貰えないかしら?」
え、だれ?
突然の固有名詞に驚きを隠せないてんすぴ。
でも、まぁ、いいか。
てんすぴ「かしこまりました!伝えておきます!」
こうして今日もまた、一人の女性を安心させることが出来た。
もしかしたら、坂口という男が本当に存在していて、彼女に名前を言ったから
世の中からも皆の記憶からも抹消されてしまったのかもしれない、という疑惑を残しながら……。
~完~
追記
そのあとすぐこの女性から電話が掛かってきて、
「横〇めぐみさんを返せ!!!!」と罵声をあびせられて一方的に切られました。
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