夏の訪れ
終業式を終え、誰もいない家のダイニングテーブルに通知表という名の3ヶ月の行動をどんな意図を持って生きていたのかよりもただ単に勉強の成績だけで周りと比べられて数字にされただけの表を投げつけ、制服から夏の装いへ。
今年新しく買った水着。数週間頑張ったダイエット。目標達成とはいかなかったけどこの日が来てしまったので仕方ないなどと思いつつもちょっと悔しい。水着の上から先週テスト帰りに買った真新しいブルーのワンピースを着て、ポニーテールをお団子に結い直し、少し長くなった前髪をピンで止め、前日のうちに用意しておいたバックを持って、サンダルにサングラスを持って自転車に飛び乗った。
自転車をいつもの駐輪場に停めて電車に乗り込む。
平日の丁度お昼時。東京駅を過ぎた電車内ははスーツ姿の人からテスト中の大学生、終業式終わりの高校生のグループなどがまばらに乗っている。
貴方が途中で乗ってきて、さらに1時間程電車に揺られる。一緒に乗り換えてさらに一駅。
緑とクリーム色の小さな車体。電車を降りると住宅街の中だ。白い壁の細い路地の住宅街の中。屋根と屋根の間からどこまでも吸い込まれていくような濃い青の空に肌に刺さるようなギラギラよりはジリジリという言葉が合う西日の紫外線の痛さとその奥に見える白い雲は教室の机に積み上がった宿題のプリントの山のようだった。
路地を進んでいく。
私は貴方の少し後ろを歩く。
買ったばかりの8センチの厚底のサンダルはまだまだ私の足には馴染んでいなくて速くは歩けない。貴方は私が歩くのが遅いのに気付かないから少し先に進んで行ってしまって。だから私も時々早足になっておいて行かれないようにする。
追いついてもまた少し早く進んでいってしまうからポロシャツの裾を少し引っ張る。
「荷物ほら。」
と私の荷物を持ってくれる。
「ほら、早く」
と私を速く歩くように促す。
そんなに背は大きくないけど広い貴方の後ろ姿。貴方の後ろ姿が見れることすら嬉しさを感じてしまう。
それは貴方に恋しているからなのだろうか。
貴方の話を聞いていると、私が貴方の隣に並ぶにはまだまだなのだなと思い知らされるけれど。
いつか手を繋いで隣を歩けたらいいな
なんて思ったり。
そんなことを思っているうちに路地を抜け、道路の前に大きく広がった海。
"夏が始まる"
そんな予感と共に私はもう一度大きく息を吸い込んだ。