日本のエネルギー政策の視点に欠けているもの
最近ようやく、日本の建築物の断熱性が取り上げられるようになってきた。日本の建物の断熱性は「粗悪」といっていいレベルで、欧米よりもはるかに遅れている。
特に住宅は、なんだか夏対応というのが日本のスタンダードくらいに思われていて、窓際が寒くてこたつからでられないようなものになっていたりする。
でも、これは脱炭素化に前向きな人たちですら、感覚的に欧米に遅れているというのが日本の現状なので、どうかと思ってしまう。
日本人(とくくってしまうのはいやなのだけれど)は、あることに集中してしまうと、広い視野が持てないのかな、と思ってしまう。再エネばかり推進して省エネが置き去りになってきたということだし、断熱というのもエネルギー政策としてしか見ることができていない、ともいえる。
例えば、窓の断熱性を向上させるために、補助金をつかって更新を促進していくことは必要だし、住宅の屋根に原則太陽光発電を必須とすることも必要だと思う。
でも、それだけじゃないとも思う。
ここでは2つのケースを紹介したい。
日本の建物は、新築のみならず既築もせめて窓断熱をしていくべきだと思う。それだけでどれほどエネルギーが節約されるだろうか。
もっとも、窓断熱の改修が進まなかったことには理由がある。窓断熱改修をしても、なかなか投資回収ができないという現状があるからだ。とはいえ、エネルギー価格が上昇し、将来的にカーボンプライシングが導入されれば、相対的にコスト回収がしやすくなる。それを早めるための補助金というのは、ガソリンや電気代にたいする補助と比べると、はるかにましなものだ。
でも、では投資回収だけで窓断熱を進めればいいのだろうか。そうではないと思う。
公営住宅やUR,あるいは低賃料の集合住宅は、そこから漏れてしまう。そもそも、光熱費を節約している低所得世帯にとって、窓断熱にお金をつかっても、コスト回収はなかなかできるものではない。
しかし、光熱費の削減を本当に必要としているのは、こうした人たちではないだろうか。年金だけで生活している人たちが、高断熱の快適な住宅政策から取り残されていいという理由はない。
せっせとコマーシャルしているURだけども、国の住宅政策として、断熱性の向上はしっかりとりくむべきだ。
エネルギーの面では投資回収はできないけれど、健康的な生活を提供することにはなる。あとは、削減できたCO2を自治体なり政府なりがクレジット化して利用すれば、多少はコスト回収ができるかもしれない。
これがなぜ欧米より遅れているのか。
欧州のグリーンリカバリー(ごめん、グリーンディールだったかもしれない)で最初に取り上げられるのが、建物の断熱化による省エネだ。これで建物のエネルギーは40%削減できるという。
でも、重点が置かれていることの1つは、エネルギー的に貧しい人たちへの支援である。
こうした視点は、政府や多くの政治家だけではなく、脱炭素を求める市民運動にも欠けていると思う。
エネルギーをエネルギー政策だけではなく、福祉政策という視点からも見なくてはいけないということだ。
太陽光発電推進政策も同様だ。
住宅の屋根に設置するのを必須にするのは、必要なことだと思う。けれども、誰もが戸建て新築住宅を購入できるわけではない。集合住宅はどうなのだろうか。
米国にはコミュニティソーラーというサービスがある。オフサイトで太陽光発電を設置し、みんなで使うということだ。コミュニティソーラーの利用契約をした需要家は、安価な太陽光発電の電気を使うことができる。
でも日本では、まだこうしたサービスは導入されていない。
個人的には、こうしたサービスを再エネ企業や小売電気事業者と一緒に開発したいと思っているのだけど、それはそれとして。
電気料金に7円/kWhの政府からの補助が行われるという日本だが、これはかえって住宅に太陽光発電を設置するインセンティブを阻害しないだろうか。ガソリンへの補助がEV化を遅らせるように。
むしろ、三段階料金の1段目と2段目をいかに値上げからの影響を減らしていくのかということがもっと考えられてもいいし、そこには恒久的にユニバーサルサービス料金を適用してもいいと思っている。
エネルギー価格はこの先も、安くなるとは思えない。グリーンフレーションもあるし、そもそもCO2排出のコストがずっと内部化されてこなかったことを考えると、以前が安すぎたのかもしれない。
でも、だからといって富裕層だけがエネルギーをつかえばいいというものではない。
最後にちょっと話をひろげてしまうと、気候変動問題においては、実際に国際交渉でも言及されているように、ジェンダーの問題でもあり、先住民族の問題、若い世代の問題でもある。これらはあまり日本では語られていない。
本当に、エネルギー問題はエネルギーだけの問題ではない。再エネ普及だけでは問題は解決しないし、省エネだけでも解決しない。
メガソーラー問題をきっかけとして、再エネの問題は地域社会の問題でもある、ということにようやく気付いたばかりではないのか。