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母と喋った。

母親が家に泊まった。

別に何ってことないトーク。

久しぶりに会うってわけでもないので

まったり家で過ごす。

なんとなく父親の話をした。
僕が高校卒業と同時に離婚した父親。
離婚の理由は確実に借金で
原色のシャツ着たお兄さんが家にお父さんを探しに来たこともあった。

そんな父親の話を、母としたことがなかった。

もう良い年だし、問題ないだろう。

そう思って僕は切り出す。

「18からほとんど連絡してないから分からないんだけど、お父さんってどういう人だった?」

そう聞くとお母さんは

「うーん…」

と言って固まる。
いろいろあったもんな。
そりゃ忘れたいこともあるよな。
言いたくないこともあるよな。

まだ早かったか…。

「お父さんはね、いい人はいい人だったんよね…」

僕もそのイメージがある。
父はすごく柔和で柔らかくて、優しかった。
だから頼まれた紙にハンコとか押してしまい
ややこしくなったのも知ってる。

「他はね…」

また難しそうな顔をするお母さん。

せっかくの東京でいろんなところを楽しんでたのに、申し訳ないことをしてしまった…

そう思ってたら。

「全然覚えてない!」
と行って大笑いした。

全然?
強がりじゃなくて?
本気で?

「いや、ほら趣味が釣りだったじゃん。その時とか」
うちのお父さんは釣りによく行っていた記憶がある。
「釣りが趣味?」

呆けた顔でこちらを見るお母さん。

そこも忘れてる!?

いや、俺釣り連れてってもらったよ?

そう思ってたらお母さんが言う。

「釣りの格好してパチンコ行ってたんじゃなくて?」

そんなこと、ある!?
パチンコ行くために釣りの格好、する?
ギンパラとか、海をモチーフにした台打ってたらどうするの?
コスプレなんそれ?

あまりにも父の記憶がない母。
忘れたいことがあったのではない。
忘れたのだ。
言いたくないことがあったのではない。
言えないくらい忘れたのだ。

僕は唖然としていた。

そんな僕を見ながらお母さんは、あっ!と漏らした。

「そうじゃ!シャロームってパン屋覚えてる?」
「覚えてるよ」

そこに父の何か思い出が?

「あそこのパン美味しかったなあ」

………………それだけ!!!?

父の記憶、ゼロ。
パンの記憶、イチ!

勝者、パン!

じゃあないんだよ!!

そんなお母さんだけど最後に
「まあ、あんたがいてくれるけえ何の心配もないじゃろ」
と言った。

最後、グッとくること言うなよな。

忘れたなら忘れたでいいのだ。
言えないなら言えないでいいのだ。
それくらいの事を、当時思ってたんだろう。

そんな父親とともにいながらも、育ててくれてありがとう。
これからもよろしくお願いします。

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