コラム①若い人に日本酒を飲んでもらうには

あの日以降、定期的に日本酒を飲むようになったが、友人たちと飲むことはほとんどなかった。
もしかしたら皆さんもそうかもしれないが、僕の中では「日本酒=おじさんの飲む酒/おいしくなくて二日酔いする酒」だったし、周りの友人たちもほぼ同じイメージだった。
そんな中、実は日本酒が美味しいということを僕は知ってしまった。
だけど、大学生には1杯1,000円近くする酒を積極的に飲みに行こうとはならない。
なので友人たちを誘うことはなく、定期的に1人で飲みに行っていた。

…話はそれて、たまにはストーリーだけでなく、僕の意見も述べようと思う。
これは今もいろんな取材や日本酒で事業を起こしたい、と相談に来られる方に言っていることなのだが、
「若い人に日本酒を飲んでもらうためにはどうしたらいいと思いますか?」
という問いに対しての僕の答えは決まっている。

「無理に飲んでもらう必要がない」
「そもそも、日本酒は若い人が好きなだけ飲めるお酒ではない」

この2つだ。
なぜなら先述の通り、僕もそうだったように、まず若い人には「お金がない」のだ。
1,000円飲み放題(今あるのか知らない)最高ー!な大学生や、まだ大学生の金銭感覚が残っている社会人1.2年目の20〜24歳ほどの若者に日本酒を飲んでもらおうとすること自体がおこがましいと思っている。
自分から好きで飲んでいる若い方はとてもありがたいし、嬉しく思うが、
他人が「若い人に日本酒を飲んでもらうために!」はそもそも間違えていると思う。


僕の中でのポイントは2つだ。
1.年齢(経験)的要件
2.金銭的要件

1.年齢(経験)的要件
まず彼らはもう大人だ。自分で飲みたいものくらい自分で判断できる。
とはいえ、アルコールはつい最近飲める年齢になったばかりだ。
いきなりハイアルコールのお酒を飲める人はそうそういない。
20歳そこそこの方がいきなり「…ウィスキー、ロックで…」なんてことにはなかなかならない。しぶい。渋すぎる。
だいたいがビール、カシオレ、レモンサワーなどから入り、だんだんとハイボールになったり、焼酎飲んでみようかな、ワイン飲んでみようかな、日本酒飲んでみようかな、ウィスキー/ジンとかも気になるな…、になっていく。
しかしそこで問題になるのが2つ目、金銭的要件だ。

2.金銭的要件
先ほども述べた通り、まず若い子にはお金がそんなにない。
この時点で日本酒等は彼らの選択肢に入りにくい。
選択肢に入りにくい=日本酒等も気になるな…にそもそもならないのだ。
車でも時計でもなんでもいいが置き換えてみてほしい。
フェラーリ/ランボルギーニ、ロレックス/オメガetc…
名前は知っている。

けど、簡単に買えるものではないから購入の選択肢にはほとんど入ってこない。
好きな人は詳しいかもしれないが、ほとんどの人が名前は聞いたことはあるけど、中身はほとんど知らないはずだ。
大体の人は自分が買える金額の範囲の中で興味が出てから中身を知っていく。
大学生、社会人なりたての子がこれらを購入の対象として見ることはほとんどないだろう。
それは自分の出せる金額範囲の外にあるからだ。

これは金額規模の大きい話だが、日常生活の小さい買い物でもこれは起こる。
僕はスイスのスーパーでmigrosのトップバリュー的なものしか買い物をしなかった。もちろん、それ以外にも少し値段の高いものもmigrosにも売っている。しかし、それは選択肢に入らない。なぜなら自分の購入できる許容範囲を超えているから。

お酒もこれと同じだ。
1,000円飲み放題で飲んでいた時には居酒屋で1杯800円のお酒、お店でも1本1,500円するお酒は飲もう/買おうとすら思えない。

これらが選択肢に入ってくるのは、もっと社会人経験を積んで、少しお金に余裕が出てきて買い物の水準が上がってからだ。
25〜30歳くらいからがようやくなのでは?と僕は思う。

けど、ここにもう一つ壁があって、
彼らは日本酒(に限らずアルコール度数の高いお酒全般)に嫌な思い出と固定概念があることが多い。
大学生の時に罰ゲームで飲んでいろんな後悔をしたこと、親父の飲み物的な概念、そして、憧れる大人(ドラマや周りの上司たちなど?)はカッコよくワインとかを飲んでいる。
ここでもまた、日本酒よりもワインやウィスキーの方が先に選択肢になりやすい。
理由は簡単で、「なんかよくわかんないけど、大人っぽくてちょっとオシャレでかっこいいから」だ(偏見しかない、ごめんなさい)

そもそも「罰ゲーム用のお酒」だった時点で印象はあまりよくない。しかし罰ゲーム用のお酒からの脱却は不可能だ。なぜなら自分が20歳そこそこだった時のことを思い出して欲しい。ゲームをして、手っ取り早く酔っ払うにはハイアルコールのお酒しかないからだ。
お酒を飲めるようになったばかりの年齢の子たちから「飲みゲーム」と「罰ゲーム」を奪うことはできない。奪う必要もない。いろんな失敗をしながらいろんなことを学んでいくから。
そしてそれは全世界で同じことが起きている。ハイアルコールのお酒が罰ゲーム用のお酒になるのは世の常だ。

なので、僕は、
「若い人に日本酒を飲んでもらう」ためには、30〜60代の方々に日本酒を飲んでもらう機会を増やす活動をするほうが良いと思っている。
または、若い人でも来やすい価格設定/場所の日本酒飲イベントだ。イベントの場合採算が合わなくなる。酒蔵に負担してもらえばいい。酒蔵にとっても0→1の人口が増えることは大いにプラス。
イベントのお酒代を持つくらい長い目で見たらプラスしかない。
僕の中では、定期的に渋谷の宮下パークで行っている「SAKE PARK」がその最たるものだと思う。
このイベントには日本酒を全く知らない渋谷にたまたま来ていた若者も多く参加してくれている。
まさに0→1の開拓ができる可能性が高いイベントだと思う。

前者は短期的に若い人たちへの影響は薄いが、長い目で見た時に社会人になりたての子が上司に連れられて日本酒を飲む、または、オシャレな場所に日本酒があるというイメージがある、の連鎖が生まれてくれたほうが長期的な目で見たときに効果はじわじわ効いてくると思う。

上司/先輩にあたる方々に日本酒の良さを知ってもらい、それを後輩たちに教える
結局は身近な人から教えてもらう方が効果は大きいと思う。
そして、その人たちはお金にもある程度余裕があって、ちょっと高いお酒にも手が届く。
買い物の水準には年齢的フェーズが必ずある。

若い人に日本酒を飲んでもらえたら嬉しいけれど、そのフェーズに来てから日本酒の良さを知ってもらうほうが現実的だと僕は思う。
無理に飲む必要もないし、興味が出たタイミングがその人のベストタイミングだ。

なので、僕は若い人に日本酒を飲んでもらおうと思っていないし(何遍も言うが、飲んでくれたらそれは本当に嬉しいです笑)、若い人が日本酒を飲まなくなったと嘆いてもいない。当たり前だと思っている。

これと同様、
「若い人に向けた日本酒なんですか?」
と聞かれることもある。答えは100%、Noだ。
僕もこの業界に入りたての頃は若い人に飲んでもらえるお酒を造ろうと思っていた。けどそれは無謀だと気がついた。
なぜかというと、「味覚」は年齢によって区別できないからだ。
若い人は甘いものが好き、年配の方は辛いものが好きとは括れない。
アパレルとかなら年齢による区別ができるかもしれないが、味では無理だ。「若い人に向けた味」なんてものはそもそも造ることはできない。
できたとしても、それが日本酒である必要はない。もっと手の届きやすい価格帯の缶チューハイとかのほうが若い人には向いているし、広く浸透する。
そういう意味で、大手のアルコールメーカーはすごいと思う。あの価格帯で、誰もが飲みやすいお酒を造っている。中小企業の弊社では価格や拡売で勝負することはできない。

だからこそ、自分が好きな味わいを徹底的に追求する。流行りの味でなかろうが、地味な酒だろうが、インパクトがないと言われようがなにも気にしていない。
僕が好きな味わいを雅楽代に反映させて、自分の中の100点を目指して日々努力し、改善/改良を繰り返す。

僕が造るこの味を好きだと言ってくれる人たちのために誠心誠意、酒を造る。
僕が冩樂と出合ったように、誰かの心に突き刺さる酒をいつか造りたい。

もちろんそれがうちのお酒ではなくとも、誰かの人生で、日本酒との良い出合いがあることを願っている。

コラム① 終

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